第2話 魔術師アルバート
「…さま、…さま、アルバート様」
振り返るとスケルトンのルーシーが立っていた。
「頼まれていた魔導書をお持ちしました」
そういうとルーシーは下がっていく。
不老不死になり夢を見ることなどとは無縁になって久しいが、珍しく白昼夢を見ていたようだ。
あの忌まわしきエリスの処刑から数百年。
ここは北の大地にある樹海の真ん中にそびえたつ魔術師の塔。
ここで数百年間エリスを蘇らせるための魔術の研究をしている。
300年から先は面倒なのでカウントするのは止めた。
恐らく最低でも500年以上は経っているだろう。
つまり私は500歳以上ということになる。
まあそんなことはどうでもいい。
なぜそんなに長く生きられているのかって?
ではまずはここに至った経緯を話すことにしよう。
エリスが処刑されたあの日、私は街を出た。
エリスは氷魔法で氷漬けにし、鮮度を保ちながら研究に腰を据えられる場所を探して各地を旅した。
そしてたどり着いたのがこの場所だったというわけだ。
理由はシンプル。
周りに人がいない上にここは年間を通して気温が低いので、エリスの氷魔法を何度も重ね掛けする手間が省けるからだ。
ここで蘇生魔法の研究をスタートさせようと思った。
だが始めてみて数か月で行き詰まった。
想像していた以上にこの魔法は難しい。
元々死者を蘇生させるという神に背く行為とも言える蘇生魔法は禁忌とされていたため、最初から研究するものがほとんどいなかったせいで確立されていなかったんだろうと簡単に考えていたが、そんなものではない。
下手すれば私が生きているうちには完成しないのではないか?と思うほどの難しさだった。
そこで少し考え方の方向性を変えた。
まずは不老不死になる魔術を研究する。
そうすれば私の寿命を気にすることなく研究に没頭することが出来る。
死者の魂を1から呼び戻すという魔術の難易度よりも、元々ある命を劣化させずに永続させる方がはるかに簡単だ。
早速研究に取り掛かった私はおよそ10年と言う歳月をかけて不老不死の法を開発することに成功した。
この魔術の原理はいたって単純だ。
時空魔術を応用して私の体に流れている時間だけをストップさせる。
これで老いることも病にかかることも死ぬこともない。
ただ先ほど不老不死とは言ったが、正確に言えば不老ではあるが不死ではない。
あくまでも私の体に流れる時間だけがストップしているだけなので単純に物理攻撃されれば死ぬし、魔法で攻撃されても死ぬ。
だから半不老不死と言ったところだろうか。
だがこの体は他にも便利な点がある。
時間が止まっているので腹が減ることもないし眠くなることもない。
食事が必要ないので食材を見つけたり料理したり食べたりする時間が不要な上、睡眠時間も必要ないので24時間研究に専念することができる。
これは思わぬ副産物だ。
それにしても数百年経った今でさえ死者蘇生の魔術が完成していない現状を考えたら、先にこの不老不死の法を研究してよかったとつくづく思う。
あの時の自分を褒めてやりたい。
ちなみに先ほど登場したスケルトンはルーシー。
死者蘇生の魔術の研究過程で偶然できてしまったネクロマンシーで生み出した助手のスケルトンだ。
この付近の樹海は高ランクのモンスターが徘徊しているので、腕に自信のある冒険者が度々やって来る。
そうした結果、モンスターの死骸や冒険者の亡骸が歩けばそこら中で見つかる。
研究材料が豊富に手に入るというのもここを拠点とした後にわかった大きなメリットだ。
ルーシーも恐らくは元冒険者だったのだろう。
だが素性は確かめようもない。
ネクロマンシーは死者を生きているように動かすことは出来るが、魂を呼び戻せるわけではない。
あくまでも自我の無い動く死体として術者が操っているにすぎないのだ。
だからエリスにネクロマンシーをかけることも無意味だというわけだ。
そんな時だった!
「バンッ!!」
塔の入り口の扉が激しく開けられる。




