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いじめる貴方といじめられる私  作者: 月星 星那
溺痛美毒(裏)

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14/26

小学生

 そうして、私は小学生になった。

 けれど、何も変わらなかった。

 幼稚園の頃と同じように、私の見た目は冴えず、同じ園から上がってきた子どもたちが多かったせいで、気味悪がられることは相変わらずだった。


 ただ、その時にはもう自分の異質さにも、周りの環境の異常さにも理解し始めていて、この点についてはどうしようもないと諦めかけていた。


(でも、いい子にしてたら、きっといいことあるよね)


 私は愚かにも、そう考えていた。他人に優しく、自分のことよりも優先して動いていれば、いつかは友達が出来るって。

 現実は、そんなに甘くないのにね。……甘さなんて知らないけど。


「バケモノ、これを持てよ」

「宿題やっといて」

「代わりにかたずけをやっといて」

「……うん」


 誰が言い始めたことかは忘れてしまったし、気にしたことも無かったけど、気づけば私は周囲の人たちに利用されていた。

 ほんと、子供って賢いよね。誰よりも早く、私の利用方法を理解して、うまく扱うんだから。


 でも、私はそれに逆らえなかった。どうしても、友人が欲しくかったから。

 だから、雨の日でも、夏の暑い日でも、何故か体が重くて動かない日でも、私はクラスメイトたちの命令に従っていた。……もちろん、この時もお母さんからの虐待は続いていたよ。


 そして、事件は起こった。


「なぁ、バケモノ。一緒に遊びに行こうぜ」

「えっ? いいの?」


 私は、初めてクラスメイトから誘われて、浮かれていた。

……いや、そんな感情は育って無かったから、この場合は期待していたと表現したほうが正しいか。


(もしかしたら、友達になれるかもしれない)


 そう思って、私はクラスメイトたちについていった。

 足取りは軽く、放課後の街へと足を踏み出す。どうせ、お母さんは家にいないから、返るのが多少遅くなっても、誰にも責められない。


「ねぇ、どこに行くの?」

 

 問いかけても、誰も答えてくれなかった。

 ただ、ひそひそと笑い声が背中にまとわりつく。


 私はそれを「楽しそうだから」と解釈した。

 友達になれる証拠だと思い込んで、歩みを止めなかった。


 そして――。


「おい、これを持ちながらここで待っとけ」


 途中で合流してきたクラスメイトの一人が、何かを渡してきた。

 それは、数冊の漫画で、買ったばかりのように綺麗だった。


「いいけど、なんで?」

「理由なんてどうでもいいだろ。俺らは少し用があるから、それが終わるまではずっとここで待っとけよ」

「う、うん」

 

 私は漫画を胸に抱えながら、その場に立ち尽くした。私は触覚が無いから、しっかり目で見ないと漫画を持っているか判断できず、ずっと抱えている漫画を見続けていた。

 

(これを持っていれば……友達になれるのかな?)


 寂しいとは感じない。けれど、どこか不安で嫌なことが起きそうな予感がしていた。

 遠くから笑い声が聞こえる。私を置き去りにして、彼らは別の場所で楽しんでいるのだと気づいた瞬間、胸の奥が冷たく凍りついた。

 もしかしたら、また利用されたのかもしれない。みんなで遊んでいる間のただの荷物置きとして。


……けれど、現実はもっと悪かった。


「いたぞ!」


 怒鳴り声と共に、数人の大人が駆け寄ってきた。

 その目は鋭く、まるで犯罪者を見つけたかのように私を睨んでいた。


「お前、盗んだんだろう⁉」

 

 指をさされた漫画を見て、私は混乱した。

 確かに私が持っているのは新品の漫画。けれど、それはクラスメイトから渡されたものだ。


「ち、違います。これは、クラスメイト達に渡されたもので……」

「嘘を吐くな! それなら、どうしてシュリンクが付いているんだ⁉」


 シュリンク? そんなもの、私は知らない。急なことばかりで頭が付いていかず、ずっと困惑していた。

 必死に言葉を紡ごうとするけれど、声は震えて途切れ途切れになり、大人たちの視線は冷たく、私の言葉など最初から信じていない。


「返してもらうぞ」


 そのうちの一人が、私が持っている本へと手を伸ばす。でも、クラスメイトたちとの約束を守るために、私はそれを躱してしまった。


「渡せよ! 今なら、俺たちは何もしないから」

「で、出来ません。事情があるんです!」

「ちっ、このガキ……」


 そして、気づけば私の体は殴り飛ばされていた。

 どこが殴られたのか、痛みを感じない私にはわからない。だから、つい手を離してしまった漫画へと手を伸ばす。

 

