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いじめる貴方といじめられる私  作者: 月星 星那
溺痛美毒(裏)

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13/29

モノクロ

(ははっ、なーんだ。最後の最後に、良いことはあったんだ)


 どんどん意識が遠のいていく。

 でも、私はそれすら気にならなかった。ずっと、ずっと願っていたことが、最後の日にようやく叶い、もう思い残すことが無かったから。


(あーあ、最後ぐらい呪詛を残そうかなって思っていたんだけど、もうできそうにないや)


 まぶたが重くなり、世界の輪郭が溶けていく。


(ああ……これで終わりか。やっと、静かになれる)


 最後に浮かんだのは、美羽の笑顔だった。

 憎んで、壊して、縛りつけてきたはずなのに――どうして、こんなにも温かい。


 その温もりに触れた記憶を抱いたまま、私は深い闇へと沈んでいった。

 もう、呪いの言葉も、憎しみも、何ひとつ残せない。


 ただ、心の奥で小さく願う。

 ――どうか、美羽だけは幸せに。


――――――――――――――――――――――――


 思い返してみれば、私の人生は生まれた時から詰んでいた。


「紅葉、その顔を私に見せないで!」


 その声と共に、幼かった私は母親に殴られた。その時の私は、まだ幼稚園に行っているような年齢。たとえ女性であろうとも、大人の力は、幼い私では抗えないほど強かった。


「あの人の、隼人の顔を思い出させないで!」


 この時の私は理解してなかったけど、今の私なら何があったのか理解できている。

 それは、私のお父さん……つまり、隼人は母親と私を捨てたんだ。いや、捨てたより、裏切ったのほうが表現とした正しいか。


 何があったのかというと、私が生まれてから半年くらい後、お父さんが急に家を出ていったんだ。その理由は、浮気相手に子供が出来たから。

 そもそも、お父さんとお母さんが結婚した理由は、お母さんの実家が太かったからだ。お母さんはお父さんのことが好きだったようだけど、お父さんはお母さんのことを、何のとも思っていなかった。


 けれど、その結婚するにあたって、お母さんは実家からかなり反発されたようで、ほとんど駆け落ちのような形で結婚した。でも、お父さんから見れば、わざわざ結婚した理由が無くなってしまっており、私たちの家にいる理由が無くなってしまったんだ。


 その結果がこれ。お母さんは捨てられ、好きだった気持ちが憎しみへと変わり、私に対して虐待を行うようになった。

 まぁ、仕方がないだろう。駆け落ちしたせいで、実家とは縁を切られて、金銭の援助を受けることが出来ないし、箱入り娘同然だった人に、日々のお金を稼ぐことは苦痛であっただろうから。


 けれど、幼い私にはそんな事情など理解できるはずもなかった。

 ただ、母の怒りと憎しみが、毎日のように私へと降り注いでいた。


「隼人に似ている顔なんて、見たくない!」


 日々注がれていく暴力、食べることが出来る食料も、残飯や生ごみと言えるような物ばかりで、どう考えても幼い私が真面に成長できる環境じゃなかった。

 

 唯一良かったと思えることがあるのなら、お母さん自身に私を殺そうとする意志は無かったことだ。きっと、私が死んでしまえば、お母さんが生きている理由は無くなってしまうのだろう。

 だから、どれだけ辛い環境でも、何とか生き残ることが出来ていた。


 え? 辛い人生だねって? ううん、私は辛いと思っていない……いや、辛いと思えなかったんだよ。


「本当に気持ち悪い! なんで、表情一つ変えないの⁉」


(表情? それって、どうやって変えるの?)


