Ⅵ 秘密
第六話です。
ミリナは言葉を失った。
「天使…?アイビスさんが?」
あまり記憶には残ってないものの、まだランティスが生まれて間もなかったころに遊んでもらった記憶がある。物凄く楽しかったため、ずっと覚えているのだ。
記憶の中のアイビスは、黄金の髪に、同じ色の瞳がとても美しく、しかし、容姿とは異なり、とても元気で、一緒に走った記憶もある。
「たしかに、とてもきれいな方でしたけれど…」
「うむ。ほんとに美人だったよなぁ。なんでフレッドの嫁になんかになってくれたんだろうか…」
ダンカンも付け足すように言った。
確かにそう思う。
美しかったけれど、天使なんて、本当にいるのだろうか?
疑問に思いながらも、祖母を見た。
祖母が窓の外を見ながら、そこを通じて何かを見ているようだった。
なにかあるのかとみても、田畑が広がっているだけだ。
「おばあちゃん?」
祖母の瞳には、確信が満ちていた。
「…本当に、いるんだよ。天使様っていうのは。」
祖母は視線は動かさず、少し険しい声になって話し始めた。
「あれは、本当に、奇跡に近い出会いだったさ。」
「ほんとにのぅ。アイビスがいなかったらこのダンカン、とうの昔に死んでいたからな。」
祖母の言葉にダンカンはありがたいように言い加えた。
「え?なぜです?」
その問いに、ダンカンは半泣きで答えた。
「彼女がおらんかったら、息子には嫁もおらず、未来は真っ暗だった。わしは苦しむ息子を見たくないから、飛び降り自殺をするところだったんだ。」
………もう、何とも言えない。
祖母の言葉は続く。
「私もさ、あの娘には助けられたよ。本当に。彼女は幸運を呼ぶ天使様だったね。」
少しの間、沈黙が落ちた。
その沈黙を破ったのは、三人がいる部屋の横、玄関の扉の音だった。