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第68話 「楔との語らい」03

「でぇいっ!」

三つの頭を持つ巨大な犬の怪物、ケルベロスを倒したクラウディオと正人。昨日のインキュバスとサキュバスに比べれば、精神的攻撃をしてこない分、純粋な暴力で対抗できることは幸いだった。

「ふぅ……それぞれの頭の攻撃が異なっているのは結構厄介だったな」

「ああ、だが首が減れば攻撃の手段も減っていた」

「首を殴り潰してくれたからだ。助かったよ」

コキコキと肩を回して疲れた様子の正人を、クラウディオはじっと見ていた。

――そういえば正人の攻撃が昨日より火力が落ちているような気がしたな。

クラウディオは少しばかり引っかかりを覚えるものの、そろって安置へ向かう。

怪物との戦闘を危なげなく攻略したが、体力は消耗している。何よりエネルギーを使って空腹だ。

旨いとは言えないが、栄養バランスの完璧な「パーフェクトミール」を体が欲していた。

「クラウディオ、俺の分はふたつ頼む」

パーフェクトミールの容器を、昨日同様正人と自分分を合わせて四つ取ろうとするすると、意外なことに正人はもうひとつ食事を求めた。体格的には食が細いように見えたが、先程の戦闘で消費したカロリーが多かったらしい。

「なんだかいつもより腹が減ってしまってな」

パーフェクトミールの容器を開け、ミールブロックを正人はかじる。カラフルなシートも筒状に丸め、謎の肉塊も平らげた。あっという間に容器をひとつ空にした正人は、もうひとつの容器を開ける。

「……もうひとつ」

クラウディオがひとつ容器を開ける間に、正人は立ち上がり、三つ目の容器をとりに行く。よほど空腹だったらしい。

ミネラルウォーターをがぶがぶと飲み、正人は少し疲れたような表情をした。

「……悪い、今日は少し早めに休んでいいか?」

「ああ、かまわない。期限まで日にちはある。無理をして倒れたら元も子もないからな」

「助かる」

申し訳なさそうに笑う正人は、軽くシャワーを浴びてベッドへ転がってしまった。その様子を見ながらクラウディオは考える、自分と体力の差はあるだろうが、それでも正人の様子は引っかかる。戦闘が激しかった、というのもあるがそこまで消耗するかと言えばそうでもない。

「(考えすぎか……?)」

クラウディオは黄色のシートを食い千切り、ミネラルウォーターで胃に流し込んだ。


◇◇◇


クラウディオと正人が「神曲」に挑んでいる頃、庵田の魔女姉弟はペソルと呼ばれる地の木蔦屋敷に赴いていた。

イェルカとシンシンに渡された資料によれば、収集部門の司書がすでに五人犠牲になっているという。一般人もすでに両手で足りない程度犠牲になっているとのことで、魔女であるふたりは屋敷の調査と制圧――要するに原因と思われる魔道書の収集が求められていた。


古びた外観に、壁や屋根に這い回る蔦の葉。扉や窓は外れたり壊れている。「いかにも」というお化け屋敷じみた様子に、月乃は顔をしかめていた。

「月乃ぉ~、嫌そうな顔しすぎ」

「だって……あからさますぎるんですもの」

「まぁ、そうだけどさ」

あからさま、と言う月乃の言葉に定家も眉を上げる。

ここまで「あからさま」に怪しさを醸し出している相手に、第八図書館の司書が五人も犠牲になっている。素人が五人ではない。資料によれば魔道書を作れる程度の技術を持つ魔術師もひとり含まれているのだ。

「中に入らず屋敷ごと消しては駄目?」

「一応『収集』だから駄目だって」

月乃は面倒そうに顔をしかめている。ここまであからさまな魔道書相手では、月乃の求める「面白い」魔道書である可能性は低い。それ故、大層面倒そうな顔をしている。それでも以前はここまで感情を出していなかった。


――最近の月乃は「人らしい」表情をするようになった気がするなぁ。

定家はいい傾向だ、とこっそり口元に笑みを浮かべながら、月乃の肩を叩く。

「さ、お仕事しましょうか。オネーサマ」

「ええ、わかりましたわ」

わざとらしい、盛大な溜息を吐きながら月乃は腰に帯びた魔道書を取り出す。定家はバアルのガントレッドを装備し、屋敷に踏み入った。


「はぁ~……ベタですわー……有名すぎますわー……あからさまで見え見えすぎですわー……」

「はいはい。足下気をつけろよ~」

ごく普通の廃墟と同じ歩き方をするふたりは、転んで怪我をを内容に足下に注意しながら進む。

物置部屋のような部屋に入れば、壊れた戸棚があった。見るも無惨なその棚にはまだものが残っており、カラカラに乾いたインク壺や錆びた万年筆、ボロボロの革表紙の手帳があった。

月乃が無造作に手帳を取り出し、パラパラとめくると筆圧が強く、ハネが鋭い文字が並んでいた。どうやら日記らしく、日を追うごとに筆致は乱れていく。「悪魔」「儀式」「召喚」「従属」などオカルトな内容が書き連ねられており、最後には「見られている」「そこにいる」などとかかれていた。

月乃は顔をしかめ、戸棚ではなく部屋にあった机に日記を放った。


「なになに? なんて書いてあった?」

部屋の中を物色していたらしい定家は、興味津々で月乃によって行く。しかし月乃は不満そうな顔をした。

「ベッタベタなホラーアイテム」

いつものミステリアスに見える笑みを浮かべている月乃はおらず、端的かつ単調に答える。定家はその様子に月乃の不機嫌具合を感じ取った。

「(不機嫌度中の上、ってとこ?)」

ベタベタホラーアイテムのあった部屋を後にして、ふたりは別の部屋に向かった。


次の部屋は壊れた家具、またその次は灰の積もった暖炉のある部屋。

リビングと思われるところにはいわゆる悪霊払いに使われそうな道具があった。十字架やら聖水入りの瓶、干からびた大蒜とハーブ、すっかり黒くくすんだ銀の杭とハンマー……

定家はうわぁ、と半笑い。

途端、ガタガタッ! と大きなものが揺れる音がした。しかしこのリビングではない。月乃は口をへの字に曲げ、盛大に溜息をついた。

「……次、行くわ」

「へぇい、オネーサマ」

お久しぶりです!

連載のうちひとつが書籍化するにあたり、こちらをお休みさせていただいておりましたが、またゆるゆると更新させていただきます!

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