【番外編】若奥様が大好きな侍女
侍女のリサ視点です。
私がお仕えしている若奥様。
ムーンライト子爵家から嫁いできたセレナ様は、私からするともうロマンス小説に登場しそうな素敵な女性だった。でも当人は「私なんて大したことないわ。リサの方が愛嬌もあるし、リスみたいで愛らしいじゃない」なんて、私の頬が思わず緩むようなことを言ってくれるのだ!
若奥様のブロンドは傷みもなく艶やかで、その碧眼は聡明さを感じさせた。
しかし見た目よりも、その価値観や生き様が「ついていきます、どこまでも!」と思わせるものだった。何せ領民の不平不満を自ら聞き出そうとされるのだから!
ただ、そのきっかけは……。
子宝に恵まれない――からだった。
若奥様と幼い頃から美少年で知られた若旦那様との間の子供なら、女の子でも男の子でも。どっちであっても絶対に可愛い!かっこいい!になるはずだ。
きちんと月のものがきた日の記録を取り、医師の指導も受け、「この日!」と定めた日に跡継ぎ作りに励んでいらっしゃるのに……。子供ができないのは……でもこれだけは運。焦る必要はないと思うのですが。
ともかくそれをきっかけに若奥様と町へ出るようになった結果。
私と若奥様の心の距離はぐんと縮まったと思う!
そんな若奥様には絶対に幸せになって欲しいと思っていた。
そこで耳にしたのが……。
使用人仲間のこの話。
「ねえ、リサ、知っている? 的中率が驚異の九割という占い師のこと。王家も依頼をするぐらいのすごい方なの。でも定住されずに国内をうろうろしていて、十年ぶりに王都へ戻ったそうよ。町宿の一階のbarに行けば、占ってもらえるそうなの。ただね、その占い師に出会う運命にないと、会うことができないんだって!」
「え、そうなの? 出会う運命って何なのかしら?」
「それは星の巡り合せらしいの。本当に助言を求める人にだけ、会えるらしいのよ」
そんな話を聞くと、その占い師のすごさが増す。
しかもその巡り合せについては、事前に分かると言うのだ。
その占い師がいるというbarに行き、窓から中を覗く。
そこでカウンター席の端にワイン色のフード付きローブを着た人物が見えたら……巡り合う運命を持っているのだという。つまり占ってもらえる! そしてその運命を持つ者が同行すれば、同行者(ただし一人のみ)も占ってもらえると言うのだ!
それを聞いた私は思いつく。
若奥様がいつ子宝に恵まれるか、占ってもらうといいのでは!?と。
そこでまずは私が町へ向かう。
占い師とご縁があるか、確認するために。
◇
「そう言えば若奥様、知っていますか? とても良く当たることで有名な占い師が、町に現れたそうですよ」
「へえ、そうなの? そんなに有名な方なの?」
町へ偵察に行くと、私は見つけたのだ。
その占い師を!
そこで若奥様に、占い師に占ってもらうことを提案したのだ!
「せっかくなので占ってもらってはどうでしょうか、若奥様」
「でもそんなに人気なら、満員御礼では?」
「こんな時間ですから、逆に空いていると思います!」
子宝の件を聞くといいとは、私から言うつもりはなかった。
私は子宝のことを聞けばいいと思っているが、一番は若奥様が気になることを占い師に尋ねればいいと思っていたからだ。
ところが!
まさか若旦那様との離婚を占い師から提言されるなんて!
しかも離婚しないと若奥様は……。
最初は信じられなかった。
若旦那様は……喜怒哀楽が強く出るタイプではなく、大変大人しい性格をしていた。激高したり、声を荒げたりする所なんて、見たことがない。でもそういうタイプこそ、怒ると怖いと言うから……。
きっと何かの拍子で、豹変するのかもしれない。
若奥様には幸せになって欲しいと思っている。離婚し、国外に向かう方がいいのならば。私はついて行く、若奥様に。何よりも離婚できるよう、サポートするつもりだった。
◇
「ダビー! これで三人目よ! みんなスカイ伯爵を恐れて、逃げちゃうじゃない!」
若奥様の護衛につく騎士のダビーは、私と同じ。若奥様に信頼され、町へのお忍びに同行している。そして若奥様が離婚できるよう、悪妻になれるよう、作戦を立てたのだが……。
ダビーが提案した「昼間から酒を飲む女はお嫌いでしょう?」作戦は、予想外で若奥様の名声を高めることになった。これは私としては嬉しいけれど、困ってしまう。なにせ若奥様は今、悪妻にならなければいけないのだから!
リベンジでダビーが提案したのは「情夫がいる妻なんてダメでしょう?」作戦だった。ところが! これも失敗する。情夫として協力を仰ぐ男どもが、ことごとくスカイ伯爵や若旦那様に申し訳ないと、逃げ出してしまうのだ。
今日はその件に関して、ダビーを問い詰めることにした。
仕事終わり、居酒屋に呼び出し、さしで飲み。
「ダビー、本当に若奥様のこと、考えている!?」
「考えているさ。でも普通に考えたら、成功する作戦だと思わないか!? だって想像してみろよ。リサが昼間から酒飲んで仕事していなかったら、すぐに悪評が立つだろう?」
「! ダビー、私が未婚どころか恋人も婚約者もいないことを知っていて、そんなことを言うの!?」
ビアマグを木のテーブルにドンと置いてまくし立てると。
「それな。いい加減、独身やめないか」
「はあ? 何をおっしゃっているのですかね、ダビー様」
「だからさ。占い師からも言われただろう。身近なところにいい男がいるって。運命の男に既に会っているって。それ、俺でどうですか、って話」
「何言っているの!」
でも。
運命って分からないものだ。
この後、散々ダビーをドヤし、ビールを飲み、酔っ払い、そして――。
まさかダビーが運命の相手だった、なんてね。
本当に自分でも驚きだった。
ただ、若奥様に仕えることで、ダビーと過ごす時間は長かった。
お互いに、若奥様に幸せになって欲しいという強い気持ちもある。おかげでダビーに対する信頼は、私の中で厚いものになっていた。
若奥様が離婚に向け奮闘しているのに。
申し訳ないと思いつつ、私はダビーと婚約前提で付き合うことになった。
若奥様が無事離婚できたら、ダビーのことを話そう。
そう、私は心に誓った。
お読みいただき、ありがとうございます。
どうしても書きたくなり書いてしまいました~






















