 私はこの時……いや、今もなんだけど、物心がついた時からずっと、白と黒のモノクロで、何もない世界で生きていた。


 色を認知することが出来ず、味や匂いと言った物を知ることは出来ず、触覚すらも存在しなかった。私が分かるものは、自分自身の心だけで、それすらも伽藍洞だったけど。


 色を認識できないということは、世界が歪んで見えるということ。その世界の中で育っても、世界の美しさという物が分からなくて、外の世界を受け入れることが出来なくなってしまう。


 味や匂いと言った物を知ることが出来ないということは、生きるために必要な食事という行為の必要性を理解できないということ。どれだけ食べ物があろうとも、それを食べるという考えに至れない。


 触覚すらも存在しないということは、自分の輪郭が理解できないということ。歩いていても、足を動かしている感覚が無く、自分の目で見ないと実感が持てない。外と内の区別がつかず、こんな世界では自分という存在が成長しない。


 だから、私は暴力を振るわれても痛いと思えず、食べ物と入れるのか怪しいものも、普通に食べることが出来ていた。

 それはよかったのか悪かったのか? これらのおかげで虐待に耐えることが出来ていたのだが、虐待を促進する原因にもなっていた。

 

「なんでっ、どうしてっ、私からこんな化け物が生まれたの⁉」

「お母さん、大丈夫?」

「うるさい! もう、しゃべらないで!」


 私のような異常者には、お母さんのような普通の人と、共感なんて出来るはずも無かった。


(私は、お母さんから嫌われているのかな? どうしてだろう?)


 でも、この時の私には、その理由なんて理解できるはずも無かった。

 まだ幼くて何も知らず、普通の子供が手に入れている感情すらも無かったから。


(うーん、わかんないや。お母さんに好かれるのは諦めよう。友達が出来たら、何かわかるかもしれないしね)


 そうして、私は親子の愛情という物を諦め、友情というものに期待した。

 でも、全部が狂ったのはこれが原因だったのかもしれない。

 私が友情を欲しなければ、こんなにも狂うことは無かったし、美羽が傷つくことも無かった。だから、私は幸せを求めるべきじゃなかったんだ。


――――――――――――――――――――――――――


 友人を作る。それを第一の目標にして、私は幼稚園で色んな人に話しかけた。


 でも、思い返してほしい。私の家は、箱入り娘だったお母さんが稼いだ金しか収入が無く、その母親にすら愛されていなかったから、まともな服も手に入らないし、髪を整えられるという経験も無い。

 だから、見た目が致命的に悪く、みんなから避けれてしまったのだ。


(あれ? なんで、みんな逃げるんだろう?)


 でも、幼い私には見た目の大切さなど理解できない。いや、白と黒のモノクロで生きる私には、どれだけ年齢を重ねても、見た目の大切さなど理解できなかっただろう。


(うーん、何が悪いのかな? 表情が変わらないから? 表情……みんなの真似をしたらいいのかな?)

 

 そうして、私は笑顔という物を手に入れた。しかし、それがさらに事態を悪化させた。


「あ、バケモノが来たぞ! みんな、退治しろ!」

「おー!」


 見た目が悪く、いつも変な笑顔を浮かべている私を見て、子供たちは私のことを化け物だと思ったのだろう。嫌がらせ程度ならまだマシだったが、幼稚園の先生の目を盗んで石を投げてくることもあった。


 それは、私という存在をさらに化け物へと変えていった。

 痛覚という物が存在しない私は、石をぶつけられても気づくことが出来ず、いつもの変な笑顔を浮かべ続けてしまう。

 そんな姿を見れば、周囲が私を気味悪く思うのも当然だった。

 

 幼稚園の先生でさえ、石を投げられている私を目撃すると、その不気味さに顔を曇らせ、私と接するときには恐怖がにじみ出るようになってしまい、その恐怖を、周りの子どもたちは敏感に察知する。

 

 結果として、私はさらに孤立を深め、誰からも近づかれない存在になっていった。


(どうして? なんで?)

 

 友達を作ろうとしているのに、どんどん周りから孤立していく。

 どうしても分からなかった。

 どうして、私が声をかけても、みんなは逃げてしまうのか。

 どうして、笑顔を真似しても、気味悪がられるのか。


(私だって、ただ友達が欲しいだけなのに……)


 孤独は疑問に成り、疑問は執着へと変わる。

 誰か一人でもいい、私を受け入れてくれる存在が欲しい。私の願いは、ただそれだけ。


(なら、もっと、いい子にならないと)


 しかし、小学生になっても、友人が出来ることは無かった。……いや、より悪い方向へと、状況は変わってしまったんだ。

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