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第69話 「楔との語らい」04

今回短めですが!

相変わらずふたりは無遠慮に屋敷の中を探索する。

ポルターガイストを思わせる物音や風に混じって聞こえる笑い声。突然開閉する窓や扉――月乃はお決まりの見え透いた驚かしに不機嫌指数を更に上昇させた。

「ん、開けるからちょっと待って」

定家は少々抵抗を感じる扉に月乃を下がらせる。月乃はツールポーチに手を入れ、魔道書をパラパラとめくった。

『――――……』

月乃の口がまるで早送りのように動き、内容の聞き取れない二重の音が唇からもれた。月乃が肉食動物の大きな牙と少し細い彎曲した角をツールポーチから取り出したタイミングで定家が扉に力を入れた。

「よいしょーっ!」

バキ、と音を立てて扉が開かれた瞬間、部屋の中でバンッ! と音がしたかと思うと家具が浮かび上がり、月乃と定家目がけて飛んできた。

重そうなダブルベッドに黒檀のチェスト、コートかけが殺意高くふたりに向かう。

「うぉっ?」

ドッキリ箱に驚いた様な反応をした定家の横を真っ黒な山羊と白い狼が飛び出し、飛んできた家具に体当たりをして部屋に押し戻した。

二匹は角や蹄、顎でもって家具を粉々に破壊していく。定家は目を見開いてその有様を見ていた。

「燃やしなさい」

月乃が命じると狼は口から炎を噴き出し、部屋の中にあった物だけを瞬時に焼いた。残った灰さえ、大烏のような翼を生やした山羊にきれいさっぱり吹き飛ばされる。

「(高速詠唱してら)」

高速詠唱は一拍の間に詠唱を完結させる特殊な方法である。月乃は虫の居所の悪く、早々に事を切り上げたいときにのみ高速詠唱を使う。

定家は横目で見た月乃の目が据わっている事に気付き、口元を抑える。

「あーらら。オネーサマ不機嫌ちゃん?」

ジロリ、と定家を見る月乃を「おーこわっ」と茶化せる定家の肝の据わりっぷりは見ていてヒヤヒヤする。

すっかり何もなくなった部屋の中を軽く見渡せば、ツンとした錆のような、腐敗した肉のような……異質な臭いが鼻についた。臭いの元は割れた窓の方からだった。

月乃と定家はバッと窓を見る。すると窓を横切るように、不自然な赤い一対の光が飛んでいった。

月乃は山羊に命じて光を追わせる。

「アレ」がこの屋敷の元凶だと、魔女姉弟は理解した。他と違い、明らかに魔力が多かったのだ。それでいてわざとらしいくらい際だった存在の悪趣味さにこの屋敷の「ラスボス」であると見せつけているようだった。

「定家、五分以内に終わらせますわよ」

「りょうかーい」

月乃は平坦な声で告げる。

狼が黒山羊の匂いをたどり、屋敷の廊下を進んでいった。

月乃はカツカツと音を立て、定家はのんびりと両手を後頭部に置いた状態で狼を追った。




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