『愛で人は変わる』
『愛で人は変わる』という心理学書を書いた人がいた。
その心理科学者は「人は理屈だけでは変わらない。しかし愛着や承認といった情緒的な結びつきは、脳の安全信号として作用し、防衛反応を弱め 行動の選択肢を静かに広げていく。本書が示すのは 愛が奇跡を起こすという主張ではない。愛が変化を受け入れる余地を人の心に生むという、心理学的事実である。」
要するに、人は正論や説得だけでは変われないが、安心できる愛や承認があると心が守りを解き、自分を変える選択肢を持てるようになるということだ。
心理学者は次にこう述べた。「犯罪という行為を生んだのは生得的な悪意ではなく、多くの場合長期にわたる孤立、不信、そして否定の経験である。心理学の研究は 罰だけが行動を修正するという考えに慎重である。人が変化を選択するためには、まず自分が完全に排除されてはいないという感覚が必要だ。愛や受容は行為を正当化するものではない。しかしそれは、自己を守るために閉じた心をわずかに開かせる可能性を持つ犯罪者は愛で救われるのか、その答えは断定できない。だが、愛が変化の前提条件になりうるという仮説を 無視することもまた、科学的ではない。」
まとめると、人は理屈や罰だけでは変わりにくく、孤立や否定の経験が犯罪を生みやすい。一方で、愛や承認は行為を正当化するものではないが、心の防衛を緩め、変化を選択する余地を与える。犯罪者が必ず愛で救われるとは断定できないものの、愛が変化の前提条件になりうる可能性を心理学は否定できないということらしい。
そしてその一文のあとで、心理学者はこう付け加えている。
「しかし仮説は、語られるだけでは心理学にはならない。愛が変化の前提条件になりうるというならば、それは観察され、比較され、検証されなければならない。本書の結論は信念ではなく、検討に耐える問いとして提示されるべきだ。」
そうして彼は、理論の章を閉じ、次の章で具体的な研究計画を示した。対象とするのは、長期的な孤立経験を持つ被収容者である。彼らを二つの群に分け、一方には従来どおりの規律と罰を中心とした介入を行い、もう一方には明確な境界を保った上での継続的な承認的関わり、すなわち否定されない対人接触を導入する。重要なのは、愛情を情緒的操作として与えるのではなく、「排除されていない」という感覚がどのように心理状態と行動選択に影響するかを測定する点にある。
評価指標には、攻撃性尺度、防衛的認知の強度、自己効力感、そして衝動的行動の頻度が用いられる。加えて、脳波やストレス反応といった生理的指標も併用し、主観的変化と神経学的変化の対応関係を検討する。
彼は最後にこう記している。もしこの実験によって、承認的関係の導入が防衛反応の低下と行動選択の拡大に結びつくならば、愛は倫理的主張ではなく、条件として扱われるべき心理学的要因となるだろう。本書はその是非を断じるものではない。ただ、人は罰だけで変わるのかという問いに、実証という形で向き合うための出発点なのである。




