Winter Fall
Winter Fall
八月一日
また、この季節がやってきた。先週まではなにもかもが秋模様で、肺に取り込む空気でさえ秋の味がしていたのに。
けれどそれは先週まで。今となっては全てが冬模様。手足の先がかじかんで、吸い込んだ空気が胸に冷たい。空気を吸うたびに、風に吹かれるたびに、どんよりとした空を見るたびに、なんだか気が滅入ってしまう。毎年の事とはいえ、やっぱり冬は苦手だ。嫌いではないけど、好きでもないから、苦手。
冬の空気を吸うたびに、どこか感傷的になって胸ぽっかりと穴があいていく感じになる。別に冬になにかあったわけじゃないけど。
先週を秋終りとしたら、今週は冬初め。底冷えはどんどん進んでいって、息をするたびに肺が冷えて、こきざみに震えだすんだろう。
そんなことをぼーっと考えながら、のろのろとした足取りで、家に向かう。
玄関の鍵を開けて、2階の自室に向かう階段を上る。
家に入ってもどこか冬の気配を感じる。こうなったら、この気配になれるまでは違和感は消えない。
鞄を机に置いて、着替えるべく制服を脱ぐ。さらされた地肌に寒気を感じながら私服に着替えて、しわのつかないように制服をハンガーにかけてベッドに倒れ込む。いつのまにかベッドも冬使用にかえられていた。妹の莓の仕業だろうか。だとしてもその妹はどこにいるのやら。
「はぁ……」
仰向けになって溜息をつく。かといって何かがかわるわけじゃないけど。
「とりゃ」
「……重い」
部屋の扉を開ける音がしたと思ったら、案の定妹が乗っかってきた。人が仰向けになるたびに乗っかってくるにはどうにかならないものか。
「皐月ねえ温かーい」
人に乗っかってそんなことをいってくる莓は、胸元に顔をうずめるようにして、がっちりと抱きついてくる。
「莓の方が温かいんだけど」
私はどちらかといえば放熱がうまくできてない方。莓はどんどん放熱してるから自分が温いって気付いてないのかもしれない。放熱がうまくできてない私は、熱がこもって自己体温でたまにくらくらする。
「んふふ~人肌ー」
こうなると引きはがそうが何をしようが、莓は離れない。莓が満足するまでずっとこのまま。
「ねえねえ、胸おっきいと寒くないの?」
「胸の大きさなんて関係ない」
それだと世の中のグラビアの人らは冬に強いことになる。
「毎年この時期になると抱きついてくるけど、暖房使えば?」
この時期、というより頻度が跳ね上がる。
「人肌がいいのー」
莓のこの感覚がわからない。暖房の方が格段に効率もいいのに。
「それに、お菓子作ってるから甘い匂いするし」
趣味の一つ、と思って始めたことだけど、菓子特有の甘い匂いがどうも染みついたのか、莓の言うとおり、すこし甘い匂いがする。友達にも香水のブランド名をたまに聞かれるけど、香水じゃないしね。
「温かいし、甘い匂いするし……なんか眠くなってきたかも」
「毎回いってるけど、自分の部屋で寝なさい」
このやりとりはいつも無駄に終わる。莓がかならずこのまま寝るから。
「皐月ねえ……大好き」
「莓、何言って……もう寝てる」
人の体温で眠くなるって、赤ん坊じゃないんだから。
これも毎度いつもの事。乗っかってる莓をどかして、私のベッドに寝かせる。
「はあ」
これまた幸せそうな寝顔で。
莓が抱きついていたせいか体が妙に温い。放熱せずに貯め込む私にはすこしばかし温くすぎる。
溜まった体温を抜くべく、リビングに降りる。冷えた麦茶でも飲めばそれなりに下がるだろうから。
「シュークリーム………」
テーブルの上には莓が読んでそのままにしたらしき本があった。その本はシュークリームのページを開いたまま。
「久々に作ろうかな」
ラックの材料を確認して、頭の中からメニューを引きづり出して材料を準備。
「さて、と」
莓が起きてくるころ合いには、出来てるかな。
「シュークリーム作るのってけっこう久しぶりかな」
よくよく考えれば、莓にねだられたのがきっかけだっけ、菓子作り。
作り方を思い出しながら、シュークリームを作っていく。オーブンで生地を焼いている間に、カスタードを作るも、カスタードともなると、甘ったるい匂いが漂いだす。香水とも取られるこの匂いは、随分染みついているようで、さっきの莓みたいにいい匂いとかいわれる。
焼きあがった生地にカスタードを入れて、完成。若干、バニラの風味が強い出来になったけど、まあ手作りならではだし。
「あ、シュークリーム」
予定通り、莓が起きてくるころ合いには完成したみたい。
「はい、出来立て」
皿に乗せた6個を莓に渡して、私は後片付け。
「皐月ねえも一緒に食べよう」
「はいはい」
頬張ってる莓の表情からして、上々の出来。
「ん~おいしい」
「クリームついてる」
片づけといってもまとめておいたゴミを捨てるだけ。
「ん」
「はいはい」
さしだされたカスタードが口元についた顔から、カスタードをすくいとって、莓の口に突っ込む。
「皐月ねえひどい」
「しっかり舐めとってるじゃない」
突っ込んだ指には確かに、莓がカスタードを舐めとっていく舌が這った感触がある。
「だって甘いんだもん」
「それはまた随分と不純な動機で」
シュークリームを一つ手にとって口に運ぶ。うん、中々の出来。生地はもう少しサクサクさせたほうがよかったかな。
「いいもーんだ」
マイは残りのシュークリームを口に運んだ。相変わらずおいしそうに食べる。
「ねえ、皐月ねえ」
「ん?」
「大好き!」
「はいはい」
○
「皐月ねえ、一緒にねよー」
「……莓、今何歳」
「17」
部屋の電気を消してベッドに横になっていたところに莓の来訪。というか、ほぼ毎日。
とくに許可もだしてないのにいそいそと、莓はベッドにもぐりこんでくる。
「へへへ、あったかーい」
莓がもぐりこんだベッドは、体温がこもりだして私一人の時と比べてだいぶ温い。
「皐月ねえあったかーい」
ベッドの中、莓がいつものように抱きついてくる。冬場、これからの時期は生きたカイロとして結構重宝してる。
「おやすみー」
「おやすみ」
最近は朝方がかなり冷えてる時がある。朝起きて体が冷えてました、にならなによう生きたカイロをしっかりと抱きよせて眠った。
「……あったかい」
今年の冬も、莓は重宝しそうだ。
これも部活です。
テーマは……そう、四季だったんですよ。
ということはあと2編あります。夏と春。順番にすればよかったんですが、まあ、こんなことを想う頃にはもう、秋を投稿してたんで手遅れなんですが。




