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智華の邂逅 3

「きっつい…」

あれから数日。あれから日雇いで仕事をし、家に帰る。もう来ないと決めていた日々が始まり違和感と疎外感が離れない。物語のアフターやエピソードは期待しているからこそ見ごたえがあるのであって、終わりや週末を待っていた身としてはサビ残もいいところ。

今日は解体の仕事で体力勝負なのだが汗をかき、粉塵にまみれた身体が気持ち悪い。休憩ごとにシャワーを浴びたい。子供のときは泥まみれで汚れても平気だったのになと思いを馳せながら作業に取り組む。

会社も親や遺産のことを理由で退職したし、身の回りの整理をして終わるつもりだった。思いがけぬ出費とはよく聞くが、思いがけぬ復帰は辞書にはない。会社に出戻ったり顔を出すのもなー…。社会復帰をしない社会不適合者はどこにいますか?ここにいます。

親の葬式から自分の失踪の期間が短いと後追いとかって言われそうだし、気持ちとか未練とかも無くしたかった。断捨離とか終活ってやつだ。

今ではそのタイミングが失われて気持ちが浮ついている。実はもう存在してなくて、夢遊病が明晰夢ってオチでも構わない。

「あっ居なくなってる…」

屋根の上に居た死神ーー智華も居なくなっていた。

あの一件から智華とは毎日顔を合わせている。四六時中とまではいかないが、居たり居なかったりでよくわからん。

暇ができれば会話をする。朝と夜はそうで、暇そうにしていれば昼休みとか始業前の待機の時とかにも姿を表す。色っぽい話はないし、業務連絡と言うか日記をつける感覚に近い。ゲームのレポートかセーブみたいだ。

周りからは彼女やらなんやらとからかわれるので自室以外では大人しくしてほしい。空中に話しかけて精神病と比べるとまだマシか?浮遊のときはスマホを耳にしてそれっぽく振る舞っているけどさ。

でも独り言や妄想しているときに声をかけられるとドキッとする。気を抜いて油断しているのに急に現れるのはやめてくれないのはイタズラ心か。見た目と年相応さはあるけど、壁から顔だけ出されるのは心臓に悪い。

あの日のニヤケ顔をよく浮かべる。睨むだけで我慢している俺偉くない?霊体?のときに触ってみようとしてみたが、何にもない。鋭く敏感な人は違和感があるとか?で、VRに触ろうとするのと変わりないけど、こう…なんか…言い難い。

なので以前よりも独り言を呟いたり空想に浸る時間は減った。目的がわからないから身構えているんだけどそれも分からずじまいだし、どうするものか…。

そうこうしてたら夕方になって終業し、惣菜などを買って帰宅してから速攻で風呂を浴びて部屋に入る。粉塵がまとわりついた髪はワックスを掛けたようにごわついてるし、服も汚れが酷い。軽くシャワーで流して汚れを取って洗濯へ。

服とかは日用品は売ったり使いまわしたりが出来るから置いていたのが良かった。捨てやすく売れるし、迷う心配がないしな。

断捨離の時にそれも捨てていたらまた買いに行くかと迷っていただろうし、その為にお金を使うのもなと悩んでしまう。準備と整頓をしていたのにまた増やして逝去して使うことが無くなると思うところもあるし。死後の心配をしているのも変だな。

ベットに横になって一息つく。解体は体力を使うし汚れやすい。心身ともに疲労がたまり、疲れと眠気が襲ってきて考えが纏まらないでいるとカーテン越しの窓からヌッと現れた死神が俺を見る。

「あっお帰り」

「おう」

VRの映像のように窓をすり抜けて床に足をつける。身体は霊体化したり実体化したりするし、可視化の調整もできるとかなんとか。屋根の上に居たときも俺以外には認識されないようにしていたってさ。じゃないと注目の的だろう。それなら俺にも見えないようにしたらいいのにな。変なやつ。

そしてベットサイドに立つと掲げた紙袋からたい焼きを取って食べる。うまそうに頬張るのを見つつ、寝転がっているのもなと起き上がって姿勢をタダス。

「お前最近和菓子にでもはまっているのか?」

「うん、美味しくない?人がつかれた時に甘いものを食べる理由がわかる」

「ならもっとハイカラなのを食べろよ。パフェとかマカロンとか洋菓子とか…」

「いっときハマってた!でも飽きたし、今となっては食べる時、そういったのってお店で食べるイメージが強くて、スーパーのはなんか違うんだよねー…」

「わからん…」

女子の機微なんざ縁遠い。昔はどうにかと汲み取ろうとしていたけど、時代に追いつけなかった俺には必要なくなった。

「んー、そうだなー。お祭りのときって屋台で食べるのが何だか美味しく感じない?雰囲気とか思い出補正みたいな?」

「言いたいことはわかった」

差し出されたたい焼きを受け取り食べると程よい甘みの生地と餡こがマッチしてうまい。身にしみて思うのは仕事終わりと疲れなんだろう。夕飯もまだなのに、このまま寝てしまいたい。小腹が満たされたからか。

前はカステラに桜餅、おはぎと日替わりで頂いた。聞けば近場の専門店や仕事先(死神の方ね?)で空き時間に買ったのもあったが、満足度は高いんだよな。専門店とか個人経営も美味しい穴場があるとか。

食事はするけど甘味系は見向きもしなくなったけど、チョイスはいい。…それもあって憎めないのか?策士め(絶対違う)

買い置きのコーヒーを口にすると死神は微妙な顔をする。

「和菓子と言ったら抹茶でしょうに…」

「抹茶は飲む機会が限定的過ぎるんだよ。和菓子とか甘いやつがメインだろ?あと量が多かったり飽きるし種類も少ない。コーヒーはオールジャンルだし、なれてるのもある」

「オールは言い過ぎだけど、そう言う人は多いね。日本食ならお茶一択」

「それはわかる」

抹茶は出されたら飲食はするけど、前向きに買うことは少ない。ノリとか新発売とな期間限定とか流れとかでしか手にとらない。後はスタバとか?

