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悪役令嬢転生物語  作者: だいふく


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9/19

9話 料理人ミレイユ

今私の目の前に、ノア、レオニード、クラウス、三人の攻略対象が並んでいる。

頭を抱える私とは対照的に、ワクワクしているセシリアとルイン。

(どうして...どうして..こんなことになったんですの......)

時は遡る――



「火は一定に。強くしすぎないように」

「はい、お嬢様」

厨房で鍋を前に立つミレイユ。

掌に灯る炎は、揺らぎの少ない穏やかな光。

戦闘用の爆炎ではない。煮込みのための、均一な火。

(強さではなく、安定。日常魔法の応用ですわ)

隣ではリヴィアが焼き菓子の最終確認をしている。

本日の研究テーマは――炎魔法による精密調理

試食予定はセシリアとルイン―――それだけのはずだったのだ



「まあ……良い香り」

最初に目を輝かせたのはセシリア。その隣でルインが控えめに微笑む。

「炎が……とても安定しています」

「色の変化も見えますの?」

「はい。熱が均一です」

さっそく研究モードである。

ミレイユは少し誇らしい。

(研究仲間たちとの平和な時間...こんな日がいつまでも続けばいいのだけれど...)

心の中でそんな事を思っていたが、そんな希望は簡単に打ち砕かれることとなる。



「……ミレイユが料理を?」

執務室で父が顔を上げる。

「はい旦那様。炎魔法の研究の一環だとか」

「ほう……」

沈黙、数秒。

「味見は誰が?」

「セシリア様とルイン様が」

「どうして私は呼ばれていないのだろう...?」

執事が一瞬言葉を失う。

数分後、父が厨房の中に入ってきた。

「あら、お父様。今はお仕事中では?」

視線をオーブンに向けながら近づいてくる。

「ミレイユが料理していると来てね、その、是非試食に預かりたいと思っているんだけど」

「ああ、ではこちらをどうぞ」

少し焦げてしまったクッキーだったが、味はそこまで変わらないだろう。

目を輝かせながら、一口。そして満面の笑みを浮かべ

「美味しい!ミレイユは料理の天才だ!!」

(それ炎魔法の火力を間違えて焦げてしまったものなんですけど.....ホント親バカですわ...)

そんな父を見送った後、リヴィアを筆頭にセシリアとルインにも手伝ってもらい、クッキーを初めとしたお茶菓子が完成した。

「ふう、何とか出来ましたわね!みんなのおかげよ!ありがとう」

額の汗を拭い、一息つく。

「いえ、とても楽しかったです!どんな味になっているのか楽しみですわ!」

「ミレイユ様の魔法、とても安定していました...火の色に偏りがなかったので、均一に焼けているはずです...」

(2人とも楽しんでくれたようで良かったですわ....)

「さあ、温かいうちに食べましょう!リヴィア、紅茶を入れてくださる?」

「かしこまりました、お嬢様」

颯爽と茶葉を取りに行くリヴィアに声をかける。

「リヴィア!これはリヴィアの分。形も色もいい自信作よ!」

袋に詰めたお菓子をリヴィアに渡す。

「....あ、ありがとうございます。お嬢様」

ぎこちない言葉の割に、その顔には優しい笑みを浮かべていた。

ただ、ミレイユは知らなかったのだ。この日の夜、父が王宮に行く予定があることを



翌日、セシリアとルインが再び屋敷に訪れる。

「昨日、王宮で侯爵様が大変誇らしげでしたわ」

ルインがくすりと笑う。

「……え?...お父様が...王宮に...?」

嫌な予感がした時にはもう遅かった。

「失礼します、ミレイユ嬢」

穏やかな声。そこに現れたのはノアだった。

「侯爵からミレイユ嬢が作ったお菓子が絶品だったお伺いして、是非私もと思いまして」

にこり。逃げ場がない。

セシリアがぱちぱちと瞬きをし、ルインは緊張で背筋を伸ばす。

(.......お父様には....失敗して炭になったものを渡すことにしましょう)

ため息を我慢しているのも束の間、次の来訪者が現れる。

「ノアだけズルいよ」

軽やかな声と共に入ってきたのはレオニードだった。

「レオニード様.......?」

セシリアは突然の婚約者の登場に慌てふためくと思いきや、全く動じていない。

(セシリア、落ち着きすぎていません?自分の婚約者であり、最も慕っている人物の登場よ.....随分と潮対応な気が...)

