自家
「私なりにあなたの事を考えてみたの。それでようやくなんであなたが私から逃げ出したのか理解した。色々説明が足りなかったわ」
「説明?」
「えぇ。昨日の本の件って言ったけど、それはあのパン屋の人から私を庇ったからだとか、本の事を私に黙っていてくれたからとかでは無いの。あの後、お姉ちゃんから本を貰ったでしょ。そのお礼がしたいだろうと思って連れて行こうとしたのよ」
白薔薇さんは白薔薇さんなりに気を利かせようとしてくれていた様だ。そういえば白薔薇さん、恩返しをする為についてきてほしいなんて一言も言ってなかったかもしれない。これに関しては僕の早とちりで彼女から逃げてしまったのか、申し訳ないや。
僕が話を理解したのだと分かってくれた白薔薇さんは、僕の手を取って彼女の家を指差した。
「ま、そういうわけで勘違いさせたわね。丁度今、お姉ちゃんが家にいるから本の件をお礼したいなら上がっていきなさいよ。あ、別にこれで恩返しなんて思ってないからね」
「思ってくれて良いんだけどね……」
心臓の音が妙に大きく聞こえ、少し嬉しさに浮かれている自分の事を冷静にしようとそんな冗談を口から言ってみる。全く効果が無く、むしろ彼女の家に上がる事を更に意識してしまって顔が熱い。
彼女が玄関の扉を開き、僕から手を離す。靴を脱いで式台に上がった彼女は、僕が靴を脱ぐのを待ってから左手に続く廊下に姿を消す。見失わない様に急いで靴を脱いだ僕も彼女の背中を追う。
外の植栽で中がよく見えなかったこの空き家は和式造りの家だったらしく、障子から差し込む光が丁度良い明るさで廊下を照らしている。
「黒獅子はいつからここにいるの?」
前を歩く白薔薇さんが背中越しにそんな質問をしてきた。
「生まれてすぐにここに引っ越してきたんだって両親から教えられたよ。前は海が近い場所だったんだけど、津波が怖いからって」
「そうなのね。あ、質問に深い意味は無いわよ。ただあなたが緊張している様に感じたからほぐそうとしただけ」
「……やっぱりわかる?」
「ま、段々あなたの事が分かってきたからね。さて、この部屋よ。この部屋にお姉ちゃんはいるわ」
廊下の突きあたりにある階段の隣、障子を貼られた扉の前で白薔薇さんは言った。心の準備をする暇も無く白薔薇さんが扉を開けて先に中へと入っていく。
僕も覚悟を決めて一度深呼吸をすると、白薔薇さんの後に続いた。
「……」
女性の部屋に入った事が無い僕が言うのもどうかと思うけれど、部屋に入ってすぐに思った事がある。女性の部屋全てがこんな感じだったら、違う意味でこれからは女の子の部屋に入りたくない。
まず目に入るのは扉を開けて目の前にある飾られた日本刀。少し暗い部屋の中でも切れ味の良さが見てとれる光沢を帯びている鉄の刀身に息をのむ。
そして上を見上げれば竜の壁飾りが部屋を一周するように梁に飾られている。以上。
そう、その二つしかこの部屋には家具が無かった。その中心で座禅を組んでいた白薔薇さんの姉が目を開く。
「おう、お前誰だっけ」
「……昨日の今日で忘れられたんですね」




