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いじめる貴方といじめられる私  作者: 月星 星那
溺痛美毒(裏)

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狂気(裏)

 あの日から、しばらく日々が過ぎていった。

 美羽が篠宮恵と話すことは、あれ以来一度も無く、色んな友達に囲まれていても、どこか空虚なように見えた。

 最初の内は、先生や友達がわたしと恵が話そうともしないことに疑問を抱き、何度も質問していたが、今ではその状況に慣れてしまい、誰も口出しすることは無かった。


 そして……。


「いいね、その調子だよ」


 私は今もなお、美羽のことをいじめていた。

 でも、今までとは違う。親友を傷つけてしまった美羽は、贖罪を望んでいるのか、それとも私というまだ近くにいてくれる人に依存しているのかわからないけど、このいじめを喜んでいたのだ。

 だから、これは何も間違っていない。

 

「じゃ、次はこれ……ほうれん草の根元。栄養があるから、ちゃんと食べなよ?」

「あははっ! ほんと、ペットみたい。人間がされる仕打ちじゃないよ!」


 美羽は、四つん這いになって私から食べ物――餌を貰っていた。

 とは言え、ほうれん草などの栄養がある食べもの。わざわざスーパーで買って、水洗いまでしてあげたんだから、これは正しいことに決まっている。

 

「本当に、美羽は可愛いね。ペットとして飼ってあげたいくらい。……はい、次の餌だよ」

「ははっ、こんなことをされても笑顔をやめないなんて、本当に狂ってるよ」

「……うっ」

 

 ほうれん草を食べさせられて、美羽は表情を歪ませる。

 けれど、食べることは一切やめず、自分からどんどん食べているから、私も手を止めずに次々と餌を与えていく。

 うん、きっと将来は大きくなるよ。

 

「ははっ、本当に美羽はいい子だね。ほら、ご褒美だよ」


 美羽の顎を撫でてみる。

 たぶん、ペットを飼っている人はこんな気分なのだろう。自分より格下の生物を愛することで、優越感と支配欲を満たしてすことが出来るのだから。

 ほんと、麻薬みたいでやめられない。

 

「よし、餌やりはこれで終わり。次は、何をしようか?」

「……次?」

 

 美羽が笑顔を崩さないまま、問い返してきた。


「うん、そうだね……あっ、こんなのもいいんじゃない?」


 私はそう言って、足元に手を伸ばす。

 この日の地面は、昨日の雨のせいで、ちょっとだけぬかるんできて、靴底が沈むたびにぐじゅりと音を立てた。

 私は泥を指先ですくい上げて、わざとらしく笑みを浮かべる。


「ほら、美羽は可愛い女の子なんだから、ちゃんと化粧をしないと」


 掬い上げた泥を美羽の顔にこすりつける。

 冷たい泥が頬を伝い、口元にまで広がっていく。でも、実際の化粧という物も、こういうものなのだろう。

 一度もしたことが無いから、わからないけど。

 

「あははっ! なんて醜い顔! ほんと、いい気味だよ!」

「それな! この顔をSNSにあげると、どんな反応が来るんだろうね!」


 取り巻きたちが、美羽の姿を見て、そんなことを口にしていた。

 スマホのレンズがこちらを向き、シャッター音が連続して響く。 いじめは隠されるべきものだから、SNSに拡散されることはないだろう。

……酷いってことは否定したいけど、写真を撮りたいほど可愛いのは共感できるよ。


「うーん、化粧ってどうやるかわからないな。あまりうまくできない……」


 美羽の顔に着いた泥を指先で広げていく。

 たぶん、化粧に慣れている人なら、もっと可愛くできるのだろうけど、私にはそれほどの技術は無い。

 でも、初めてなりには上手くできただろう。


「よし、これで終わり。美羽の良さを引き出しているんじゃない?」


 出来上がった顔は、いろんなところに泥が塗られていて、地肌なんて少しも見えない。

 でも、その隙間から見える瞳がとっても輝いていて、宝石のように見えてくる。……実物の宝石なんて、見たことないけど。


 でも、私にとって、何よりも価値があるもので、本当に好きだった。


「まだまだ次の授業まで時間があるね。次は、何をしようか?」




 ただ、この時……私は、致命的なミスをした。このミスが無ければ、私たちは互いに依存し合い、堕ちるところまで堕ちてしまったのだろう。

 でも、そんな未来が来ることは無かった。


「傷……?」


 私は、見られてしまったんだ。私の手首についている、刃物で切った傷の跡を。

 そして、美羽の小さな呟きを聞いた瞬間、私は目の色を変えて、美羽の首を握り絞めてしまった。


(やめて、見ないで……。私から離れないで)


 今まで、私が異常者だったせいで、友人なんてものが出来なかった。

 だから、美羽だけにはそれを隠さないと。


(忘れて、忘れて)


 傷のことなんて、きれいさっぱり忘れてほしい。


「神崎! やりすぎだ!」

「そうだよ! それはヤバすぎるって!」


 それを見て、取り巻きたちが必死に止めてくる。

 でも、やめられない。この傷のことがバレると、私が異常者なんじゃないかって思われる気がしたから。

 この痛みと苦しみで、忘れてほしい。美羽がいなくなると、生きてる理由が無くなっちゃうから。


『死ぬよ』

 

「あっ……」

「ごほっ、ごほっ……!」


 この前、散々私のことを苦しめた私が、声を掛けて来た。

 その声で正気に戻ると、美羽が意識を失う直前のような表情をしていて、このままいけば、取り返しのつかないことになってしまいそうだった。


「美羽、ごめんね。そんなことをするつもりはなかったんだ。信じてくれる?」


 本当に、悪いことをした。

 謝りたい。私の側からいなくなってほしくないから。


 手首の傷を見ても、きっと美羽は美羽。私のことを受け入れてくれる。

 そうなるように、私が仕向けたし、その通りに動いてくれたんだから。


「ねぇ、みんな、どうしたの?」


 でも、この場にいる全員が口ずさんで、私のことを見ているだけだ。

 一体何があったの? せいぜい、首を絞めただけじゃんか。


 それって、そんなに苦しいこと? 私なんて、子供の時に数えきれないほどされた経験があるけど、息がしにくくなるだけで、大して苦しくなかったよ。

 ……まぁ、意識が無くなることがあったのは認めるけどさ。


 なのに、なんでそんな目で私を見るの?


 まるで、見たことの無い異常者を見るような目で。

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