「セシリアが来てるときいてね」

(であれば、私を見るのではなく、セシリアを見て言ってほしいんですが.....)

「侯爵令嬢が炎魔法を使って料理をする。こんな面白そうなことを見過ごす俺じゃないよ。流石、セシリアが懐くだけはあるね」

「レオニード様、私はミレイユ様を慕っているのです。懐いているのではありません。お間違いないように」

セシリアがピシャリと釘を刺す。第三王子の扱いがあまりにも雑なので、ルインは双方の顔色を窺っているようだ。空気が一段階騒がしくなる。



そして最後に、静かな声。

「炎の出力安定値を確認したい」

クラウス・ヴァルンハルト

ルインが思わず息を呑み、しどろもどろになりながら挨拶を交わす。魔法を重んじるセレフィア家からすると、下手をしたらクラウスは王子よりも敬う対象なのかもしれない。

(ただ、もうなんか来る気がしてましたわ......はぁ....王子二人に加え、魔法の天才まで……)

クラウスの視線は完全に炎。

(目つきが熟練の研究者にしか見えないわ)

「揺らぎが極端に少ない。どうやら、本当に魔法の鍛錬を行っているようだな」



結果、ミレイユ、セシリア、ルイン、ノア、レオニード、クラウスが厨房に集まった。

本来は、セシリアとルインとの穏やかな研究会だった。

今や、断罪側三名が勢揃い。

セシリアは優雅に試食。

「とても美味しいですわ!流石ミレイユ様です!」

「あ、ありがとう、セシリア。ただ、ちょっと苦しいですわ。魔法の調整が.....」

最近セシリアはお礼を言う度に抱き着いてくるようになった。

貴族社会において仲が良い女性同士ではこれが普通らしく、中々に大胆なスキンシップで驚いている。

そんな中、ルインとクラウスは真剣に観察。

「熱の入り方が……本当に均一です」

「...ふむ....色彩魔法によって炎の熱伝導も視覚化できるのか...面白い」

(...あら、この2人中々に良いペアじゃありませんの。いっそのこと二人がくっつけば、一つ外的要因がなくなるのでは....)

ノアは静かに口に運び、笑顔で答える。

「火加減が絶妙ですね、ミレイユ嬢にこんな特技があったとは驚きです」

「あ、ありがとうございます」

(追放する張本人に褒められると、複雑な気分になりますわね...)

レオニードは笑う。

「うん、美味しいよ。それにこういった魔力の調節は剣技にも活かせるし、どうミレイユも?剣を習ってみない?」

「い、いえ。剣は遠慮しときますわ.....」

(切られそうで怖いですし......)

セシリアが楽しそうに言う。

「次は、わたくしも何かお手伝いできますか?」

ルインも勇気を出して。

「炎の色、少し調整してみましょうか」

女性陣は平和。対して男性陣。

「また機会があれば是非拝見したいですね」

穏やかなノア。

「今度は厨房じゃなくてもっと広い庭とかで盛大にやりたいな。あ、でも庭では炎柱が立つからダメか」

軽口を叩くレオニード。

「色彩魔法を交えた実践的な魔法訓練も面白いな......」

魔法の事しか頭にないクラウス。

(拡大しておりますわ……)

静かに研究するはずだった。地味に、慎ましく、なのに.....

気づけば破滅フラグを巻き込んだ研究会になっている。

ミレイユは完璧な笑顔を保ちつつ、心の中でそっと頭を抱えた。

(どうして...どうして..こんなことになったんですの......)



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