始まり
私は事実確認を最初にした。美羽の髪の毛や水筒についてある唾液を隠れて採取し、勝手にDNA検査に出したんだ。その費用は数万円もしたけど、一日一食にすれば、出せない額ではない。
こういう時に、私の体は役に立つよね。だって、空腹なんて感じないんだから。
その結果は、もちろん異母姉妹。
うん……驚きなんて、どこにもない。だって、父親が同一人物なことは分かっていたから。
(あはっ、それなら、していいよね)
とは言え、美羽はクラスの人気者だ。私が何かしようとしても、仲間を呼ばれてしまうと、一瞬で負けてしまう。だから、私は弱みを握ることにした。
必死にアルバイトをして、中古の安いガラケーを買う。契約? ってのはよくわからなかったから、使える機能はカメラと電話とメールぐらい。でも、私がやろうとしていることは、それだけで十分だった。
時間を必死に作り、クラスメイトたちの弱みを握っていく。彼氏がいるとこを隠している人や、不良と絡んで酒やタバコを嗜んでいる人、それに二股している人まで、クラスメイトの弱みはさまざまだ。
そして、これをばらすと言えば、お人よしの美羽は黙って私を受け入れてくれる。それに……。
「ねぇ、ちょっと提案があるんだけど」
「は?」
「アンタが何の用?」
「それは――」
美羽みたいな心優しい人でも、嫉妬されることはあるんだよ。だから、クラスメイトの感情を煽ってしまえば、私の仲間を作ることは出来るんだ。
ただ、あくまで目的が一致しただけ。友達なんて言えない間柄だけどね。
これらは、全部うまくいった。これ以上ないほどに、こんな時だけ成功したんだ……。
(まぁいいや、これで準備は終わったからね。……これで、やっと手に入れることが出来る)
準備は終わり、後は実行するだけ。私は、美羽に一人で屋上に来るように伝えた。
「く、紅葉。一人で来たよ……」
美羽は少し怯えていた。それは当然のことだろう。だって、小さな嫌がらせを続けて来たんだから。
でも、それは今日でおしまい。これからは、もっとひどいことが出来る。
「美羽、もう少し近づいてきて」
「う、うん……」
「もうちょっと、あと一歩だけ」
美羽はおそるおそる足を踏み出した。
その一歩が、やけに大きく胸の奥に響く。
(そう……それでいい。もっと近くに来て)
喉の奥が熱くなる。
心臓が、さっきからずっと落ち着かない。
美羽が近づくたびに、世界が色づく。
それが嬉しくて、苦しくて、怖くて、どうしようもない。
「紅葉……本当に、どうしたの?」
震えた声。
怯えと心配が混ざった瞳。
その視線が、胸の奥のひび割れを刺激する。もう、私に優しさを向けないで。
「いいよ」
その言葉と同時に、美羽の背後から協力してくれたクラスメイトの二人が、バケツに入った水を、美羽の頭からかける。そのせいで、美羽の全身が濡れて、柔らかい肌に濡れた服が張り付いた。
美羽は何が起きたのか理解できないまま、ゆっくりと私を振り返る。その瞳には、驚きと恐怖と、そして少しの混乱が混ざっていた。
(ああ……その表情)
胸の奥がざわりと震えた。痛みとも快感ともつかない、説明のつかない熱が、心のひび割れをなぞるように広がっていく。溺れてしまいそうなこの感覚、もっと……もっと欲しい。
「紅葉……?」
「ははっ、美羽。これは何だと思う?」
ガラケーに保存した写真を見せる。それは、私たちのクラスメイト達の弱み。私にとっては、一円の価値も感じないものだけど、誰よりも優しい美羽にとっては、何が何でも守らないといけない秘密だった。
「美羽が私の言うことを聞く限り、この秘密は誰にも話さないよ。だから、これからは私の言うことを聞いて」
「どうして……そんなことをするの?」
