姉妹
ハイヒールの似合う綺麗なその女性は、僕達の元へと近付くと足を止めた。
「お前達、街中で何をやってんだ? まだ周りに人がいなかったから良かったものの、傍から見れば異常者にしか見えないぜ」
「す、すみません……」
「ま、良いけどよ。ずっとゆかりが心配で上から見ていたけど、別にお前は悪い人に見えないからな。それにその袋の中身、ゆかりの事思って隠しているんだろ? そうだよな?」
「……え?」
「ほれ」
「あれ!?」
いつの間にか手に持っていた袋が現れたお姉さんの手によって奪われていた。さっきのやりとりで更にボロボロになってしまった本を袋から取り出しているところを見ると、話をしている時には既に奪われていたのかもしれない。全く分からなかった……。
「こ、これもしかして私とぶつかった時に……?」
「え、あ……その、白薔薇さんのせいでは無いよ。本屋の帰りに歩きながら読んでいた僕が悪いんだから」
慌てて両手を振るが、白薔薇さんの楽しそうだった表情にどんどん影が差す。明らかに自分の責任だと思い込んでしまっている。どうしよう……。
「ま、確かにお前とゆかりがぶつかる時、ゆかりは辛うじて飛び退けようとした。しかし、結局反応が一瞬遅かった為にゆかりの脇腹にこの男は頭をぶつけ、本が手元から落ちた。本はその時地面に落下し、地面を転がってこうなったと」
「ちょっ、そんな言い方……。良いんです、また買いますから」
「あぁその本、『タマーの光』はもう売り切れていたぜ?」
僕が買った時にはまだ三冊残っていたのに……。やっぱり人気作家が三ヵ月も間を開けて書き上げた新作は大人気なんだろう。商店街を抜けたらすぐに見つかる大きな本屋は確かに家から近いけれど、本屋はそこだけじゃなくても沢山ある。別に白薔薇さんが申し訳ない顔を僕に向ける必要はないと思う。
「それでも、白薔薇さんは悪くないです」
「へぇ、なんだお前面白いな。万引きして逃げ出した奴にぶつかってこんなボロボロになった本にも関わらず、万引きした奴を庇うのか? お?」
「何か問題があるんですか? その本は僕が買った本です。つまり管理者は僕でしょう? ならそうなった責任も僕にある。どうでしょう?」
「……ま、ここで言い争う為にお前等止めた訳じゃないし良いや。おいゆかり帰るぞ」
お姉さんはどこかつまらなそうに鼻を鳴らすと、未だに暗い表情をして何か言いたそうな顔をしている白薔薇さんを連れて姿を消してしまった。僕もいい加減帰ろうかと立ち上がるところで、カサリというビニールの音に振り返る。見慣れた本屋の袋の上には僕がボロボロにしてしまった本。袋の中には、先程買ったばかりであろう新品の『タマーの光』が入っていた。