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半分

 その日はそのまま何事も無く終わり、翌日になった。本当は今日からまた何事もなく生活をするつもりだったのだけど、家の玄関を開いて早速固まる。


「まだ七時前じゃない。あんた、随分早く家から出るのね?」


「……そういう白薔薇さんも随分早いね。何でこんな朝早くから僕の家の前にいるの?」


 白薔薇さんは、薄い黄色のワンピースを着て僕の家の前に仁王立ちをしていた。僕が出た時には既にそうしていたのだから、本当はもっと前からそうしていたのだろう。

 僕の質問に対して、白薔薇さんは困った様に頬を掻くと、後ろに回していたもう片方の手を前に出して開いた。半月型の小さな何かが白薔薇さんの小さな手から数枚落ちる。足元に転がって来たその一枚を手に取って観察した後、僕の顔から血の気が引いた。自覚する程に顔が冷たくなる。


「そ、それを返さないとお前がそうなるって……」


「あ、そ、そっか……」


 綺麗に百の文字だけが残った半月型のそれと白薔薇さんを見比べ、彼女に同情した。よく見ると虹の形をしているもの金色の物もあり、彼女の手に残されている物も含めてこれが何かを確信する。

 これは昨日、お姉さんの部屋に置いてきたお金だ。断面を見る限り、あの人の部屋に置いてあった刀で切られたものだろう。その手腕も手腕だけど、お金を脅しの道具に使うお姉さんに恐怖を感じざるを得ない。


「しっかり返したわよ? 良いわね? 受け取ってませんとか言わないでよ?」


「し、白薔薇さんも大変だね」


「そりゃそうよ。だって私が寝ていた朝の三時、お姉ちゃんが起床する時間に殺気で起こされるのよ? もう少し寝ていたら私の顔に刀の刺し傷が入っていたと思うわ。布団に深々と刺さっていたから」


「……」


 口を開いて固まる事しか出来なかった。僕に本の代金を返される事がどれだけ嫌だったのか分からないけど、寝ている妹の顔面目掛けて刀を突きたてるなんて正気の沙汰じゃない。

 多分お姉さんはそういうのがとことん嫌いな人なんだろう。お金の断面から、お姉さんがもう金を返すなと念を押している気がしてまた背中が震えた。


「それじゃ、私は寝るから」


「あ、うん。おやすみ」


 白薔薇さんは落ちているお金含めて全てを僕の手に乗せると、欠伸をしながら家の方に歩いていった。


「半分になったお金って銀行に行ったら替えてもらえないよね……」


 まずなんて説明すればいいのか分からないし、もしかするとお姉さんが捕まる可能性がある。結局しばらく悩んだ後、手元で微かに音をたてる硬貨は、僕の玄関の置物になった。

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