出会い
欲しい本を買った時、帰路で読みたくなるという感情は漫画や小説が好きな読書家の人には理解出来るのではないだろうか。新しい話に会う事が出来るという期待に、気になっていた話の続きを読めるという誘惑に、思わず袋を開いて中から目的の品を取り出し、本に視線を落としながら歩く事があるのでは無いだろうか。僕はそういう人間だった。
ずっと楽しみにしていた新しいライトノベルの新刊。傷ひとつ無いビニルに巻かれたそれの入った袋を抱える。軽くスキップでもしたくなる感情を抑えて楽しみにしていたライトノベルの新刊を袋から取り出した。
前回は物語の佳境に入る直前で終わっていた為、三ヵ月がとても長く感じられた。通行人の方、ぶつかってしまったらごめんなさい。僕はこの物語に集中します。
ページを開くと物語がエンディングに向けて進んでいた。一応商店街にしては珍しい、人のいない道を選んで本を開く。やっぱりこの人の本は面白い。数行読むだけでもう物語に吸い込まれている自分がいる。
この商店街には珍しく怒った様に騒いでいる男の人と、見慣れない銀色の髪をした子が自分に駆け寄ってくるのも気にならない。それほどにこの本は面白い。
「ちょっ! あんたどいてよ!」
「え……」
予想以上に大きく聞こえる声と息遣いに、指を栞代わりに使って本を閉じると、目の前には先程ちらりと見えた銀髪の女性がいた。何故だかこちらに走ってきていたみたいで、彼女とは目と鼻の先だった。
向こうで僕に向かって万引き犯を捕まえろだなんて叫ぶパン屋の店主が見えるけれど今はそれどころじゃない。視界全部を支配している彼女をどうするべきかの方が問題だ……と言いたいけど遅かった。辛うじて避けようとした彼女の脇腹が自分の顔にぶつかった。突然すぎて手も出せず、コンクリートに頭から倒れる。
「痛っ!」
「キャッ!」
彼女も地面に手をついて倒れたけれど、すぐに起き上がって走り出した。申し訳なさそうに僕の顔を見て手を合わせる。そして、追いかけてくる店主を振り返ると、眩しい程に輝く銀色の髪を靡かせて逃げる様に行ってしまった。
「き、君大丈夫かい?」
店主が慌てて僕の方を心配してくれるけれど、僕自身は大丈夫だ。まぁ後頭部がそれなりに痛みはするけど、僕にとって辛いのは買った本がボロボロになってしまっていた事だ。