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第62話 「寄り添うために」02

皆さん、水分補給は水だけでなく、ミネラルも補給しましょう。

「えー、これより新・訓練システム『神曲』の参加を君たちにはしていただきまぁす!」


 高らかに宣言をする見た目頭おかしい男・タイラー。その横で、楽しげに拍手をするカラフル動物耳お団子のヘルガ。そして全身で『やる気ありません』と寝転がっている少年、副部門長イーヴォ。


「ほら、副部門長。しっかりしてくださいよ~」

「いやだぁ、月乃お姉ちゃんがいないなら帰るぅ」


 ヘルガが羽交い締めをするようにイーヴォを無理矢理立たせるが、彼は月乃がいないことで一切をやる気を放棄しているようだった。

 そんな茶番じみたやりとりを、クラウディオと正人は見せられていた。いぶかしむふたりに、タイラーは「ウォッホン!」とわざとらしい咳払いをして、更に演技臭い動作で説明を始めた。


「えー、この研究部門が技術の粋をつぎ込んだ、主に前線に立つ職員のための訓練であーる!」


 ヘルガが後ろで拍手をし、イーヴォはそれにあわせてやる気なさげに手を叩く。

 タイラーが指を鳴らすと、壁に建物の簡略図のようなものが浮かび上がった。


「この訓練システム通称『神曲』は七つの試練があります。試練をクリアして、最下層の門にたどり着くことで『神曲』を攻略したことになるのであーる!」

「ちなみに各階層に安全地帯、休息場所があります! ベッド・シャワー・食料その他諸々が準備されています!」

「さすが手厚い!」


 タイラーとヘルガはノリノリで説明をしているが、クラウディオと正人がその勢いについて行けていないことは無視らしい。

 タイラーは指を二本立て、クラウディオと正人に向ける。そして口元には挑戦的な笑みを浮かべていた。


「ふたりには二週間で攻略してもらうよ。それが出来なかった場合、定家くんに連絡が行くことになっている」


 それは賭けに負けるということを示している――定家の調子に乗り見くびった表情が思い浮かび、クラウディオと正人は静かに青筋を浮かべた。ふたりともあの身勝手で横暴な定家の行動に怒っていたのだ。


「見てろよ定家……ぎゃふんと言わせてやるからな……」


 ぶつぶつと低い声でつぶやく正人はよほどお冠らしい。普段ならない眉間のしわが深く深く刻まれている。クラウディオも握った拳がギシリと音を立つほど強く力を込めていた。

 ふたりは階段扉の前に立つ。


「はじめてくれ」


 タイラーは楽しげな笑みを浮かべた。

 クラウディオの言葉の後、タイラーが正人を見ると彼もこくりと頷く。

 タイラーがふたつの白と黒の小さな鍵を掲げると、二重の音でつぶやいた。


『解放』


 すると小さな鍵は腰に帯びるほどの剣の大きさになった。ディンプルのシリンダーになっており、鍵の握り部分は剣の柄のようになっている。

 それを白をイーヴォが、黒をヘルガが掴み、彼らの足下に生じた魔方陣に突き立てた。それをひねるとガチャリ、と解錠する音がした。階段の扉が開かれ、クラウディオと正人を歓迎するかのように、花の香りが階段から漂ってきた。


「さあ、行き給え! 君たちが魔女の側にいるにふさわしい力を持っていると示してくれ!」


 クラウディオと正人は階段を降りていく。

 ふたりは定家を泣かせてやろうという決意を胸に、『神曲』に挑むのだ。






 慎重に階段を降りていくふたりが最初に降り立ったのは温かな花咲き乱れる場所だった。屋内だというのに果ては見えず、どこまでも爽やかな空気と優しい花の香りがふたりを包む。

 試練と言っていたにもかかわらず、ずいぶんと心安らぐ場所だ。しかし遠目に、不自然な扉が存在していた。

 あからさまである。

 あからさますぎるその様子に足を止めたクラウディオと正人の側に光が寄ってくる。

 蛍かと思って目で追えば、それは小さな人だった。


「ども! ナビゲーターのフェアリーなヘルガっす!」


 三頭身ほどのドールのような姿のそれは確かにヘルガだった。

 背中に透き通った羽があり、フェアリーと名乗ったとおり妖精のような見た目ではある。正人は手を差し伸べ、そこに乗ったフェアリーなヘルガをじっと見てから口を開いた。


「ああ、遠隔操作の人形か」

「正人さんはロマンがないなぁ」


 フェアリーなヘルガ――もといヘルガ人形は頬を膨らませて正人の手から飛び立つ。ふたりの前でくるくると飛行しながらポーズを取った。


「えー、まず君たちにはあちらの扉を抜けていただきまぁす」


 ヘルガ人形から聞こえたのはタイラーの声だった。通信機のようにあちら側のしゃべる相手を簡単に変えられるようだが、正直なところ違和感しかなかった。

 眉を上げているクラウディオを見ながらクスクスと笑うヘルガ人形はニヤーと笑う。


「ちなみにふたりは実戦経験だから、一番強く設定してあるよ。楽しんでねぇ」


 くるん、と一回転してヘルガ人形はどこかへ飛んでいってしまった。

 クラウディオも正人も、苦い草を噛んだときのような渋い表情になる。

 ふたりはその渋い表情のまま、ウサギの刻印のされた扉の前に立つのだった。


書いている人は水分ばっかり取って脱水症状起こしかけて、軽度の熱中症になりました。

お気をつけください。

次回更新は週末20時ごろを予定しています。


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