表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いじめる貴方といじめられる私  作者: 月星 星那
溺痛美毒(裏)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/36

『   』

「けい……?」


 篠宮恵を見て、美羽が呟く。


「神崎、わたしの親友に何をしたの?」

「しん、ゆう?」

「そうだよ。わたしは美羽の親友で、何があっても美羽の味方なんだから。それで、神崎――さっさと答えてよ」

「……」


(ははっ、ありがとう。美羽を見捨てないでくれて)


 美羽と仲違いさせた原因が言うのもなんだけど、私は今篠宮恵にすごく感謝をしていた。

 だって、彼女たちが来なければ、私も、美羽も、幸せな結末に行けなかったから。……せめて、美羽だけでも、幸せになればそれでいい。

 

「神崎、これについて説明をしろ。先生として、これは見逃せないからな」


 担任の先生が、私のことを睨みつけ、場の空気が張り詰められていく。

 あー、怖い怖い。それなら正直に話すよ。 


「いじめだよ」

「ちがっ……」

「クラスメイト達や美羽自身の弱みを握って、美羽のことをいじめていただけ。美羽、私のことを庇う必要はないよ。もう、手遅れで、この秘密を使って脅すことは出来ないんだから。はい、これが証拠、パスワードは設定してないから」


 美羽が私を庇おうとしてくる。はは……出来ればやめてほしいな。いじめた人物を庇うことって、わりとトラウマになっているんだ。

 だって、私は幸せになれないということを、突き付けられているような気がするからさ。

 

「くれはっ」

「あ、今は私だけだったけど、山本や竹田も一緒になっていじめてたよ。これでいいでしょ。じゃあ、話はおしまい」


 先導したのは確かだけど、美羽のことをいじめたのは彼女たち自身の意志。

 だから、その報いを受けるのは当然でしょぅ?


(これでいいよね)


 そうして、私は階段から下の階へと降りようとする。伝えなければいけないことは全て伝え終わったし、何より、美羽以外と話す必要性は感じないから。

 でも、それは私の自己満足だったらしい。その証拠に……

 

「ふざけないで!」


 篠宮恵が、私の方へと近づいてきて、頬を全力で叩く。今は美羽が近くにいるから、しっかりと痛覚が働いてくれて、頬を全力で叩かれた衝撃が、じん、と遅れて広がる。

 熱い。痛い。

 でも、それ以上に――


 (……はは、ありがたいや)


 この痛みのおかげで、私の心の痛みは和らいだ。

 体の痛みとは違って、心の痛みは一向に治らない。だから、別の痛みで麻痺させてくれるのは、本当にうれしかった。

 

 篠宮恵は、怒りで顔を真っ赤にしていた。

 私が階段を降りようとした瞬間、感情だけで動いたのが分かる。


「痛ったいなぁ。まぁ、これはこれでいいんだけど」

「さっきから聞いていれば……美羽はこれよりも、もっと辛くて痛い目にあってきたんだよ。なのに、何でそんな態度なの⁉ ふざけないで、神崎のせいで、美羽はこんなにも辛い目にあったんだよ!」

「あっそ。で、どうすればいいの? 謝罪? 土下座? それとも、慰謝料? できれば、慰謝料はやめてほしいな。懐がとても寒いから」

「神崎……アンタって人は!」


 篠宮恵がもう一度拳を振り上げ、私に向かって振り下ろそうとした。

 けれど、その拳が私に届くことは無かった。それは、担任の先生が恵の腕を掴んだからであり、女子高校生と成人男性、力の差は明確だった。

 あーあ、もったいない。

 

「篠宮、どんな事情があっても、暴力は駄目だ。ただ、神崎の態度も褒められたものじゃない。むしろ、反省の気持ちを見せたらどうだ? それに、このいじめについては、保護者にも報告するからな」


 保護者? 馬鹿馬鹿しい。あの親戚の人が、私のことを気にかけてくれるわけないじゃんか。


「いいよ。あの人はどうせ、私に興味ないから。それと、奨学金についてはこれで取り消しでしょ? 取り消しの手続きとかはある?」

「神崎、俺が言ってるのはそう言うことじゃない」

「ああ、説教ね? さっさと終わらせて。『いじめは良くないことだ』なんて、耳が痛くなるほど聞いた話だから」

「神崎!」


 先生の声が鋭く響いた。

 でも、その言葉を聞く理由なんて無い。どうせ、この一件で奨学金は取り消し、だから学費を払うことが出来ず、退学になることは確実だったからだ。

 でもね――

 