最近の和菓子の摂取量はここ数年で一番高い。年に数回なのが今では週に3から4回だ。緑茶か抹茶のパックくらいは買っておくか?スーパーで覚えていたら買おう。準備万端だと歓迎してるみたいだ。

「それならお前こそ好き嫌いはあるのか?塩とか米とか」

「なんだその二択は。料理じゃなくて素材?フライドポテトには塩をかけるし、日本食には米だろう」

「違う違う。清めの塩とか、お供物の米とかってあるだろう?それか崇拝が無くなって忘れ去られたら?とか色々考える。あまり個人なことを話さないしさ」

「そっちかー。それはあるにはあるっぽいけど、私は別だな。詳細は省くが土地や神によって違いはある。社や地域も人と同じ衣食住であるし、信仰も得手不得手もある」

「神にはもっと万能なイメージがあるんだけどな」

「人の信仰とか偶像もあるけど、土壌の豊かなところには恵みの神が居るし、人の多いところは恋愛や勉強に秀でた神が居る。お前もお腹が空いたら飲食店に行くし、仕事で必要な道具なら工務店に行くでしょ?管轄外の客が来たら他所を案内するでしょう?」

「言いたいことはわかった。たしかにな」

寿司屋に言ってパスタは頼まない。畑違いだし、近頃はチェーン店なら幅広くラーメンとかうどんとか取り扱っているけどあれは子供から大人までの集客を目的だし。

能力が万能になれば管理職や事務になるようなものか?一部の特化ではなくバランスタイプの人って意味で。

前の時代は一つに特化した人を求めていたけど、今は万能でオールマイティーを望んでいる。まぁスペックとか人柄が良ければいいって傾向。

死神が抹茶ラテで口直しをしてるので、気になったことを聞く。

「そもそも、俺はなんでお前と話してるんだ?俺に何か災いとか問題がおこるとか?」

「そりゃあ話し相手が欲しいからだよ」

「そんな理由かい。良いのかそれ?俺が仕事中に居る必要はないだろう」

「良くはないが、禁止にされてもないからな。普段どんな会話をするかと観察しているし君の会話は勉強になる」

「大層なこって。それならいっそ国会とか首脳会議に行ってこいよ。勉強になるんじゃない?」

「あれは国や世界、世間のことであって人間観察には向いてないんよ」

「そういうものなのか?」

疑問の視線でじっと見つめる。3つ目のたい焼きを取り出して椅子に座るが、よく食べるな。満腹中枢が気になるが、花を摘みに行ったこともないので言うことでもないんだろう。そのままシークレットにしとけ。夢は夢のままがいいんだ。アイドルは手が届かなくて見ているからいい。裏まで赤裸々にならなくていいし、掘り返して詮索するのに喚いて拡散する人種とは仲良くなれまい。

「まぁ人には個性があるように、我々にも個性がある。機械やコンピューターじゃないからね。そして真面目でお硬いのもあればチャラく苛立つのもいる」

「はあ…」

「まあ深くは考えるな。私らは人を観察したり声をかけたりもするけど、深い付き合いは良くないとされている」

「今現在、がっつり話してんじゃんか」

「あーあー聞こえないきーこーえーなーいー」

ツッコむと耳に手をもっていく。全然防げてないのだがスルーしよう。徒労に終わる。

こいつは話に疑問や矛盾もあるが、悪どいことをするやつではないんだろうしな。理由があるにしろないにしろ。

疑惑の目を解いてため息を吐く。

「お前のことは気にはなるが、その内に教えてくれ」

「あれま、素直に引き下がるんだね」

「疲れてもう頭が働かんし、聞いてもお前は答えないんだろう?コンディションの良い日にでも話してくれ」

壁に寄りかかって白旗を揚げる。

とは言うが連日仕事を入れている。姉に疑心の目を向けられないようにというのもあって、無職やニート扱いは心に刺さる。貯金はあるけど、こいつよ執着が終わるまでは付き合うさ。

家に寄生するほど心臓も強くない。一人暮らしの部屋を借りる余力もなく、ズルズルも生きている。将来の為に稼ぎに行くのも違うし、最後はこいつを見なくなってからでも遅くないんじゃないかと思い始める。見守られたり、看取られるのはなんとなく嫌なんでね。

「気になることは突き詰めないと気にならないの?」

「好奇心は猫をも殺すと言うし、深淵をしって鬼が出るか蛇が出るか…潔く諦めるのも人の処世術だよ。」

「言い方!もっと私に興味を持とう?…でも今はただ疲れや睡魔に負けそうに見えるけどね」

「御名答…ちょっと仮眠を取りたい…」

こんなの中身のない会話だ。気が抜けるのと安心感がある。言ってやらないけどさ。

もっと無駄話だったり男女の会話で満たされるべきなんだけど、この部屋でのやりとりは最近の楽しみになっている。おはよう、行ってきます、ただいまみたいに、何気ないやり取りだけど出来る喜びを噛み締めて。

こんな面白みの無いのより、キャッキャウフフな若者のほうこいつも発見があって良いものだろう。縁側でのびのびをするより、街中の活気の方がとか。

そんな新しい考察を胸の内に潜め、睡魔に負けるまで会話は続いた。

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