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智華の邂逅 6

深夜も過ぎて時刻は4時30分。寝るには遅く何かをするには中途半端な時間帯。小腹が空いたのでこっそりと外に出ればまだ日の上がっていない空は薄っすらと群青を混じり、季節も夏に踏み込もうとしていた。

近場のコンビニでコーヒーと軽食を買って外で並んで腰掛ける。ぶっとい鉄のアーチで二人だと少し狭い。ブラックを一口してからほっと息をつき、まだ暗い空の向こうを見る。ちびりちびりと飲みつつ、視界の端に街灯の明りが点々としていて、蛾が集まっているのが遠目でもみえる。

「そういやお前の好き嫌いとかは聞かないな。和菓子が好きなのはわかったが」

「和菓子は今は特に好きって感じかな。和菓子って複雑よりも素朴で凝った味でしょ?ファミレスとかのパフェも美味しいけどちょっと飽きている」

「狂ったようにハマる時期ってあるよな。食べ物でも趣味でも。逆に苦手とか駄目なのとかはあるのか?」

アレルギーとかトラウマがあるのかと気になる。

同じくコーヒー……砂糖とミルクが数個入った激アマカフェオレを見つめ、ハッとした顔をして神妙に見つめる。

「…饅頭こわい」

「落語かっ!このまえ食ってたじゃねーか!」

「バレテーラ」

真剣味と気の抜けた冗談なんだろうくっくっくっと智華は笑う。テンポの良い会話は気持ちも上向きにいくのでしていて楽しい。

饅頭はもちろんのこと、この前も桜餅にわらび餅など一通り食べてたし、知らないところでも食べてるならコンプリートしたんじゃないか?長生きしてるようだし、世情に詳しいのも頷ける。むしろナビゲートしてくれ。今その最中かもしれないが。

コーヒーとみたらし団子を両手に、リスみたいにモグモグしている。喋っていると悪ガキって雰囲気がヒシヒシとしていたが、黙々と食べている姿は年相応の少女みたいでギャップがすごい。

見た目は麗しい少女なので仕草も様になっている。のじゃロリというやつか?今ではジャンル過多な時代だこと。でもあるってことは需要と供給があるからで、年配特有の安心感を求めたく理由もわかる。

「そういう君も、好き嫌いはあるの?」

「あるよ。すっぱいのとピーマン。というか全般?」

「なんで?」

「なんでって聞かれてもなー、そうなったしか言えん。ほら、大人になると自分で食べたいのを選べるから選んで食べないだろ?食べれないからって困らないし」

「栄養と健康に気をつけたら、咎める人も居ないからなー。大人は体調管理は自分で見ろってね。君は良くも悪くも普通だけど」

「余計なお世話だ」

「…ちなみに唐揚げにレモンをかけたら怒る?」

「そうだな、悪戯や知っていてやるなら今後一切口聞かない程度には怒る」

「大人気ない。というか子供だなぁ」

「嫌がらせと嫌いは紙一重だからな?知らないならまだしも、わざととか悪意ならそれなりに対応するさ」

唐揚げには塩かマヨネーズで、断りもなしにレモンをかけるなら口にレモンを丸まる突っ込ませる所存です。一生分食べさせればこちらに被害がこうむることもないし?健康にもいいだろうし?

「そうは言うけど君と外食はしたことないでしょ?」

「見つかるリスクを考えたらお前を誰かに見られるも面倒くさいんだよ。恋人だの紹介しろだのってさ」

「それくらい良いじゃない。彼女だーって言っていいのよ?」

「今は必要ないかなー。思春期だったら飛びついてたかもしれないが」

「枯れてるのね?」

「時と場合によってだろ。少子高齢化の問題解決 は若者に任せて、俺は一つの歯車として生きていくさ」

世間に疲れた。人に法律、ルール、役割、常識、暗黙の了解。

真面目になればなるほど苦悩と苦痛な人生なら、俺は合っていない。この世はある程度に擦れて、楽観で前向きなやつ向きなんだ。生真面目で頭でっかちな人は、堅実で成功するか俺みたいになるか。