その声は震えていた。
拒絶でも怒りでもなく、ただ純粋な悲しみだった。
(もっと、もっと苦しんで。私と……同じになって)
「理由なんてどうでもいいよね。それで、美羽はどうするの? クラスメイトを守るために私の言うことを聞く? それとも、自分だけ楽になって、みんなを見捨てる?」
美羽には、選択肢なんて無いような物なんだよ。だって、美羽は誰よりも優しくて、自分のことよりも他人の方を優先する人で、憎たらしいほど理想的な人だから。
私は、この選択に後悔なんてない。 美羽の苦しみは、私の心を満たしてくれる。 美羽が近くにいるだけで、世界が色づく。
だから、この行動は正しい/間違っているんだ。
「それは……」
「3……2……1……」
「待って! 従う、従うから!」
やっぱり美羽は優しいよね。他人のために、自分の体を差し出すんだからさ。
安心して、その見返りとして、憎い妹/大切な友達を壊してあげるから。
「やっぱり美羽は優しいね。他人のために、そこまで頑張るなんて」
美羽を地面に座らせ、その太腿に私の手を置く。水に濡れて冷たくなったスカートの感触が、しっかりを私の手に伝わってきて、ますます私を興奮させる。ほんと、美羽に触れると普通にも触れることが出来るから、やめることが出来ないんだ。
(もっと……もっと……)
「ははっ、そんなに怯えないでよ。私は、美羽の笑顔も好きなんだからさ」
まるで、お人形さんみたい。私は人形で遊んだことは無いけど、きっとこういう気持ちなんだろうね。そう思うと、人形を買ってくれなかったお母さんが憎く思えてくるよ。
でも、許してあげる。だって、こんなにも最高な人形が手に入ったんだから。
美羽の頬を撫でる。大切に、大切に。
ああ、笑わせたい。歪ませたい。壊したい。どうすればいいかな? どうすれば望みが叶うのかな? 何回も何回も試さないと。
「ねぇ、二人とも。美羽を掴んで」
「いいよー。面白そうだし」
「ほんと、いい気味だよねー」
あの二人は、そうして美羽の体を掴み始めた。その動作には、思いやりなんて無くて、美羽の体が痛みつけられたのは、確認しなくて理解できる。
でも、安心して。私はあの二人とは違う。私は美羽のことを愛している/憎んでいる。だから、美羽が悲しむようなことはしないよ。
「くれはっ……何を……」
「抗わないで、逃げないで。私という存在を受け入れて」
「――っ、いたいっ」
ぐっと、美羽の太腿を強く掴む。……えっと、大腿直筋か中間広筋だっけ? それらの筋肉が、私の手から逃れようとするかのように動いていき、私の指がより深く沈んでいく。それと共に、美羽が可愛い顔を歪ませた。
あははっ、その顔はいいね。本当にいい! もっと、私に見せて!
「やめっ――くれはっ」
太腿で掴むだけでこの顔をするのなら、もっと別の方法だとどうなるのだろうか? 試してみよう。
筋肉と皮膚の間に空間が出来るように、柔らかくて暖かい肌を引っ張る。
美羽と私が姉妹であるということを確認したくて、固い爪で肌をひっかく。
生まれて初めて感じる味覚という物を実感したくて、美羽の首筋に流れている水滴を舐める。
「泣かないで。私は美羽のことを愛しているから、酷いことをしようとしている訳じゃないんだよ」
そう言いながら、私は美羽のことをいじめていく。
『本当に、それでいいの?』
誰かが、頭の中で私に呼び掛けたけど、それはきっと気のせいだ。だって、こうでもしないと、私は幸せを手にいてることが出来ないし、普通になることも出来ないんだから。
(そっか。美羽を私の物にすれば、友達も、家族も、五感も手に入れることになるんだ。ははっ、いいね。そうしよう)
だから、自分のゆがみにも、気付くことが出来なかったんだ。




