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閑話 Twilight
一年前
中学校の帰り道、小声でマミは「やいやい」と呟く。
「ヤイヤイ」 と、言葉が帰ってきた。
陽が沈むとき、割れ鐘の音が機械式に響く。夕暮れの合図。田園と山肌に響き渡る。
「つまんないな」
このあたりの伝承でやいやいと呟いた言葉が戻ってくれば死ねる、という伝説を試してみたが、その対処法の割れ鐘の音が自動的に響いて死ななかった。
紫が強い夕暮れ。山の稜線が影絵のように空を切り取っている。
条例でコンビニもない村は僅かな街灯。星空が煌めき始めた。
自分以外誰もいない帰宅の途、なにもない。
空には星しかない。
このまま家に帰っても両親は仕事で誰もいない。
いつか月の裏側にでも気楽に行ければいいのにな、ここではない何処かをマミは夢見ていた。
夕日の色が消えた黄昏時の誰もいない道で、ライターに火をつけて、ボンヤリと揺れる炎を見ていた。現実の景色は炎の揺らめきで夢のように歪む。
太陽が一瞬蘇った錯覚に囚われたマミは炎に見惚れていた。