時代なのか場所なのか、この現世じたいなのかは判断つかないけど。根無し草思考の俺には、息がしにくくて肩身が狭い。もっと手続きとかシガラミがなく奔放に生きていたかった。

「生きることに未練がないなら私の仕事をやる?」

「そんな、仕事終わりに居酒屋行く?って勧誘でいいのか?」

ノリが軽くて反応に困る。

「そんな気軽に働ける?のか?」

「気軽には無理わよ。求人広告に載っていない案件なんだよ?応募を待つんじゃなくて、ヘッドハンティングでしかなれないし」

「そりゃそうか。求人広告があったとしても胡散臭いしな」

求人広告があってもおもしろ半分か胡散臭くて見向きもされない…少なくても笑いの種にはなるか。

というかこの仕事?が蔓延ると、住職の需要とかにも影響あるんかな?風が吹けば桶屋が儲かるように、連鎖な影響で。

「暫く試用期間でやってみて、それから決めるのもいいんじゃない?私が教育係で、君が助手になるけどさ」

「お前が教育かぁ…チェンジで」

「なんでよっ!?」

「冗談だ」

そう返すと、ポカンとした顔をしたあとに肩と腕に体当たりする。と言ってもじゃれつく威力で、ごめんごめんと謝る。

少し顔が赤いのを無視しつつ、温くなってるコーヒーを一口。

「なるならないの答えは待ってもらっていいか?話を整理したかったり決断するのに、即断はな」

「そのつもりよ。これが一世一代の分岐点になるでしょうし、しっかり考えなさい?」

「一世一代、ねえ……聞き忘れたが、試用期間ってどういう……扱い?になるんだ?」

「そりゃあ雑用とか研修ってなるけど?お給金も出るには出るよ?」

「ちがくて、いやそれも気になりはするがそっちじゃなくて立ち位置的な?お前のような死神と生きてる人だと色々違うだろ?」

人は実体で、智華は実体とか霊体になれたりと違いがある。一通りは聞いたけど、詳細は都度説明するしかない。

「んー?細かいことを話すと長くなるけど、さくっと言うなら流れ的にはまずは人のままで手伝ってもらってあんたに向いてるなら本採用、昇給で死神になるかな」

「最初っからじゃないんだな」

「合わなければ人のまま命を狩って転生させるからね。死神で転生したいってなるとやり方とか面倒で長くなるから」

「出来るのか?」

「出来なくはない…が正しいかな?まあ人や生き物を年単位じゃなくて世紀単位で生きるから、一度なったらわざわざ転生しなくなるけど」

「ほわあ…想像がつかん」

「つかないなら知らなくて良いことか、必要ないことよ。人だから生活とか身体の管理をしないといけないけど、それが無いのは楽だね」

「そりゃあいいな。でも食事はしてるじゃないか?」

「娯楽とか息抜きの扱いだしなあ…食べなくても活動は出来るけど、人から転生したやつはほぼほぼ食事をしているよ。脳で味は思い出せても食べたいものだとか」

「あぁ…」

智華からは死神は食べなくても良いって聞いたが娯楽が無いと精神が崩壊するとかなんとか。今は特に充実していて昔と比べると格段に良いとかで、人類の進展や進歩も目まぐるしい。

「見た目は任意で変えることが出来るのも良いな」

「人と言う縛りや体から魂を取って、衰退しない器に移し替えるからね。ずっとそのままだと可笑しいって気付く一般人もいるから、許容範囲内ならって変わったわ」

「富豪や不老不死を願う人だと悪用されたりするから、しないって言ってたっけ?」

「そうそう。前に居たよの。生きたいがために仲間入りして私利私欲を貪る人が」

人は終わりーー死があるからこそ躍起になって生きれるし、死があるからこそ救いがある人もいる。それを見守り狩る為に居るっていうのも…皮肉なものなのか?

