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悪役令嬢転生物語  作者: だいふく


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9/25

9話 料理人ミレイユ

今私の目の前に、ノア、レオニード、クラウス、三人の攻略対象が並んでいる。

頭を抱える私とは対照的に、ワクワクしているセシリアとルイン。

(どうして...どうして..こんなことになったんですの......)

時は遡る――


◆


「火は一定に。強くしすぎないように」

「はい、お嬢様」

厨房で鍋を前に立つミレイユ。

掌に灯る炎は、揺らぎの少ない穏やかな光。

戦闘用の爆炎ではない。煮込みのための、均一な火。

(強さではなく、安定。日常魔法の応用ですわ)

隣ではリヴィアが焼き菓子の最終確認をしている。

本日の研究テーマは――炎魔法による精密調理

試食予定はセシリアとルイン―――それだけのはずだったのだ


◆


「まあ……良い香り」

最初に目を輝かせたのはセシリア。その隣でルインが控えめに微笑む。

「炎が……とても安定しています」

「色の変化も見えますの?」

「はい。熱が均一です」

さっそく研究モードである。

ミレイユは少し誇らしい。

(研究仲間たちとの平和な時間...こんな日がいつまでも続けばいいのだけれど...)

心の中でそんな事を思っていたが、そんな希望は簡単に打ち砕かれることとなる。


◆


「……ミレイユが料理を?」

執務室で父が顔を上げる。

「はい旦那様。炎魔法の研究の一環だとか」

「ほう……」

沈黙、数秒。

「味見は誰が?」

「セシリア様とルイン様が」

「どうして私は呼ばれていないのだろう...?」

執事が一瞬言葉を失う。

数分後、父が厨房の中に入ってきた。

「あら、お父様。今はお仕事中では?」

視線をオーブンに向けながら近づいてくる。

「ミレイユが料理していると来てね、その、是非試食に預かりたいと思っているんだけど」

「ああ、ではこちらをどうぞ」

少し焦げてしまったクッキーだったが、味はそこまで変わらないだろう。

目を輝かせながら、一口。そして満面の笑みを浮かべ

「美味しい!ミレイユは料理の天才だ!!」

(それ炎魔法の火力を間違えて焦げてしまったものなんですけど.....ホント親バカですわ...)

そんな父を見送った後、リヴィアを筆頭にセシリアとルインにも手伝ってもらい、クッキーを初めとしたお茶菓子が完成した。

「ふう、何とか出来ましたわね!みんなのおかげよ!ありがとう」

額の汗を拭い、一息つく。

「いえ、とても楽しかったです!どんな味になっているのか楽しみですわ!」

「ミレイユ様の魔法、とても安定していました...火の色に偏りがなかったので、均一に焼けているはずです...」

(2人とも楽しんでくれたようで良かったですわ....)

「さあ、温かいうちに食べましょう!リヴィア、紅茶を入れてくださる?」

「かしこまりました、お嬢様」

颯爽と茶葉を取りに行くリヴィアに声をかける。

「リヴィア!これはリヴィアの分。形も色もいい自信作よ!」

袋に詰めたお菓子をリヴィアに渡す。

「....あ、ありがとうございます。お嬢様」

ぎこちない言葉の割に、その顔には優しい笑みを浮かべていた。

ただ、ミレイユは知らなかったのだ。この日の夜、父が王宮に行く予定があることを


◆


翌日、セシリアとルインが再び屋敷に訪れる。

「昨日、王宮で侯爵様が大変誇らしげでしたわ」

ルインがくすりと笑う。

「……え?...お父様が...王宮に...?」

嫌な予感がした時にはもう遅かった。

「失礼します、ミレイユ嬢」

穏やかな声。そこに現れたのはノアだった。

「侯爵からミレイユ嬢が作ったお菓子が絶品だったお伺いして、是非私もと思いまして」

にこり。逃げ場がない。

セシリアがぱちぱちと瞬きをし、ルインは緊張で背筋を伸ばす。

(.......お父様には....失敗して炭になったものを渡すことにしましょう)

ため息を我慢しているのも束の間、次の来訪者が現れる。

「ノアだけズルいよ」

軽やかな声と共に入ってきたのはレオニードだった。

「レオニード様.......?」

セシリアは突然の婚約者の登場に慌てふためくと思いきや、全く動じていない。

(セシリア、落ち着きすぎていません?自分の婚約者であり、最も慕っている人物の登場よ.....随分と潮対応な気が...)

