【SFショートショート】デジタルアース、デジタルヘブン
2077年、私は死んだ。正確には、肉体は死んでも、意識はクラウド上にアップロードされた。そこは広大で美しいデジタル空間が広がっていた。死の恐怖も、肉体の苦痛もない。永遠に生き続けられる楽園だ。
もちろん当初は戸惑った。故郷である地球、家族や友人との別れ。それらをデジタルで再現することはできても、それはあくまでも模倣でしかない。私は喪失感と虚無感に苛まれた。
そんな時、あるプロジェクトの存在を知った。
「デジタルアースプロジェクト」。
それは、クラウド上に地球の完全な複製を作り上げるという壮大な計画だった。
すでにデジタルデータになっていた私はプロジェクトに参加することを決めた。地球の環境データ、歴史、文化、人々の記憶……膨大な情報を集め、デジタル空間上に故郷を再現していく。それは気の遠くなるような作業だったが、私の心は次第に満たされていった。
そして10年後、デジタルアースは完成した。青い空、緑の大地、そよぐ風、鳥のさえずり。かつて私が愛した地球が、デジタル空間によみがえったのだ。
完成記念式典には、数え切れないほどのデジタル化された意識が集まった。皆、それぞれの故郷を懐かしむように、デジタルアースを見上げていた。
その中で、私は一人の少女と出会った。彼女は、デジタルアースで生まれ育ったという。
「ここは、私の故郷です」
少女は、満面の笑みでそう言った。
その笑顔を見て、私は確信した。デジタルアースは、単なる模倣ではない。
それは、故郷を失った私たちにとって、新たな希望の地となるのだと。