Ⅰ お化けが出た!
第一話です。
ランティス、って名前、打ちにくくてただいま苦戦中であります。
王都からずいぶんと北にある、小さな村。そこに、ランティスという名の娘が住んでいた。
彼女に両親はなく、祖父との二人暮らしだったが明るい性格で村の人々とも馴染んでいた。
「おはようございます」
彼女の一日は、この一言から始まる。
最初は祖父、次は近所のおばさま連中に、馬たちに、そして、子供たちである。
朝、彼女はいつものように早起きし、朝食を作りに台所へと行く。
井戸から何往復もして水を汲んでくるのも、過酷な畑仕事にも弱音を一つも吐かずやり遂げるのを村人はいつも感心していた。
――だって、おじいちゃんは忙しいもの。
祖父は元大工でもあり、よく町に新人をしごきに行くため、何日も家を空けることが多かった。そのため、家のことはすべてできるようになった。
それも含めて彼女は誠に出来た娘だったため、隣の村からも求婚する若者が絶えなかったが、祖父が言わなかったため、彼女が知ることはなかった。
「はぁ~あ」
彼女はいつもと同じように、朝起きるとあくびを一回して、むくりと起き上がる。
祖父手作りのベットは、小さいころから使っているため、少し小さい。
立ちあがって、部屋中を見ると、ふと机の上に置いてある絵が視界に入った。
木彫りの額に入ったそれには、幸せそうな男女の絵が入っていた。二人は、まだ三つぐらいの女の子を抱いて、笑っていた。
それは、幼いころの自分と、父、母が家族である山に行った時のものらしい。
自分には、この絵の幸せそうに笑う二人が母と父、というようには思えなかった。
まず自分には、母の顔も父の顔も記憶にある気がしない。
しまった!いつもならもう朝食を作っているころだ。
急いで台所に行こうとした時、後ろから声がした。
「おはよう。え~っと…ランティス、だっけ…」
後ろを振り返ると、全身が真っ黒の男が立っていた。明らかに変な人だ。
「お前、両親に会いたくないか?」
急に変な格好をした男が現れて、記憶にも残ってない両親に会わせてやるといわれても、そう簡単に答えることができるものは少ないだろう。少なくともランティスには答えられなかった。
「おはよう、ランティス。どうしたんだい?お化けでも見たような顔してるけど??」
起きてきた祖父に話しかけられたランティスはハッとした。
「そうだ!お化けなんだわ!きっとそうよ!」