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悪役令嬢転生物語  作者: だいふく


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3/4

3話 氷の令息と、炎の暴走

 炎属性。攻撃型。魔力量は“至って普通”。

「……認めましょう。やはりわたくしは凡庸ですわ」

 自室で測定結果を見つめながら、私はため息をついた。

 前世の記憶が戻って三日。分かったことは一つ。

 このままでは、ヒロインとの差は歴然。

「はぁ……情けないですわね」

 もしかしたら、転生した私に特別な力が宿っているかも!....なんて淡い希望を少しだけ抱いてたこともあり、ため息が出てしまう。

 ただ、ここから!これは終わりではなく始まりなんだ。転生ミレイユの新たな門出の一歩。

 自分が凡庸であることを認められないミレイユはここにはいない!

 ならば虚勢ではなく、魔法の技術を磨いていくだけよ!

 庭園の人目の少ない一角で、私は両手を掲げた。

「小さく……丁寧に……」

 指先に炎を灯す。爆発させない。押し出さない。

 本に書かれていたことを意識して魔法を出してみると、

 ぶわっ!!いきなり炎が暴れだす。

「ぶぉわぁぁぁ!?」

 動揺したことにより、さらに炎が上下左右に飛び散る。焦げる匂い、地面を舐める火。

 「ま、また、やってしまいましたわ!このままでは庭園が焼け野原に!」

 てか、私は何でこんな草木が多く燃えやすい庭園で炎の魔法の練習をしてるんだ、馬鹿すぎる!

 炎の始末をしなければと右往左往していると、ひやり、と空気が凍る。次の瞬間。

 パキッ、と音がして炎が白く閉じ込められた。

「……え?」

 振り向いた先には、一人の少年が立っていた。

 銀髪の少年。透き通るような氷色の瞳。端正な顔立ち。

 ――この顔......どこかで......

 そうだ........そうだ、私はこの少年を知っている。

 攻略対象、魔法の天才。

「……クラウス・ヴァルンハルト?」

 無意識に名前が零れた。

 彼の眉がわずかに動く。

「私をご存じで?」

 どうしてここに!?

 …いや...待って....そういえば....今朝...父が何か言っていたような......

 “――私の可愛い可愛いミレイユ。今日は公爵閣下がお越しになる。それにその嫡男であるクラウス君もだ。ご挨拶を忘れないようにね!――”

 ……完全に聞き流してましたわ、わたくし。

「……も、もちろんです。王都、いえ、魔法を扱う貴族で貴方のことを知らない人なんておりません」

 適当な口上で誤魔化す。攻略対象だから知っているなんて口が裂けても言えない!

「本日は、お父様の政務関係でご同席されていたのでは?」

「ええ。父の政務に同席していました。退屈なので、屋敷を見て回ることにしましたが」

 視線が焦げ跡へ落ちる。

「興味深いものを拝見しました」

 恥ずかしすぎる。あの叫び声も聞かれていたと思うと、今度は顔から火が出そうだ。

「侯爵令嬢が、自邸で炎を暴走させるとは」

 ぐうの音も出ない。

「こ、これは、お見苦しいところを……オホホホホ」

 だが彼の声に嘲りはない。

「制御が甘い。魔力を押し出しすぎている」

「えっ?」

 唐突な魔法指導に声が漏れる。

 冷静な分析。的確なアドバイス。

 そうだ、思い出した.....クラウスは魔法の天才。魔力も常人では考えられないほど膨大な魔力量を持つ。それにも関わらず、魔力任せではなく、緻密で繊細な魔法を操っていた。

 彼は魔法の“制御”を非常に重視する。彼が自身の氷魔法で作った作品はとても美しく、見る者の目を釘付けにしていた。

 そして、クラウスはヒロインの繊細な扱いや魔法に対する真摯な姿勢に惹かれ、恋に落ちる。

 対するミレイユは、主人公の魔法に嫉妬して嫌がらせを続ける。いつものように嫌がらせをしていた時、ミレイユは魔法の制御に失敗し、ヒロインに火傷を負わせてしまう。

 普段は冷静なクラウスもそれに激昂。魔法によってミレイユが外に出るのを拒むほどの恐怖を与え、ミレイユは引きこもりの鬱人形になってしまう。

 新たな、破滅ルートの出現に動揺が収まらない。ただ、せっかくアドバイスをくれたのだ。魔法を独学で学ぶのは今日の惨状を見れば危険なのは明らか.....このチャンスを逃すわけにはいかない!

「その、もしよろしければ......ご指導、お願いできますか?」

 彼が僅かに目を細める。

「侯爵令嬢が、私に?」

「ええ!本気で学びたいのです」(私が一人でも生きていけるように!!)

 沈黙のあと、彼は近づいてくる。

「手を」

 冷たい指が手首に触れる。

「力むな。流せ」

 言われるがままに、やってみる。

 胸の奥の熱を、押し出すのではなく。ゆるやかに、指先へ流していく。

 ぽう、と炎が灯る。今回の炎は暴れていない。

「……できましたわ...できましたわクラウス様!!」

 あまりの嬉しさに、クラウスの手を握りしめはしゃいでしまう。

「基礎は悪くない」

 短い評価だが、否定ではない。なんとか上手くいったようだ。

「ありがとうございます!クラウス様」

「礼は不要です。では、そろろそ時間ですので、失礼します」

 手を解くと、彼は背を向け歩き出した。

 クラウスは歩きながら考えていた。

 高慢だと聞いていた侯爵令嬢。

 だが実際に見たのは、失敗を隠さず学ぼうとする姿。

「……噂とは違うな」

 庭園に残る熱。指先の温かな感触。

 氷と火。

 相反するはずの属性が、奇妙に調和していた。

 クラウスの背中が庭園の奥へ消えていく。

 私はしばらく、その場に立ち尽くしていた。

 魔法が使えたことの喜びが落ち着いてきたこともあり、冷静になると胸の奥が、どくんと跳ねる。

 「……ビックリしたぁ……」

 思わず言葉遣いが前世のモノになる。

 あの銀髪。落ち着きすぎた視線。理屈っぽい言い回し。

 ――クラウス・ヴァルンハルト――

 間違いない、攻略対象の一人。まさか、こんな形で出会うなんて。

「朝食の時に誰か来ると言っていたような気はしたけど、まさか攻略対象がくるなんて.....」

 ミレイユの父母の会話内容は八割方、私を愛でる内容となっている。そのため、また今日も始まったよ......と思って話半分に聞いていたのが仇になった。ちゃんと聞いていなかった自分を今さら反省する。

 ゲームでは学園入学後からの登場だった。だから子供時代の姿は知らないが、顔の面影と氷魔法で何とか記憶から引っ張り出せた。

 私はそっと指先に炎を灯してみる。

 ゆら、と。さっきよりも落ち着いた炎が揺れた。

 「流石、魔法の天才ですわね」

 自身の属性とは反対の性質を持つ魔法なのに、明らかにさっきよりも安定してる。

 魔力を“押し出す”のではなく、“流す”感覚。

 さっきの失敗を思い出し、思わず苦笑する。

 あの一言がなければ、きっとまた途方もないとこに炎を飛ばしていたことだろう。

 ふう、と息を整え庭園を見渡す。

 「今度は燃えるものが少ないところで練習しないといけないわね」

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