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悪役令嬢転生物語  作者: だいふく


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12/19

12話 魔法訓練

火傷から1ヵ月。ようやく訓練再開の許可が出た。

「やっと訓練の許可が下りましたわ......」

訓練場へ向かう道中、小さく呟く。

特にお父様を説得するのには骨が折れた。

(...最初は炎魔法の使用禁止令を出そうとしてたらしいですし....相変わらずの過保護さですわ)

最終的には、3日間に渡る懇願の上、リヴィアと魔法を教えてくれる先生を傍に付ける、という条件のもと訓練再開の許可が下りた。

「乙女の涙を見せてまでしてようやく許可が出たのですから、しっかりと練習に励みませんと」

(それにしても嘘泣きした時のお父様の動揺っぷり。私、演技の才能があるのかしら...演技女優としての道も...)

下らないことを考えているうちに訓練場にたどり着き、魔法の先生が来る前に前回の反省点を思いだす。

(あの時は緊急事態で感情的になってしまい魔力の調整を誤る。結果として相手だけでなく自分にも炎が襲ってきたと...)

しかし、冷静に考えるとあの時人攫いの隣にはレオニードもいた。もしレオニードに火傷なんて負わせていたらと思うと背筋が凍る。

(不幸中の幸い.....下手したら学園入学以前に追放されるとこでした.....)



お父様が呼んだという魔法の先生とやらがいつまでたっても来ない。

(訓練開始の時間から20分は経っているのですけど...全く社会人として時間くらい守ってほしいですわね)

我慢をしきれず、ミレイユは魔法陣を描く。ぽっと、小さな炎が灯る。極小、安定、低燃費。

(理想の携帯用火力)

「……何を想定している」

背後から聞き慣れた声。振り向くとクラウスが立っていた。

「あら、クラウス様、ごきげんよう。どうされましたの?」

「どうされた、ではないだろう。アルノー侯爵直々の頼み事ということで駆り出されてるというのに」

「....お父様の.....頼み事...?」

嫌な予感がし、思考が一瞬止まる。が、すぐに結びつく心当たりがあった。

(お父様からクラウスに対して頼み事?.....クラウスに頼めることなんて.....いや、まさか....嘘だと言ってくださいまし.....)

クラウスは呆れた目でこちらを見てくる。

「なんだ、アルノー侯爵から聞いていないのか。お前の魔法を見てほしいと頼まれたんだ」

新たな破滅フラグの可能性に、ミレイユは膝から崩れ落ちた。



クラウスはミレイユが出している炎をじっと見る。

「随分と出力を落としたな」

「暴れる火は下品ですもの」

暴走=危険人物認定=追放

(暴走した先の未来が簡単に想像できる.....それに日常生活に強い炎は必要ありませんし)

「以前はもっと攻撃的だった」

「反省しましたの。炎は静かに扱うものですわ」

炎を少しだけ強める。ゆらり、と揺れる。

一瞬、出力が跳ねそうになる。

「魔力を常に流し続けるな。出力を上げたら一度魔力を区切って調整しろ」

「分かりましたわ」

言われたとおり魔力を細かく区切り、押さえ、整える。

炎は落ち着く。クラウスの目が細くなる。

「…ふむ….久々に魔法を使った割には安定しているな...本当に1ヵ月振りなのか?」

その言葉に胸がドキリと跳ねる。

「あ、当たり前じゃありませんか、クラウス様!?いやぁ、意外と腕が訛っていないものですわねぇ!オ...オホホホホホ.....」

(さ、流石は魔法の天才。鋭いですわね....我慢しきれなくて1週間ほど前から隠れて魔法を使っていたのがバレたのかと思いましたわ...)

クラウスは懐疑の目を向けてくるが、指導を再開する。

(ふぅ.....なんとか誤魔化せました....やはり私演技の才能があるのでは.....?今度何かのオーディションでも受けてみようかしら....)

――訓練後、魔法をこっそり使っていたことが両親にバレ、大説教を喰らったのは言うまでもない。



魔法の訓練が始まってから、1か月が経った。

(安定はしてきているな...そろそろか)

真剣な表情で炎を見つめているミレイユに提案する。

「そろそろ最大出力で一度やってみろ」

「もう全力ですの?少し早くありませんか?」

少し不安の色が見えた。当然だ、自分の魔法で火傷を負ったのだ。恐れない方がおかしい。

しかし、基礎ばかりやっていても意味がない。ミレイユの問いに首を振り、

「基礎は既に安定している。何かあったら俺がまた凍らせるから心配するな」

ミレイユは苦笑しつつ、”私ごと凍らせるのはやめてくださいね”と言ってくる。

不安とは裏腹に、まだ余裕はあるようだ。この分なら恐らく大丈夫だろう。

ミレイユは小さく息を吐き、魔法の出力を上げていく。

炎を強め、熱が増す。空気が歪むが安定したまま、力強く燃えている。

無言で魔力の流れを読む。

(ふむ、魔力流れも安定している。闇雲に流しているわけでなく、しっかりと魔力を調整しつつながせている.....よく3週間でここまでできるようになったものだ)

「ふん、十分だな」

「ありがとうございます、クラウス様。クラウス様の教え方がとても分かりやすかったので、ここまで安定させることができましたわ」

課題をクリアし安堵しているミレイユの顔を見て、ずっと疑問に思っていたことを真顔で問う。

「ミレイユ、お前は何故魔法に執着する。自身の魔法で怪我までした令嬢がここまで魔法に真剣に取り組む意味が分からん。それにお前の家系は魔法に特化しているわけでもない。初めて会った時は、令嬢の気まぐれだと思っていたが......気まぐれにしてはお前の努力は本物だ」

ミレイユは首に手をあて考える素振りをみせると、

「将来困らないためですわ」

全く意味が解らなかった。侯爵家の人間が将来困る理由が分からない。それにミレイユは第二王子の婚約者だ。どこにも困る要素が見当たらない。

「困る?」

「ええ。火を扱えないのは致命的ですもの」

瞬きをする。

「戦闘を想定しているのか」

「戦闘?いえ、生活を想定しております」

「……生活?」

「いいですか、クラウス様。火の安定は文明の基盤です。人間はとりあえず火があればなんとか生きていくことができるんですのよ?そのために安定させた火を出すということは、生活するにあたって必須スキルではありませんか」

あまりの流暢さに一瞬言葉を失うが、次の瞬間、笑いが込み上げてくる。

「お前は本当に面白いな」

ミレイユは首を傾げるが、にこりと笑い

「褒め言葉として受け取っておきます」

ミレイユは言い終えると戻って行き、訓練を再開する。

屈託のない笑顔、魔法に取り組む真剣な眼差し。

交じり合うことのない、2つの顔を目の当たりにし、クラウスの心の中に妙な熱が生まれていた。

 


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