すれ違う二人
ねぇねぇ伊東くん」
「・・・なに、石田さん」
私は石田あおい、そしてこの後ろの席の男子の伊東ゆうしくん。
なんでか知らないけど私はこの伊東くんに興味津々なのだ、なぜかというと・・・
「今日一限の現国先生がお休みで自習になったんだって、どうしたんだろうね?」
「そらあれや、オカさん出張行ってはるからや。
どこまで行ってはるんかは知らんけど。」
この伊東くん、最近関西から引っ越してきた転校生なのだ。
テレビでしか見たことのない関西弁がなぜか私の心にときめくものがあったのだ。
人気の芸人さんの真似をして本場の関西弁に似せようとした『エセ関西弁』なんて紛い物もあるらしいけど、生沢くんのそれは違う。
本場のナマ関西弁だ。
生まれも育ちも関東である私にとってはそれはもう憧れであり、魅力の対象なのだ。
「へぇー、そうなんだ。
詳しいね伊東くん。」
「そらまぁオカさんサッカー部の顧問やし。
今日練習もオカさんおらんから先輩らみんな祭り状態や。」
そうそう、そして伊東くんはサッカー部所属。
だからどうってわけじゃ無いけど、関西弁のスポーツキャラって結構目を惹いちゃう存在だからそれも相まって伊東くんには惹かれちゃうんだよね。
今○さんとか、鳴○くんとか、カ○スくんは若干エセっぽさを感じなくも無いけど。
でもやっぱり本場は一味違気がする、伊東くんの話す一言一句全てが私の胸を刺激する。
あぁ、胸のドキドキが治らない・・・、もっとお話ししようぜ伊東くん!
「ねぇ、伊東くんってサッカーのポジションどこを守ってるの?」
「ん、ポジション・・・?
サイドバックってとこ、おれあんまボール捌くの上手い方ちゃうからさ、真ん中のポジションは上手いことできんねんな。
やから端っこの方でアホみたいに走り回ることしかできへんのよ。」
「へぇー、サイドバックって言ったらあれだよね、長○のところだよね!」
「よー知ってるやん、石田さん。
そーそー、長○さんのとこと一緒。
サッカーあんま知らん人でも長◯さんのとこってゆっとけば伝わるから楽でええわぁ。」
「日本代表の顔の人と同じところなんだから伊東くんもかなりの実力者ってことなんじゃないの?
伊東くんの対外試合やってるところとか見てみたいなぁ!」
「そないすごいとことちゃうで、できる人はすごいけどおれは走ることしかできんからしゃーなしそこに追いやられてるだけやから。
おれのプレーなんか見ててもそんなおもろいもんとちゃうで?」
「それは私が見てから決めるから心配はいらないよ!
ねぇ、伊東くんが次先発するのはいつ?」
「なんで先発前提やねんな・・・。
次の日曜、ここでやる。
うちの高校会場になるのなぜか多いらしいねんな。」
「そうなんだそうなんだ、それはいいことを聞いた。
じゃあ今度こっそり覗いちゃおうかなー?
もし見つけたら、ちゃんと手振ってよね!」
「えぇー、・・・覚えてたらな。」
なぜだか成り行きで伊東くんのサッカー部としての一面も合法的に拝めるようになってしまった。
これは見に行くしかないね、楽しみが増えましたぞぉ!
・・・とはいえ、なんだろう。
伊東くんって話してて楽しくはあるけど、なんかよそよそしい気がするんだよなぁ。
今も私と話してるはずなのに目線は手元の本に入ってる。
ほんとに集中して読んでるのかなぁ、私の話と本の内容両方インプットできているのなら聖徳太子もまぁまぁ驚きじゃ無いかと思うんだけど。
「ねぇ、ずっと私と話しながら本読んでるけど、内容頭に入ってるの?」
「・・・さぁ、どーやろな。」
むむ、なんだその意味深な返事は。
ますます気になるじゃないか。
「なんの本読んでるの?」
「・・・恋愛物。」
「れ、恋愛だとぅ・・・?
伊東くんそう言うジャンルがお好みで・・・?」
以外や以外、関西出身という割には物静かでクールな伊東くんが恋愛物の小説?
や、やるじゃん!
普段はどこかツンとしてて『関西出身なんだったら面白いことやってよ』とかいうやつを毛嫌いしてそうで異性を含めた必要以上の交友関係を持たない(ように見える)伊東くんが恋愛物だってぇー!?
だから気に入ったっ!
「ねぇねぇ伊東くん!
ぜひ私にもその本のタイトルと好きなジャンルを・・・!」
ゴンっ!
「はいそこまで、いい加減前向きなさい。
1限とっくに始まってるよ。」
あ痛た。
やっちゃんめ、もので殴ることはないだろうに。
「あんたいつも伊東にうざ絡みすぎ。
名前近いからって授業に集中できないならあんただけ廊下に席移動させるよ。」
「そ、そんな、ご無体な・・・。」
こうして伊東くんとのトークタイムの第1ラウンドあっけなく終わりを迎えた。
次の休み時間になったら即座に続きをしよう、第2ランドの鐘を鳴らそう。
あぁ、でもやっぱり伊東くんへの興味が尽きないなぁ・・・!
普段どんな本読んでるんだろう、好きな音楽は?どんな私服着てるの?休みの日は一体何を?