「だって、私は美羽をいじめたことに、後悔はしていないから。反省しろって言われても、出来るはずがない」


 そう言って、私は扉に手をかけ、階段に足を踏み入れる。


「じゃあね、私の美羽。元気に生きなよ。もう、会うことはないと思うから」


 できれば、今度は友達としてやり直したいな。

 でも、私は美羽のことをいじめてしまったから、もうやり直すことなんて出来ないんだ。


 静かな階段を下りていく。

 今は授業中だから、いつもはうるさい場所も凄く静かで、私の足音だけか響いていく。

 まるで、私の心のように伽藍洞だ。

 

――――――――――――――――――――――――


「何かいいのはないかなーっと」


 私は、あの後授業に戻らず、無断で学校から帰っていた。

 でも、家にいてもすることは無いし、アルバイトも無かったため、ただこの街を散歩していだけ。今までの人生で、一番無価値で一番穏やかな時間を過ごしていた。


 そして夕方になり、私はコンビニで今まで口に入れたことが無いオレンジジュースと焼き肉弁当を買ってみた。

 普段は金の無駄になるだけだから買わないのだけど、もういいかなと思っていたから。


 けれど、その帰り道――


「美羽?」

「あ、紅葉」


 古くてボロボロのアパートの前で、私は美羽と会うことが出来たのだ。


「どうして、ここに?」

「うーん、何となく?」

「逃げないの?」

「なんで?」

「だって、ここだったら、先生たちに見つからずにいじめることが出来るんだよ」

「いじめるの?」

「……しないけどさ」


 まるで、長年の友人と軽口を交わすように、私と美羽の間で言葉が飛び交う。私はコンビニ袋を持ったまま壁にもたれかかり、壊れかけた街灯の下で笑った。

 やっぱり、美羽と話すのは好きだんだなぁ。


「変なの。普通はいじめてきた人は避けるでしょ。もしかして、本当に壊れて私に依存しちゃったの?」

「ううん、別に。寂しいなとは思うけど、そこまで染まってないよ」

「なんだ、つまんない」


 つまらないと口にしたけど、もうそんなことをするつもりはない。……だって、あれは悦びじゃなくて罪悪感だと知ってしまったから。

 

「それならさ、すぐそこの公園で少し話さない?」

「いいよ。すぐに行こう」

「……距離近すぎるでしょ」


 この時間をもう少し味わいたくて、公園で話さないかと誘ってみる。すると、美羽が急に近づいてきて、私の手を掴んで走り出した。

 その姿は、とってもいい笑顔で、見ているだけで心が癒されてくる。

 

「距離が近いって言うけど、もうキスをした仲じゃないの? それも二回も」

「……私からしたことだし、言い返せないや。あと、美羽の手って温かくない? それとも、人の手ってこんなにも暖かい物なの?」

「そうかな? 確かに、恵からは『美羽の手って、冬でも温かいね』って言われたことがあるけど」

「ふーん、そうなんだ」

「嫉妬してるの?」

「別に。美羽の親友なんてどうでもいい」

「嘘つき」


 はたから見たら、いじめた側といじめられた側だとは思わないだろう。それほどまでに、今の私たちは笑顔で、仲良く話すことが出来ていた。


「前から思ってたけど、美羽ってなんで私のことを信じるの?」

「何でだろうね? わたしもわかんないや」

「変なの」


 ほんと、美羽がもっと悪い子だったら、私はもう少し楽だったのに。

 そんなことを考えていると、美羽が私の手を握り直し……いや、私の背中に手を回して、唇を近づけた。


「ねぇ、今日だけはわたしの体を好きにしていいよ。キスもいいし、暴力もいい。それ以上のこともしていいよ」

「なんで、そんなことを言うの?」

「紅葉が、一人ぼっちに見えるから。わたしだけは、一緒にいてあげたいんだよ」


(ほんと、温かい。このままずっと、こうしていたい)


 けど、私にそんな資格なんてないんだよ。

 

「いたっ!」

「美羽は私の物なんだから、勝手なことをしないで。ほら、さっさと離れて」

「うぅ、まずは言葉で言ってよ。デコピンは駄目でしょ」

「今更じゃない?」

「……確かに」


 ははっ、ほんと、こんな関係になりたかった。


「……ねぇ、紅葉。こうして笑ってると、いじめられてたことなんて嘘みたいだね」

「嘘じゃないよ。全部本当で私の罪。でも、今は……少しだけ忘れてもいいかな」


 最後くらい、少しくらい楽しんでもいいと思うから。


「明日も学校で会える?」

「無理だよ。これはどうしようもないし、私自身も学校に行くつもりが無いから」

「どうしても?」

「うん。いじめたことは罪だと思っているけど、後悔もしてないし、反省もしてないからね」


 そう言うと、私は美羽の腕の中から軽やかに身をほどき、踊るような足取りで距離を取った。

 コンビニ袋をがさりと揺らし、中からペットボトルのオレンジジュースを取り出す。

 キャップをひねって開けると、冷たい液体を一口だけ喉に流し込む。その液体は、とっても刺激的で、血なんかよりも、ずっとおいしかった。


「ははっ、おいしいなぁ」

「オレンジジュース、好きなの?」

「全く、今初めておいしいと思ったくらい」


 みんな、こんなにもおいしい物を飲んでいたんだ。ほんと、羨ましいな。

 

