ランティスとミーナとジーク
お久しぶりです。
第十話です。
注意:今回は、あんまり進展ありません。
「すいませんっ…ダンカンさん、ランティスいますかっ?」
ミリナは、ベルを一回鳴らし、出てくるのを待たずに家に入った。
基本、ランティスの家は一日中あいている。
まぁ、村の人は誰も勝手に入ることはないから大丈夫だろうが。
ランティスの家は、玄関を超えると、居間が広がっている。
その奥に台所が広がっていて、横に小さくダンカンの自室がある。
ちなみに二階には空き部屋と、ランティスの部屋がある。
「ダンカンさん…?」
居間に入るなりダンカンが長椅子に落ち込んだ様子で座っているのを見、ミリナは驚いた。
「あぁ、ミリナちゃん…いらっしゃい」
やっとミリナに気付いたらしいダンカンは、こっちを悲しそうに見ている。
「ダンカンさん、なにかあったんですか?」
「ランティスが…」
悲しそうな顔のまま言うダンカンに、ミリナは最後まで聞き終える前に口をはさむ。
「まさか、天使のことを…?」
「ああ。全部、知ってるみたいだった。それで、天使になるって…」
「ええ!?天使になるって…??」
どうすれば天使になるのかわからないが、ランティスには何かあるのかもしれない。
「よくわからないけど、なるんだよ、あの子は天使に」
「…そうですか…」
そこで、ダンカンはまた、悲しそうに下を向いた。
「あの!ランティスに、話があってきたんですけど…」
「お別れの言葉かい?今二階にいるよ。行っておいで」
「ありがとうございます」
小さく礼をしてミリナは二階に通じる階段を駆け上がっていった。
ダンカンとミリナが話している間、ランティスは自室にてジークに天使になるについて必要最低限知っておかないといけないことを教えてもらっていた。
「…という感じだ。」
と、締めくくったジークに対し、ランティスの頭にはまだ疑問が絶えなかった。
「え?全然わかんないんけど!」
そんなランティスに、厳しい一言。
「わかんないならわかろうとしろ」
ランティスは、そんな発言に、少し困る。
「…さらっと言ってるけど、結構難しいわよ?」
困るランティスをよそに、ジークは至ってすがすがしい顔だ。
「そんなに難しくないが?今まで言ったことは天使なら子供もわかる常識だぞ」
それに、ランティスはガクッと肩が下がる。
「私、天使じゃないのよ…」
そんなランティスの言葉に、あっとしたように、ジークは付け足した。
「人間でも、賢い奴ならわかる」
それに、ランティスは今度こそ怒りを覚えた。
「ごめんなさいね。私、頭悪くて!!それ以上言うと、殴るわよ!?」
明らかに怒っているランティスに、ジークは戸惑う。
「いや、そんなつもりじゃ…」
否定の意を述べても、怒りのこもった質問が帰ってきた…
「じゃあどういうつもり?」
「えっと……」
答えに困るジークは、ふと耳を澄まして周りの様子をうかがった。
「どうかした?」
探るようなジークの様子に、ランティスも気になる。
「…足音がする…」
ぼそっと言うジークにランティスは首を傾げる。
「足音?」
「ああ。ここに向かっている――」
言いかけのジークの言葉は、甲高い女の叫びで打ち消された。
「ランティス!」
「ミリナさん?」
ミリナは部屋に飛び込みながらランティスを呼んだ。
返事に、まだいなくなってないと安堵しながらも、見た光景に思わず顔が赤くなる。
見たこともない青年が、ランティスと密着していたのだ。
物凄い近くにいながらも、全く持って平気そうなランティスと男に、ミリナは余計に想像を広げる。
(誰だろこの人…おっきい人…もしかしてランティスと…そ、そんなわけないか!ランティスだし…でももうランティスもそんな年頃だし…)
心の中で勝手に想像を始めたミリナを、止めるようにして男が口を開いた。
「誰だ、この女?」
全身真っ黒という怪しげな格好をした青年がランティスに聞く。
それにランティスは手をこちらに向けて嬉しそうに紹介する。
「あぁ、この人はね…」
ランティスが言う前に、ミリナはぺこっと頭を下げて自ら名乗った。
「ミリナです。ランティスの、従姉妹に当たります。」
「従姉妹…?」
「はい。私の母と、ランティスのお父さんは兄妹なんです。」
基本的にはあまり従姉妹ということを自分から言うことはなかったが、しょうがない。
まぁ、従姉妹と言っても、あまり従姉妹らしいようなことはしていない気がする。
あくまで『友達』としてや『お隣さん』と接してきていたから。
だが、ランティスに自己紹介を頼むと何を言うのかわからなくて恐ろしい。自分で言う方がいいだろう。
「…そうか」
ふむ、と頷いた彼に、こんどはミリナが聞く。
「あの、あなたは?」
「俺か?俺は…」
少し困った様子の彼の代わりに、ランティスがさっきのお返しも込めてミリナに微笑んで教える。
「ジークっていう、変態自己中馬鹿男です。」
それに、やっぱり自分で言ってよかったとミリナはうれしそうに微笑み返す。
本当に変態自己中馬鹿男なのかわわからないが、ランティスの場合、基本的に想像も混じるため、事実だけの可能性は低い。
それを肯定するかのようにジ―クはランティスの言葉に首を傾げた。
「俺のどこが変態で自己中で馬鹿なんだ??少なくとも俺は馬鹿じゃないが?」
それに、ランティスは何故気づかないのかと思う。
「全部よ!初めて会ったときなんか急に後ろからしゃべりかけてきたじゃない!あの時は本当にお化けだと思ったわよ…」
さらにジ―クは首を傾げる。
「―そんなことあったか?俺は覚えてない。それに俺はお化けじゃなく―」
その先は言ってはいけないと、ランティスはジ―クに言おうとした。
「あっ!その先は―」
ジ―クもはっとしたようで、言葉を止めた。が、
「天使、ですよね?ジ―クさんは」
第三者が、口を開いた。
「ミリナさん…?どうして??」
ランティスが思わず聞いた。
これでは、天使と認めたことになるがランティスは構わなかった。
天使の存在を、知ってる人がいると思わなかったから、気になったのだ。
―ミリナさん、どうして天使のことを―――
天使は、人に知られてはいけないはずなのに。
しかしミリナは続ける。
ランティスのことを、確認するかのように。
「-ランティスも、天使になるんでしょう?」
「えっ…ミリナさん…」
とまどうランティスに、ミリナは遠慮しなかった。
「私は、ずっと、ランティスと友達でいるつもりだった。一生、お互いを助けあえるような友達でって。
でもランティスは、天使で…。私ね、ランティスに言いたいことがあったの。」
「言いたいこと…?ミリナさんが?」
ミリナは、こくっと頷いて、入り口に立ちっぱなしだったことを思い出して、部屋に三つある組み立て式の椅子を組み立ててランティスの座った。