「セシリアが来てるときいてね」

(であれば、私を見るのではなく、セシリアを見て言ってほしいんですが.....)

「侯爵令嬢が炎魔法を使って料理をする。こんな面白そうなことを見過ごす俺じゃないよ。流石、セシリアが懐くだけはあるね」

「レオニード様、私はミレイユ様を慕っているのです。懐いているのではありません。お間違いないように」

セシリアがピシャリと釘を刺す。第三王子の扱いがあまりにも雑なので、ルインは双方の顔色を窺っているようだ。空気が一段階騒がしくなる。


◆


そして最後に、静かな声。

「炎の出力安定値を確認したい」

クラウス・ヴァルンハルト

ルインが思わず息を呑み、しどろもどろになりながら挨拶を交わす。魔法を重んじるセレフィア家からすると、下手をしたらクラウスは王子よりも敬う対象なのかもしれない。

(ただ、もうなんか来る気がしてましたわ......はぁ....王子二人に加え、魔法の天才まで……)

クラウスの視線は完全に炎。

(目つきが熟練の研究者にしか見えないわ)

「揺らぎが極端に少ない。どうやら、本当に魔法の鍛錬を行っているようだな」


◆


結果、ミレイユ、セシリア、ルイン、ノア、レオニード、クラウスが厨房に集まった。

本来は、セシリアとルインとの穏やかな研究会だった。

今や、断罪側三名が勢揃い。

セシリアは優雅に試食。

「とても美味しいですわ!流石ミレイユ様です!」

「あ、ありがとう、セシリア。ただ、ちょっと苦しいですわ。魔法の調整が.....」

最近セシリアはお礼を言う度に抱き着いてくるようになった。

貴族社会において仲が良い女性同士ではこれが普通らしく、中々に大胆なスキンシップで驚いている。

そんな中、ルインとクラウスは真剣に観察。

「熱の入り方が……本当に均一です」

「...ふむ....色彩魔法によって炎の熱伝導も視覚化できるのか...面白い」

(...あら、この2人中々に良いペアじゃありませんの。いっそのこと二人がくっつけば、一つ外的要因がなくなるのでは....)

ノアは静かに口に運び、笑顔で答える。

「火加減が絶妙ですね、ミレイユ嬢にこんな特技があったとは驚きです」

「あ、ありがとうございます」

(追放する張本人に褒められると、複雑な気分になりますわね...)

レオニードは笑う。

「うん、美味しいよ。それにこういった魔力の調節は剣技にも活かせるし、どうミレイユも?剣を習ってみない?」

「い、いえ。剣は遠慮しときますわ.....」

(切られそうで怖いですし......)

セシリアが楽しそうに言う。

「次は、わたくしも何かお手伝いできますか?」

ルインも勇気を出して。

「炎の色、少し調整してみましょうか」

女性陣は平和。対して男性陣。

「また機会があれば是非拝見したいですね」

穏やかなノア。

「今度は厨房じゃなくてもっと広い庭とかで盛大にやりたいな。あ、でも庭では炎柱が立つからダメか」

軽口を叩くレオニード。

「色彩魔法を交えた実践的な魔法訓練も面白いな......」

魔法の事しか頭にないクラウス。

(拡大しておりますわ……)

静かに研究するはずだった。地味に、慎ましく、なのに.....

気づけば破滅フラグを巻き込んだ研究会になっている。

ミレイユは完璧な笑顔を保ちつつ、心の中でそっと頭を抱えた。

(どうして...どうして..こんなことになったんですの......)



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