「ねぇ、一つだけ、聞いてもいい?」

「うん、いいよ。何でも聞いて。紅葉の頼みなら、全部聞くから」

「それならさ、今でも私のことを友達だと思っているの?」

「うん。紅葉はずっと、わたしの友達だよ」


 即答だった。美羽に考えた様子は一切なく、これが嘘だとは疑う余地も無い。


「……即答なんだね」

「だって、考える必要なんてないから」


 (友達か……ははっ、夢は叶ってたんだ)


 嬉しくて、胸がぎゅっとなる。

 そっか、それでよかったんだ。憎むべき妹とか関係ない、美羽だけを見ていれば、この苦しみは無かったんだ。

 

「ははっ、そっか。それなら、よかったかな」


 そう言って、私は袋の中にペットボトルを戻す。


「私はね、美羽のそういう所が、本当に――大ッ嫌い(大っ好き)なんだよ」


 嬉しい。友達という何よりも大事な存在が、私にもいたんだ。

 それなら、この世界に生まれた価値があった。たとえ、自ら友達と離れる選択をしていたとしても。

 

「紅葉、忘れてるよ」


 美羽、ベンチの上に置かれたコンビニ袋を指さす。

 ああ、忘れていた。でも、いいや……美羽がいなかったら、味覚が無くなってしまうから、そんなもの食べたところで何も変わらない。

 

「ああ、それはあげるよ。美羽がいない私には、そもそも必要ないものだったから。じゃあね、ばいばい。私の分まで、幸せに」


 私は振り返らずに歩き出した。

 もう、会えない大事な友達。君がこれから幸せに生きてくれるのなら、それだけで私も幸せになれるよ。

 

「明日も、明後日も、その次の日も、学校で紅葉のことを待ってるから! だから、帰って来てよ!」


 美羽が背後から大声で叫ぶ。

 でも、私はそれにこたえなかった。


――――――――――――――――――――――――


「餓死か……愛に植えていた私にはちょうどいいかな」


 私は、あれから何も口に入れなかった。もちろん、それは食べ物だけじゃなく、水のような水分もだ。

 でも、私は普段から食べ物を食べるという習慣が無く、よくて一日一食、それもかなりの少量だけを食べていた。これなら、餓死が先か、脱水死が先か、それを襲うすることは出来なかった。


(でも、それでいい。私にはそれがしっかりだ)


 五感に異常があって、世界のことを上手く理解できていなかった私には、死因すら中途半端なほうが良い。

 だから、この選択に悔いは無いんだ。


 渇きは無い。

 飢えは無い。

 それを感じることは出来ないから。


 でも、その虚しさが、私の心を『』()にする。

 ……いや、今のは嘘だ。心の『』の中にも、たった一つだけ存在するものはある。


『紅葉はずっと、わたしの友達だよ』


 その言葉だけが、蝋燭の火のように心に灯っている。


(ははっ、なーんだ。最後の最後に、良いことはあったんだ)


 どんどん意識が遠のいていく。

 でも、私はそれすら気にならなかった。ずっと、ずっと願っていたことが、最後の日にようやく叶い、もう思い残すことが無かったから。


(あーあ、最後ぐらい呪詛を残そうかなって思っていたんだけど、もうできそうにないや)


 まぶたが重くなり、世界の輪郭が溶けていく。

 

(ああ……これで終わりか。やっと、静かになれる)


 最後に浮かんだのは、美羽の笑顔だった。

 憎んで、壊して、縛りつけてきたはずなのに――どうして、こんなにも温かい。


 その温もりに触れた記憶を抱いたまま、私は深い闇へと沈んでいった。

 もう、呪いの言葉も、憎しみも、何ひとつ残せない。

 ただ、心の奥で小さく願う。


 ――どうか、美羽だけは幸せに。



ここまで読んでいただき、誠にありがとうございました!

ここで、紅葉視点は終わり、次話からは美羽視点に戻ります。

面白いと思いましたら、ぜひ☆や感想などをお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