4話:昼間から酒を飲む女はお嫌いでしょう?
「……というわけで、離婚をすすめられたのよぉぉ」
既に気つけのお酒を飲み、その後、いつもの居酒屋に移動した。
占い師から告げられたことを、リサとダビーに話す間、私はビールとワインを飲んでいる。結果、私は人生初で酔っ払いになった。ところが二人は、私がお酒を飲むことを止めることはない。
離婚しないと夫から刺殺されるなんて言われたら、ヤケ酒でもしたくなるだろうと、さすがに分かってくれているようだ。
「おい、リサ。本当にその占い師が言うこと、信じてもいいのか!? だって君に対しても、運命の相手にはもう出会っていると言っていたよな。でもそんな相手、いないじゃないか。だからいまだ独身で……あいたたたた」
リサは、護衛騎士のダビーの腕をつねっていた。
「ダビー、あの占い師はすごい方なのよ! その的中率は99%なの。だから王家も頼りにしているのよ。よって若奥様は、離婚した方がいいと思います!」
「おいおい、本当に!? あの穏やかな若旦那様が、若奥様を刺殺する!? そんなのあり得ないと思うが!」
しばしリサとダビーが言い争うが、最終的にダビーが折れた。
多分、ダビーは尻に敷かれやすいタイプだ。
「……仕方ないです。リサを敵に回すと、お屋敷での生活に支障が出ますから。痛たっ!」
再びつねられ、ダビーが悶絶した。
「若奥様。どうしたら離婚ができるのか、考えましょう。この国……というか、この大陸にある国の多くが、離婚を基本的に認めていません。そして占い師が言っていた、子供ができない件。あれには猶予が五年あるんです」
「五年……? そうなの?」
欠伸混じりで答えてしまう。
一方のリサは、やる気がみなぎり、瞳がランランと輝いている。
「はい。結婚後、五年。跡継ぎを生むために頑張り、それでも子供ができない。その場合、若旦那様から離婚を申し立てることができるのです」
「だったら子供ができないことを理由に、すぐに離婚はできないわね」
「ただ、付随する条件があるんです。子供ができない上に、悪妻であるならば。五年を待たず、三年以上婚姻生活が経っていれば、離婚を申し立てることができるそうです」
つまり今すぐにでも離婚したいと思うなら。
私はアトラスが離婚したくなるような、悪妻になればいいわけだ。
こんな風に。
「子供が出来ない上に、君は、あんなことやこんなことをした、ひどい悪妻だ。離婚するしかない。裁判所に君との離婚を申し立てる」
アトラスにこう言わしめれば、私の勝ち=離婚となる。
勿論、裁判なのだ。判決が出るまで、時間はかかるだろう。
だがあと二年待つより、早く離婚できる。
「若奥様。離婚してもらうためには、悪妻になるしかありません! 作戦を考えましょう!」
◇
「あー、リサ、もっとお酒持ってきてちょーらい! ワインの樽ごと、お願いしまーす!」
「若奥様、ワインを樽ごといただけるのですか!?」
「ええ、そうよぉ。飲んで、飲んで、飲みまくってー!」
悪妻になるための作戦=悪妻化計画を、まさに実行中だった。
屋敷の庭の一角にテーブルと椅子を並べ、焚火をして肉を焼き、お酒を用意して。
無料で領民たちを招待した。
招待というか、裏口の門を解放し、匂いにつられた領民を「どうぞ、どうぞ」と招いている状態だ。入れ替わり立ち代わりで、次々と領民が入って来る。
昨晩、衝撃の占い結果を聞き、私はヤケ酒状態。
それを生かす作戦を、ダビーが思いついてくれた。
その名も「昼間から酒を飲む女はお嫌いでしょう?」作戦だ。
ダビーによると、アトラスは付き合いでお酒に口をつける。だがお酒が好きなわけではない。酔っぱらって羽目をはずす大人を、苦々しく思っているというのだ。
ならば昼間から酒を飲む。しかも領民を招いて、どんちゃん騒ぎをしてしまおう!
これならばアトラスの神経を逆なでし、私との離婚を考えるきっかけになるはず。
一度のどんちゃん騒ぎでは、即離婚にはならないだろう。
普段のアトラスの落ち着いた様子を考えると。
だからこのどんちゃん騒ぎを、毎日のようにやればいいのだ!
「はあーい! ワインの樽をお持ちしました! ついでにビールの樽も! さらにソーセージの盛り合わせ、フライドポテト、焼き立てパンも追加で到着でーす!」
「「「「「おおおおおっ! 素晴らしい!」」」」」
リサの言葉に、領民たちは大喜び。
「奥方様は実に素晴らしい。こんな美味い酒を昼間から飲めるなんて! もう一度乾杯をしよう!」
そこで盛大に乾杯をした。
スカイ伯爵夫妻が、屋敷の窓から何事かと遠巻きでこの様子を見ている。
夫妻からも、アトラスに進言があるはずだ。
「こんな悪妻、見たことがない! しかも子供もいないんだ。離婚するといい!」と。
◇
期待を込め、へべれけに酔った状態で、夕食の席につく。
だが、貴族令嬢としてマナーをしっかり叩き込まれている。ゆえにローズ色のドレスを着た私は、酔っ払いなのに背筋をすっと伸ばし、礼儀正しく夕食を口に運んでいた。
「妻が領民を招いた、昼間の宴会を開催していました。父上と母上は、どう思いますか?」
アトラスがステーキの肉をナイフで切り分けながら、自身の両親に尋ねた。
遂に、離婚への第一歩になる……!
「ああ、その件だが、領民から山のように感謝の声が届いている。昼間からあんなに満腹になり、飲んで食べることができるなんて。スカイ伯爵領の領民であることを、主に感謝したいと。いつも痒いところに手が届く采配をしてくれる上に、こんな宴会の場まで設けてくれるなんて、感動したと。明日からの活力が沸いた、頑張って働きますと」
スカイ伯爵がニコニコと告げ、私は固まる。
「まだ若いのに、あんな宴を思いつくなんて、驚きましたわ。アトラス。あなたは賢妻を迎えましたね」
「ありがとうございます。母上。あの宴は、毎週金曜日の午後に行おうと思いますが、どうでしょうか」
「名案だ。そのための予算を割り当てよう」
「いいと思いますわ」
スカイ伯爵夫妻が声を揃え、アトラスが私を見る。
「毎週金曜日の領民との宴。セレナ。君に任せた」
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