そいつがどうなったか……処分されたんだろう。聞いても悲惨な末路なのは想像に容易い。

「ちなみに聞きたいんだけど、採用側…死神の方には処罰とかあるの?」

「あるにはあったよ。まあ事情聴取をして反省文とか面談とか」

「そこだけ聞くと会社みたいだな」

「だから個々人で勝手に仲間にしないようにってなってる。今回なら私以外に上司、社長みたいに数人で様子を見たりするのかな?地域とか人の在来で変わるって」

「しようとしたら、独断でも出来なくはないのか」

「まあね。でもそれがペナルティとか解雇もあるし、危ない橋を渡る危険はしないかなー?」

「まんま会社だな。…2次面接とかあるのか?」

「面接もあれば、実践や実施もある。一回で終わったり年単位で様子を見たり」

「組織化してるのか、そうでないのかわからんな」

「そうかもしれないけど、人間の縮図と変わりないでしょ?」

「くそっ、否定できねぇ!」

そんなこと無いよと言える人は社長とかの人の先導に立つ人か、無知な人くらいじゃないか?

死神は満足気に頷くと、俺の正面に立つ。

ふふんっ!と言いたげに胸を張り、ウキウキした笑みを浮かべる。イタズラを成功した悪ガキのような無邪気なそれは、子供心を擽られる。海岸の岬で見せた、あの笑顔と遜色のない。悪友ポジションに落ち着いてきてる。

色恋や恋愛より、この悪戯で何をしようと画策する今が楽しい。

「これからは知るにしろ体験するにしろ、他の仲間と面談をしてからだね」

「楽しそうだな」

「そりゃあね。部下とか後輩が出来るわけだよ?顎で使えるじゃないか?」

「やっぱ止めようかな…」

「うそうそ。顎で使いはしないけど、頼み事はするくらいだから」

じっと見つめると、んっ?て顔で傾げる。それがみょうに似合っていてふっと肩の力を抜いた。

歳を取ると言動も大人びて行くけど、智華はたまに幼少の反応をするギャップがあるんだよなー。これがギャップ萌えってやつか。

「まあ行き先のない人生だし、ご相伴に上がらせてもらうか」

「よしきたっ。ならいくぞ」

「行くってどこへ?」

手首を掴まれてグイッと一歩を。前のめりになって転けそうなのを踏みとどまり、先に行く彼女へ聞く。

「そりゃあ仲間のところへ」

「いや待て待て待て、急展開すぎるて」

「さっき了承したじゃんか?」

「したがそんな即決で行くとは聞いてねえ!」

「まぁまぁまぁ、細かいことは気にしない」

「細かくねぇ!」

服とか寝間着みたいなもんだし、日程とか都合とかを合わせてからだろ?

スーツとか何かしらの準備をするべきだとかね!

そう伝えたら、やれやれと呆れた顔をされた。

「もぅ、仕方ないなぁ」

「仕方ないのかな〜?」

「メッセで聞いたら今からでも良いってよ?いこっ」

「かるっ!」

元から軽いのか暇なのか…いや、知らないほうが良さそうなので聞かない。

早朝でも偶に車などが通るなか、ふらついた気持ちで地を踏む。

新しく生まれ変わる…そんな心境とタイミングは学生から大人になるタイミングと似ていて、だけど前よりも楽しみとワクワクが大きい。人生の大きな機転、変化。その瞬間は不安と不満があるのに、安心感があるのはちっこいながらもこいつのお陰だろう。

鼻歌を歌ってて呑気な智華は、夕飯…和菓子を食べてるテンションと変わりない。軽やかな足取りと、幼気のあるあどけない横顔。

娘を持ったことないのに、このホッコリする正体と対峙するとは…人生、なにがあるかわからんな。まぁ見た目はこうでも、中身や歳は数倍の経験はあるみたいだし、たまには敬っておかないと。

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