Ⅱ 天使様
やっと、第二話です。
ジ―クは天使のくせになぜか全身真っ黒です。
「え!本当に出たのかい?」
ランティスには驚く祖父の声は届かなかった。
「フフフ…悪霊退散って初めてだけど、成功するかしら…フフ…きっと成功するわよね。こないだメイカ―おばさんに悪霊退散の仕方、教えてもらったし…」
不気味に笑みをこぼしながら笑う孫に、祖父は何も言えなかった。
「工房に行ってくるね…今新しく机を作ってるんだ」
仕事は引退したものの、祖父は大工のころと変わらず家具を作り続けている。
「うふふ…行ってらっしゃい………」
いつもは笑顔でお見送りしてくれる孫がとうとう壊れてしまったかと、祖父は心配しながらもパンを一つつかんで家を出て行った。
孫が作っていたスープらしきものは、作りかけというのに、すでに見た目が危険だった。匂いも、いつもとは全然違った。あれを一口でも口に入れたら死ぬだろうと思ってパンしか持ってきていない。
家を出て、少し歩いた時、ふと後ろを振り返った時、彼にはある記憶が蘇った。まさか。
家に戻ろうかとも思ったが、違ったら恥ずかしいと思い、また工房へと歩き始めた。
「ウフフフフフ…そうよ、あれは悪霊よ…退治するべきだわ」
いままで、お化けや幽霊などの非現実的なものはいないと信じていたランティスにとって、あの男は相当な衝撃を与えていたようだ。
「やっぱり、塩かしら…でも塩もったいないし……あ、護符でも張っときましょうか」
「おいおい…勝手に悪霊扱いするの、やめてくれねーか?」
さっき聞いた声が今度は横から上がった。ランティスは半泣きになりながら叫んだ。
「いやぁぁぁぁぁああ!!出たぁ、悪霊ー!!!」
それに軽くあきれた様子で男は答えた。
「ランティス、落ち着け。俺は悪霊じゃない。天使だ。」
「は?天使??」
首をかしげるランティスに、男は自信満々に答えた。
「ああ。俺は天使の一人だ。名はジ―ク。よろしくな★」
しばらくして、ランティスは大笑いした。
「あはははっ 天使ですって!あなた冗談にももっと良いのがあるでしょう?いまどき天使って…ははっ」
その大笑いに、ジ―クは冷静に答えた。
「冗談ではない。事実だ。」
「――そんなわけないでしょ!現実見なさいよっ」
そんなことがあってたまるか。と、ランティスは精一杯叫んだ。
しかし帰ってくるのは落ち着いた声であった。
「…現実を見ているが?」
「―――――――――――――――――」
もう、返す言葉が見当たらない。どうしよう、このままこの非現実的な人を認めるしかないのか?
必死で頭を回転させると、この男にないものがあることが発覚した。
「ね、あなた、天使なのよね?」
「ああ。どうかしたか?」
「でもあなたには翼がないわ。神様のもとへ行くための大きな翼が。」
少し自信があったのだが、男はさっきまでと同様、いたってあっさりと答えるのであった。
「翼は、しまってある。いつもあったら邪魔だろう?」
「ど、どこにしまってるのよ??」
「あ、それは秘密だ。」
「ちょっ…教えてくれてもいいじゃない!!」
叫ぶランティスに、ジ―クは首を振った。
「これはいかん。天使の秘密をすべて明かすことになってしまうからな。」
「天使の秘密…?」
「ああ。人間が知ってはいけないことだ。ということだから、絶対に聞くなよ」
その時のジ―クの瞳には、強い意志が宿っているように見えた。納得するしかなさそうだ。
「…うん。わかった。」
納得したランティスを見て、ジ―クは静かに言った。
「今日お前に会いに来たのは、お前に手伝ってほしいことがあるからだ。」