ありがとう叔父さん
昔、世話になった叔父さんが亡くなった。
小学校低学年の時によく、家に遊びに行っていたのを覚えている。
現実感の無い俺は、目の前で白い布を被せられた叔父さんを見ている。
「忠くん、よかったら顔を見てあげてくれる?」
叔父さんの横に座った叔母さんが、突っ立っている俺に声をかけてくれる。
目元には赤い跡があり泣き腫らしたのだとわかる。そんな状態でも人に気を遣う事が出きるのは昔から優しい叔母さんらしいと思った。
叔母さんの言葉に静かに頷き、叔父さんの横に座りゆっくりと顔掛けを取った。
顔掛けを取った叔父さんは、昔とあまり変わっていない様に見えた。
「叔父さん…最期に会いに行けなくてごめん…。今、会いに来たよ」
届かないとは分かっていても言葉を掛けずにはいられなかった。
「忠くん…気を落とさないでね。あの人も急に逝っちゃったから…」
叔母さんの励ましの言葉を聞き、疑問に思ったことを聞く。
「あの、叔母さん。叔父さんはいつ亡くなったんですか?」
「あら、伝わってなかったのね…。昨日の朝方よ」
詳しく聞くと、叔父さんは昨日の早朝にゆっくりと息が浅くなり、眠るように逝ってしまったと言っていた。
前々から体調が悪いと聞いていたが、詳細までは聞いていなかった。一ヶ月前に会った叔父さんは元気だったのであまり心配はしていなかったのだ。
「あの人、最期に言ってたわ…。忠くんにあって感謝を伝えたいって」
「えっと…どういうことですか?」
「大した事じゃないのよ、これまで遊びに付き合ってくれてありがとうとかそう言う感謝だったみたい」
叔母さんの言葉で、これまでの叔父さんとの思い出が一気に駆け抜けた。
遠出をしてわざわざハンバーガーを食べたり。早朝から行くのが大変だからと、前日からキャンプをしてカブトムシを取りに行ったり。
俺と叔父さんは挙げたら切りがない程、一緒に遊んだのだ。
ここ二年は、叔父さんの体調が優れなかったり俺の生活が忙しかったりと、噛み合わないことが多く遊べていなかったが、連絡だけは取り合っていた。
メッセージでも叔父さんは俺を気遣ってくれた。
私生活の悩みとか、上手く行ったこととか色々なことを共有した。
しっかりと全部覚えている。
俺は、目の前の叔父さんを見つめ口を開く。
「叔父さん…こちらこそありがとう…!いままで、ありがとうございました!」
涙が伝い、手に落ちる。
叔母さんが泣き腫らした目に涙を貯めている。
「あなた、よかったわね…。忠くんちゃんと覚えててくれてるわよ…」
まだ、届くと信じるように叔母さんは言った。
そうして、一通り別れの挨拶を済ませ落ち着いた俺に叔母さんが話しかけてきた。
「あ、そうそう。忠くん、あの人から手紙預かってたのよ~」
ガサゴソと紙袋の中から、一通の手紙を取り出し手渡してきた。
「忠くんへ?」
「そう、あの人が体調崩して直ぐにちゃちゃっと書いてたやつだから私もすっかり忘れてたのよ」
叔母さんの話を聞きながら手紙を開ける。
忠くん、君に色々なことを教えたし教えられた。叔父と甥の関係を越えて親友の様に私は感じていた。君もそうだと嬉しい。
それから、遺産の事なんだけど、殆どは妻にあげるつもりだが、忠くんにも少ないが用意した。裏手の倉庫の一番端に赤の箱が置いてあると思うから見てみてくれ。
これまでありがとう。
それからさようなら、楽しかったよ。
最期に、恥ずかしいからこの手紙は妻には見せないでくれ。頼む。
手紙とはいいずらい程に簡略化されている文だったが、叔父さんと俺はこんな感じの文で十分伝わる仲なのだ。
堅苦しいのは好きじゃないから叔父さんと俺は友達だった。
手紙を読み終わったのを見た叔母さんが声を掛ける。
「忠くん、あの人何て言ってた?」
「叔父さんに感謝されました。それから、裏手の倉庫に俺宛の物があるらしいです」
叔父さんの遺言通り、叔母さんには簡潔に叔父さんが恥ずかしがりそうなと頃は除いて伝えた。
「あらそう、あの人そう言うの私には言ってくれないからねぇ~。困っちゃうのよ」
少しだけ明るさを取り戻した叔母さんはスタスタと倉庫の鍵を持ってきてくれた。
「私も見に行っていいかしら?」
「大丈夫だと思いますよ!」
二人で裏手の倉庫に行き、扉を開ける。
叔父さんが体調を崩してからは掃除をしていなかったらしく少し埃っぽいが、整頓されている為そこまで気にならない。
「忠くん、これじゃないかしら?」
先に入った叔母さんが俺を呼ぶ。
そこには、赤と言うより朱と言った方がしっくり来る1メートル程の箱があった。
「これが…?」
「たぶん、そうじゃないかしら。開けてみたら?」
叔母さんに促されゆっくりと箱を開ける。
蓋を外すタイプの箱で特に鍵とかは無いので普通に開いた。
中には、俺と叔父さんが写った写真や俺が送った手紙等が入っていた。
「懐かしいわねぇ…」
叔母さんがポツリと呟く。
どれもこれも懐かしい思い出がつまっていて胸を温かくしてくれる物ばかりだった。




