智華の邂逅 5
最近、死神の様子がおかしい…ような気がする。
行動もやってることも普段と変わりない。朝と夜は適当に話して仕事中は遠くから見つめられ、夕方には和菓子を変わらず食べる。
だがそのテンポややり取りがいつもよりズレを感じる。
俺の勘違いか死神の仕事を並列でしているからなのか…辛抱強くまてばいいんだが、こっちからの問いかけを待っているようで、そのきっかけがない。
勘違いなら曖昧にさせるか謝ればいい。一生の付き合いでもないし。
「なあ、何か用とかあるか?」
「んっどうした?特に無いけど」
ベビーカステラをつまみつつケロッと返された。素朴な味と一つ一つが小さいから小腹にちょうどいい。マシュマロにチョコ、アーモンドもあるとかなんとか。
視線は俺を向いているが心の内を覗くように目を細め、温くなったほうじ茶をすする。
「…俺の勘違いならいいが、何か用事があるんじゃないかと思ってな」
「どうしてそう思ったの?」
「なんとなく。気になるとか違和感ってほどではないし、ただそうかなって。」
「ふーん…」
会話も止まり、気もそぞろになって沈黙が落ちる。だけど朗らかな空気ではなく、男女の告白するピリッとした方に近い。緊迫した空気はこれが初めてで、内心やっちまったかと後悔する…。でもやらかしたーとかではなく、聞かれたくないことを聞かれて、戸惑うようなやつ。
時間を置いたり一日経てば何もなかったかのように振る舞える。そんなレベル。
それからもう一つ口に運ぶと残りかけの袋を机に置いてほうじ茶で流し込む。悩み顔から真面目な顔に変え、こちらを向く。
「…別に深刻な話じゃなくてね。って、いや、君には回りくどいのはよして直球にいこう。君、死神業務に興味はないかい?」
「死神業務?と言うとお前がやっていること?」
「そうだとも言えるし、違うとも言える。まあしばらくは補佐とか試用期間のあとに同じことはするけど、最終的には同じことだね」
「はぁ……唐突だな」
「つい最近思いついたからな」
「さいですか。詳細とか面接はあるんですかね?」
智華は口の端を上げて笑う。やはり重苦しいのより軽快なやり取りのほうが俺は好きだ。
いつも緊迫して気を張ってた影響だろう。
些細や些末なことも、大事や重要なことも変わりない。重さと大きさが違うだけ。
俺が向き合う問題も、世界からしたら砂塵の一粒程度の影響力で、でもそれくらいがちょうどいい。
世界の命運を背負うとか、政治家になるなんて胃痛とストレスで潰れる自信がある。誇ることではないけどさ。
「なるならないは置いておくとして、なれるものなのか?話の腰を折るがそこんとこどうなの?」
「別に良い。こっちが話すよりお前に合わせたほうが早い。質問コーナーと洒落込もう」
「助かります」
「一応さっきの回答でなれるのはなれるが、向き不向きがある。頭脳が高いなら科学者になったり、体力があるなら土木をしたりとあるだろう?」
「ふーむ…言いたいことはわかった。だが俺は平凡だぞ?成績も体力もだし、人を導くカリスマも無い。おまけにヤル気もない」
「理解が早すぎて気持ち悪いな…。それはここ最近を見てきたから知ってる。突飛して才覚を表すのをお前はもっていない」
勧誘されているのに下げられているのはなぜだろう?しかしこちらから話題を振ったしなあ…。
「逆に死神…智華はその素質ややりがいはあるのか?不鮮明でそこも気にはなる」
「私?話してもいいんだけど、うーん…参考になるのかなー?それに企業秘密であまり話せないんだよねー」
「企業秘密とかあるんだ。…企業…?」
「組織と言うか組合と言うか社会と言うか…守秘義務とか色々あるんだよ」
うーん、分からないけど階級とか上下関係もありそうだしなあ。
「やるやらないは置いておくとして興味は沸いてきた。しつもーん!」
「それはいいんだけど、女の過去を知ろうとするのは止めておきな。歳と体重を聞くのと同義で失礼だよ」
「そういうものなのか?興味ないから別にいいけど、やることも話せることも限定されるよな…」
やっていることは聞く限り、カウンセラーに近い。人生をより良く終わるためのセラピーとでも言おうか。
今は終活という言葉も浸透してきているし、生き方も変動している。今は何かを始めるより下につく…傘下に入るほうがわかりやすいか。それも良し悪しはあるけど、時代と年代で生き方と考え方が違うし。
それを長い目で見れるという魅力はあれど、内情を知らない外側の意見だ。
社会見学でもあれば良いんだけど、それより情報だ。俺はこそってひとにはオススメの脳外科を紹介しよう。中二病の診断書をもらえるよ?
「じゃあ…月のノルマとかあるのか?歩合制なのか個人でやるのか報酬はあるのか」
「すごい聞いてくるね。その方が答える側は助かるけど私の分かる範囲で話すとね、まずはーー…」
と入社前の質疑応答のように話を掘り下げる。
俺は人で生身だし、両立とか流れとか諸々。
興味本位と知的好奇心。また人として一から会社に入りなおす気持ちは薄く、キッカケや転機がないとこの生活を続けるだけだ。
空を見上げて記憶に留めれそうな形の雲を見つけるように、この話もいつかの自分の何かとして役に立てれればと満たしていく。少なくとも、知らないとか空っぽで終わらせるよりかは充実するだろう。
本を読んで気に入った一文を覚えているみたいに、このやり取りもそうなればとね。
明日は休みなんだ。存分に夜更かしをしよう。