逆に私のことも知って欲しい、興味持って私に話しかけてほしい!
次の休み時間が待ち遠しい・・・!
『期待して待っててね、伊東くん!』
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「ねぇねぇ伊東くん。」
「・・・なに、石田さん。」
おれは伊東ゆうし、最近関西の方から引っ越してきたいわゆる転校生。
ほんでこの本読んでるフリしてバリア貼ってるのを無視して話しかけてくるのは石田あおいさん。
なんや目腐ってんのかな。
「今日一限の現国先生がお休みで自習になったんだって、どうしたんだろうね?」
「そらあれや、オカさん出張行ってはるからや。
どこまで行ってはるんかは知らんけど。」
めんどいけどせっかく転校生のおれに気遣ってくれるいい人ではあるから無下にはできん、人見知りやけど最低限の会話のキャッチボールはこなさなあかん。
「へぇー、そうなんだ。
詳しいね伊東くん。」
「そらまぁオカさんサッカー部の顧問やし。
今日練習もオカさんおらんから先輩らみんな祭り状態や。」
せやねんなぁ、転校してまだひと月ちょいやけど顧問がおらんでテンション上がらんやつはおらん。
それは関東かていっしょらしい。
「ねぇ、伊東くんってサッカーのポジションどこを守ってるの?」
「ん、ポジション・・・?
サイドバックってとこ、おれあんまボール捌くの上手い方ちゃうからさ、真ん中のポジションは上手いことできんねんな。
やから端っこの方でアホみたいに走り回ることしかできへんのよ。」
「へぇー、サイドバックって言ったらあれだよね、長○のところだよね!」
「よー知ってるやん、石田さん。
そーそー、長○さんのとこと一緒。
サッカーあんま知らん人でも長◯さんのとこってゆっとけば伝わるから楽でええわぁ。」
「日本代表の顔の人と同じところなんだから伊東くんもかなりの実力者ってことなんじゃないの?
伊東くんの対外試合やってるところとか見てみたいなぁ!」
「そないすごいとことちゃうで、できる人はすごいけどおれは走ることしかできんからしゃーなしそこに追いやられてるだけやから。
おれのプレーなんか見ててもそんなおもろいもんとちゃうで?」
「それは私が見てから決めるから心配はいらないよ!
ねぇ、伊東くんが次先発するのはいつ?」
「なんで先発前提やねんな・・・。
次の日曜、ここでやるから。
うちの高校なぜか会場なること多いらしいねんな。」
「そうなんだそうなんだ、それはいいことを聞いた。
じゃあ今度こっそり覗いちゃおうかなー?
もし見つけたら、ちゃんと手振ってよね!」
「えぇー、・・・覚えてたらな。」
えやば、なんか成り行きで前の席の女子が試合見に来てくれることになった。
ってかそうはならんやろ普通、そんな軽いノリで異性の部活応援しにくる?
なんやこの子おれのこと好きなんか?
ほんまよーわからんわぁトーキョーの人、と言うかこの石田さんって人。
距離の積め方バグり散らかしてるって、ノリがいいという謎のレッテルに定評のある関西の出身であるおれより陽キャやって、もう漫画の世界観やって。
「ねぇ、ずっと私と話しながら本読んでるけど、内容頭に入ってるの?」
うごっ、それは聞いたらあかんやつ。
この本は他人から話しかけられるのをガードしながらも周囲には知的でクール系男子に見せるためのカモフラツールやねんな、決して文学に勤しんでるわけでは無いねんな。
石田さんわかってて聞いてるんか純粋に興味持ってはるんかどっちなんやろ。
「・・・さぁ、どーやろな。」
よっしゃ、今日一無難でできるやつの返答。
「なんの本読んでるの?」
「・・・恋愛物。」
あやば、答えに詰まったら怪しまれる思てめっちゃ口滑らした。
ほんまはめっちゃ濃いめのラノベです、ラブコメ要素もあるけど多分石田さんの知らん方のやつです。
「れ、恋愛だとぅ・・・?
伊東くんそう言うジャンルがお好みで・・・?」
あかん、めっちゃわかりやすく興味持ってる。
やめて、掘らんといて、掘ってもなんもでやんしおれと言う人間の中身の薄さが露わになってまうだけやから。
もうほんま勘弁してください。
「ねぇねぇ伊東くん!
ぜひ私にもその本のタイトルと好きなジャンルを・・・!」
ゴンっ!
「はいそこまで、いい加減前向きなさい。
1限とっくに始まってるよ。」
助かった・・・、ありがとう担任の安井先生・・・。
せんせは僕の救世主です・・・。
でもマジで焦ったわぁ、自分から墓穴掘って本性バレるトコやったわ。
カモフラに使うの別のにしよかな。
「あんたいつも伊東にうざ絡みすぎ。
名前近いからって授業に集中できないならあんただけ廊下に席移動させるよ。」
「そ、そんな、ご無体な・・・。」
いいぞもっとやれ。
ってかこのあとどうしよ、わかりやすい石田さんのことやから1限終わってトイレ行くよりももはやくおれに話しかけてくるやろうなぁ。
行動パターンはわかりやすいけど行動原理は一切謎やねんなぁ。
あぁー、もうほんまに
『頼むわ石田さんもーちょい落ち着いて』