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悪妻化計画を実行中。溺愛されてもダメなんです!~旦那様、離婚してください!~  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中


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12話:手紙

 それは偶然だった。

 明け方近い時間に目が覚め、再び眠ろうしたが、眠ることができない。


 置時計を見ると朝の五時。


 冬のこの季節、朝は六時から皆、動き始める。

 まだこの時間は、厨房にも使用人はいない。


 ふと外から物音が聞こえ、何だろうかと思い、窓から外の様子を伺うと……。


 アトラス!


 二週間ぶりに見るその姿は、なんだか疲れ切っているように思える。


 いつもシルバーブロンドの髪はサラサラで、その瞳はエメラルドグリーンで宝石のようだった。肌も私より透明感があり、スラリとした長身の美青年のアトラス。


 落ち着きがあり、木漏れ日のような穏やかな彼を見ると、いつも気持ちが和んでいた。


 でも今のアトラスは……。

 接待が朝まで続いたのだろうか。

 髪も少し乱れていた。


 だが、朝食の席に久しぶりに現れたアトラスは、普段通りだった。


 シルバーブロンドの髪はサラサラ。着ている濃紺のセットアップもパリッとしている。スカイ伯爵としきりに商会の話をしており、そこに「跡継ぎを作る気はありません!宣言」の余波など一切感じられない。


 それもそうなのか。

 今は商会のことで頭がいっぱいで、私との問題は後回し?

 後回し、それは困る!

 子供ができない&悪妻であることを踏まえた離婚は、裁判をして成立するのだ。

 よって時間がかかる。

 そして私はアトラスに刺殺される未来が待っているが、それがいつなのかは不明。ただ、早く離婚し、隣国へ逃げた方がいいと思うのだ。


 こうなったらこちらから離婚について、話した方がいいのかと思っていたら。


 朝食後、ひとまず自室へ戻った私に手紙が届けられる。

 それは私の兄からだ!

 領地でホリデーシーズンを過ごした。だが年が明け、国王陛下への挨拶を兼ね、王都へ来ると言うのだ。父親は既に爵位を兄に継いでおり、国王陛下への挨拶は、新たなる当主の兄の役目だった。そしてせっかく王都に来る。私に会いたい――となったわけだ。


 王都にはムーンライト子爵家のタウンハウスがある。よって兄はそこに滞在するだろう。ゆえに私がそのタウンハウスに足を運ぶか、兄がスカイ伯爵家の屋敷に来るかになると思うが……。


 私が独断ですべて決めていいわけではない。


 ということでまずは兄からの手紙の件を、夫であるアトラスに報告。次いでスカイ伯爵夫妻に話す。そこで「ではぜひこの屋敷に兄君を招くといい」となれば、この屋敷へ兄が来ることができる。


 アトラスと顔を合わせるのが~と思っていたのは、二週間前のことだ。

 既に腹を括ったというか、顔を合わせてうんぬんは、収まっている。

 それに既に今朝、朝食の席で顔を合わせていた。


 よってアトラスに兄のことを話すのに、構える気持ちはない。

 むしろ離婚をちゃんと考えてくれているのか、それを問いたい気持ちの方が強くなっていた。


 そこで兄からの手紙を手に、執務室を訪ねることにしたのだ。


 昼食まで待つことも考えたが、その席に顔を出さない可能性もある。

 ならばと執務室へ向かうことを決めた。


「兄上様……いえ、ムーンライト子爵様が王都へいらっしゃるのですね! バカンスシーズン以来ではないですか、会うのは」


「そうね。バカンスシーズンでは両親もタウンハウスに来ていたけれど、冬は汽車の運行も減るし、寒さが厳しいから……。両親は領地でのんびりしたいのでしょうね。ともかくお兄様だけでも会えるのは嬉しいわ」


 リサとそんな会話をして、執務室に到着した。

 ここから先、中に入るのは私一人になる。


「大丈夫ですよ、若奥様。絶対に離婚したいと思っていますから!」


 絶対に離婚したいと思っている……。

 それが正解なのに、なんだか寂しい気持ちにもなっている。


 いや。生きたいのだから、私は。


 余計な気持ちを振り払い、ノックして名乗る。

 すぐに補佐官のクルースが扉を開けてくれて、中に入ることができた。


 執務机に向かっていたアトラスは、見ていた書類から顔をあげ、私を見ると……。

 スッと視線を逸らす。そして頬がほんのり赤くなる。


 この反応は何……?

 喜怒哀楽を表情に出さないのがアトラスなのに。

 でも……。

 赤くなっているだけで、感情は……やはり読み取れない。

 しかしなぜ、顔を赤くするのかしら?


 ひとまず執務机に近づき、兄から届いた手紙の件を話した。

 そしてその手紙を渡すと、アトラスは椅子に座ったまま目を通し、すぐに私に返す。


「国王陛下への挨拶。そうだな。地方領の貴族は順番にこの時期、王都へやって来る。ぜひ会うといい。父上にこの屋敷で会えるよう、伝えおこう。なんならこの離れに滞在いただいてもいいのだが」


「ありがとうございます。……離れに滞在する件は、希望するかどうか、兄に尋ねてみます」


「……話をするいい機会だ」


 それは私に聞かせるため、というより、独り言だった。

 だがアトラスは頬を先程のようにぽっと赤らめ、「……話をするいい機会だ」と小声で呟いたのだ。


 私はこの言葉について考える。

 もしや離婚の件を、兄に相談するのでは……!?

 確証が欲しい!


「旦那様」

「何か」

「二週間前の夜の」


「セレナ、待って欲しい。その件はきちんと考えている。ちゃんとするから、もう少し時間をくれ。真剣に考えている」


 驚いた。

 顔を赤くし、アトラスが椅子から立ち上がった。

 そして両手を執務机につき、声を荒げたのだ。


 こんな慌てた姿は珍しい。


 これは……間違いなかった。

 離婚を真剣に考えているのだろう!


「分かりました。それでは用件は以上ですので、スカイ伯爵夫妻によろしくお伝えください」


「分かった」


 アトラスがまだ動揺した様子で返事をして、視線を伏せている。


 いよいよ離婚が現実味を帯びる。これで私は死なずに済む。


 そう私は考えたのだけど……。

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