プロローグ
放課後の校舎は静まり返り、女子トイレの中だけが異様な空気に満ちていた。
そして、目の前の小柄な女子がスマホを構え、わざとシャッター音を響かせた。
画面に映るのは、乱れた髪と濡れた制服――惨めな自分の姿。
「ハハハッ! クラスの人気者がこんな姿だなんて、最高じゃん!」
小柄な女子はスマホを構えたまま、わざと角度を変えて何枚も撮影する。シャッター音が連続して響き、わたしの惨めな姿が記録されていく。
背の高い女子は、わたしの鞄に視線を落とし、何かを取り出した。
紙が破れる音が、静かな空間にやけに大きく響く。床に散らばる白い切れ端を見ても、わたしは動けなかった。
「ねぇ、今どんな気持ち? 大切にしてるものが、こうなるのを見て」
その声は、わざと楽しげに響く。視線を上げると、このいじめの主犯――神崎紅葉がゆっくりと近づいてきて、わたしの髪に触れた。
冷たい感触が首筋をかすめ、背筋が凍る。
「いたっ」
「良いよ、大声で助けを求めても。……その瞬間、あんたの友達の秘密は全部、校内に広がる。ははっ、美羽にはそんなこと出来ないよね。だって、優しい優しい美羽なんだから」
吐息が耳元にかかり、背筋が凍る。
わたしは唇を噛み、目を閉じるしかなかった。
「いい子ぶってる人気者なんて、壊すのは簡単なんだよ」
紅葉の囁きは、冷たさと熱を同時に帯びていた。
水滴が制服を伝い、床に落ちる音が、まるで処刑の合図のように響いていた。
「どう? みんなの前じゃいい子ぶってるけど、ここじゃ声も出せないんだ」
紅葉の言葉は冷たく、静かなトイレに響く。美羽は唇を噛みしめる。叫べば誰かに気づかれるかもしれない。けれど、それは絶対に許されない。
この人たちは、わたしの友達たちの秘密を握っていて、それを人質にするようにわたしを縛っている。
もし声を上げれば、あの子の家庭の事情も、あの子の隠している病気も、全部ばらされる。
「黙って耐えるしかないんだよ、美羽。永遠にね」
小柄な女子がスマホを構え、にやりと笑った。画面には、濡れた制服と乱れた髪――惨めな自分の姿が映っている。
背の高い女子は無言で、わたしの鞄に視線を落とし、靴先で軽く触れた。その仕草だけで、胸の奥が冷たくなる。
そして次の瞬間、紅葉に肩を強く突かれ、世界が揺れた。体の奥に重い感覚が走り、息が詰まる。
「……っ、かはっ!」
喉から漏れた声は、トイレの壁に反響して自分を嘲笑うように響いた。
呼吸が乱れ、膝が震える。冷たい床に水滴が広がり、わたしの影を歪ませていた。
「ほら、声も出せない。……正義の味方さんは、友達を守るために黙るしかないんだよ」
紅葉の口元が、ゆっくりと歪んだ。笑っているのか、嘲っているのか、それとも何かを隠しているのか――判別できない。
その微笑みは、冷たさと熱を同時に帯びていて、わたしの心臓をさらに締めつける。
「これからもよろしくね。可愛い可愛い、私のおもちゃさん」
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