「まだ盗む気か!」

 

 怒声が飛び、腕を乱暴に掴まれる。

 触覚のない私は、その力の強さを理解できず、ただ視界の揺れだけで状況を把握するしかなかった。


「違うんです……返さないと、約束を破ってしまうから……」


 必死に訴える声は震え、涙も出ない。……いや、そもそも物心がついた時から、一度たちとも泣いたことは無い。

 けれど、大人たちの目には、それが言い訳にしか映らなくて、掴んだ腕を放してくれる様子は無かった。


 そして、視界の端に、あるものが映る。


「はははっ、あのバケモノ、まだやってるよ!」

「おもしろいね。またできるかな?」

 

(ああ……こういうことだったんだ)

 

 クラスメイトたちが私を見て笑っている。それを見て、ようやく私は理解できたんだ。彼らに、嵌められたんだってね。

 痛みは無いし、悲しさも感じない。けれど、胸の奥に冷たいものが広がっていった。

 それは悲しみでも怒りでもない。

 ただ、世界から切り離されていく感覚だった。

 

 こうして気付かないうちに、私の伽藍洞の心が、一つひびが割れた。


――――――――――――――――――――――


「どうして盗んだんだ!」

「ぬ、盗んでないです!」

「嘘を吐くな! ……全く、これだから貧乏の奴らは嫌いなんだ。何をしたっていいと思ってるからな」


 その後、担任の先生に報告され、私は一人で説教を受けていた。いくら嵌められたと言っても、先生は全く信じてくれず、むしろ反省なしとして、より私を責めていく。

 確かに、私の家は貧乏で、服も古びていて、持ち物も人より劣っていた。

 けれど、それが罪になるはずはない。


「全く、給食費の滞納でさえ問題になっているのに、次は窃盗か……。はぁ、ほんと邪魔だな」


 何も言い返すことが出来ない。言い返しても無駄なことは、言わなくても理解できるし、これまでの経験が証明していた。私に味方なんていない……その事実が、重く体にのしかかる。


「お前の母親はいつまでたっても、現れないし、俺だって暇じゃないんだぞ。もういい、さっさと帰れ」

「はい……」

「チッ」


 冷たい吐き捨てるような声が、背中に突き刺さった。

 私は小さく頷き、教室を出る。

 廊下は薄暗く、夕陽が差し込んでいるのに、どこか冷たく感じられた。


(やっぱり……誰も信じてくれないんだ)


 足音だけが響く。

 それはまるで、世界に私しか存在していないかのようだった。


 家に帰っても、お母さんはそこにはいない。金を稼いでいるか、酒を飲んでいるのか、知らない男と一緒にいるのか、そのどれとも違うものなのか、知らないし興味も無い。

 もし居たとしても、待っているのは罵声と暴力だけだ。

 学校でも、家でも、私に居場所はなかった。


(いや、お母さんに連絡が言ったってことは、暴力がさらに強くなるのか……。嫌じゃないけど、めんどくさいな)


 お母さんはちょっとでも気に食わないことがあると、すぐに私に対して暴力を振るってくる。

 前に、少しでも見栄えをよくするために、お母さんの百円を盗んで髪飾りを買ったら、それだけで肌をライターで炙ってきたくらい。もちろん、八つ当たりとかでも暴力を振るうし、何も無いのにわざわざ近づいて暴力を振るう時もある。

 痛くはないけど、それが私を異常者だと知らしめてくる。それだけで、今後一切友人が出来ないような錯覚に襲われてしまうのだ。


(……友達が出来ないのだけは嫌なんだよね)


 何故かはわからない。けれど、友達への執着だけが私を突き動かしていた。

 捻じれ、歪み、ひび割れた心を抱えながら、私は生きていた。

 その歩みが、より悪い方向へ進んでいることに気づきながらも。



 

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