女は喋るなと言われたので無詠唱魔術を極めました
「女は喋るな」
それはロースクールで魔術の授業を受けていたときの話だ。
言われたのはソナー・フォン・サイレス――元は由緒正しき公爵家だったのだが、今は没落貴族となったサイレス家の三女だ。
年齢は六歳。
金色の髪はボサボサで、小太りなのでいつも馬鹿にされている。
「えっ、なんて?」
「だから、女は喋るなと言っているんだ」
そう言うのは、まだ若い教師である金髪の美青年――ルシアン・ド・ヴァリエール第一王子。
彼は魔術の才があり、幼い貴族の子供たち相手に講習会を開いていたのだ。
その凜とした涼しげな美声で、見下しながら言う。
「はぁ……これがわからないのなら、わかるまで戻ってくるな。ソナー・フォン・サイレス」
「はい!!」
ソナーはわからなかったので、正直にその場を去ることにした。
その場にいる男子貴族たちは、ソナーがいなくなると大笑いしていた。
「ギャハハ! 崇高なる魔術は男のものだって常識だろう!」
「なんで魔術を扱う場に女がいるんだよ、マジ笑う」
「これだから没落貴族の女はよぉ!」
ルシアン第一王子もつまらなさそうに言った。
「多少は骨があったのなら考えてやってもよかったのだがな。さぁ、魔術を教えていくぞ、男子諸君。魔術は言の葉によって精霊の加護を受け、その文節が多ければコントロールは容易になるが――」
***
――それから十年間、ソナーは言葉を一言も発さなかった。
狂気の沙汰だ。
だが、それには理由があった。
(女は喋るなってルシアン王子様は仰ってくれた……その言葉の意味……つまり無詠唱魔術を目指せってことよね!! 王子様が言うんだもの、きっと私にはその才能があるんだわ!! 玉音ってこういうことよね!!)
この世界の常識ではありえない、呪文無しの魔術を目指すことにしたのだ。
それからは言葉を発さずに精霊へ指示を与えて、魔術を発動するという方法を模索した。
ソナーは思い込みだけで、言葉という人間に大切な機能を捨てたのだ。
その覚悟は尋常では無く、男子貴族の嫌がらせに合って馬車が崖から転落して瀕死になったときも無言だったという。
両親は失語症か何かと疑ったが――。
『いえ、別に普通に喋れますよ』
そうあっけらかんと文章を書いた。
それからのあだ名は『不気味ソナー』となった。
ソナーはひたすらにルシアン第一王子を信じ、自己鍛錬を重ねた。
そして十年でついに体得したのだ。
嬉しくなったソナーは、ルシアン第一王子が出席中の魔術学会でも構わずに突撃してしまった。
「ルシアン王子様! ついにやりましたわ!」
「ん? 誰だ?」
ソナーは十年前と比べて見目麗しい、スレンダーな美女になっていたので気が付かなかったのだろう。
「ソナー・フォン・サイレスです! 十年前に『女は喋るな』と仰って下さった!」
「ああ、お前か。用がないなら来るな、無能は去れ」
「いえ! わかるまで戻って来るなと言われたので……」
「は?」
「私はちゃんとわかりましたよ! 見ててください!」
ソナーは何も言わずに手を差し出した。
すると虚空が割けて、巨大な白い狼が出現したのだ。
「……は?」
「無詠唱魔術、成功しました!! 〝向こうの世界〟から召喚したので、アストラル・フェンリルというところでしょうか!! あとは核融合属性も使えますが、ここだと迷惑になっちゃいますね!!」
「い、いや、ちょっと待て……無詠唱魔術ってなんだ……。しかも、呪文ありの召喚魔術でもこんなものは見たことがないぞ……。それに……核……融合? どこの言葉だ……」
「ルシアン王子様の『女は喋るな』という玉音、本当にありがとうございました!! では、失礼します!!」
ソナーは満面の笑みで感謝してから、両開きのドアを開けて勢いよく出て行ってしまった。
ルシアン第一王子は混乱していたが、周囲にいた魔術師たちの目は冷たかった。
「おいおい、ルシアンちゃんさぁ。いくら第一王子だからって時代錯誤でしょ……女は喋るなって酷すぎない?」
「あのような才能を捨ておいたのか? ルシアンよ」
「魔術学会から破門じゃな」
ルシアンはハッとした表情になり、弁解をする。
「ま、待ってください!! 俺は――」
「あのレベルの才能を敵に回したら一国が滅びてもおかしくはないぞ。今からでも謝罪して連れ戻してこい」
「だ、第一王子として頭を下げるなど!?」
「もう良い。王に報告する」
「ま、待って!! 待ってってば!! あ、アイツに!! ソナーに謝ってきますから!!」
ルシアン第一王子は震えながらそう言ったが、もう遅かった。
ソナーは何も知らず『まだまだ王子に満足してもらえなかった!!』と勘違いして、隣国へと修業の旅へ向かったのであった。
続きを書く予定なのでしばしお待ちを……!
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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<(_ _)>ぺこり




