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第46話 「歪んだ愉しみ」05

短めです。

「本当だ。ダゴンの出現ポイント、比較的浅いところばっかりじゃん」


 モーリスから受け取った資料を確認し直し、水深をチェックすればダゴンの大きさからから推測できる体格ではすぐに足をつける深さだった。

 本当にあのダゴンが泳ぎ慣れていないというならば、姿が定まっていなかったというのはもしや、と思い当たる。


「本来は海中向きの姿をしていなかった……?」

「そうです。ダゴンはおそらく元々は泳げないんです。資料の姿が異なっていたのは、おそらくかけられた魔術が未完成だったため姿が定まっていなかったのでしょう」

「実験的に使われた魔術だとそういう風にどこかしら『歪』だったりするからね」


 そうなると本来の姿というのはまさか、とクラウディオは思い当たり、目を見開いてから眉間にしわを寄せる。


「まさか、あれは人間か?」


 月乃は首を縦に振って肯定する。

 魔術師は他人を材料や燃料のように考えるものがいると聞いてはいたが、実際にそれを目の当たりにすると不快感が強まる。

 泳げない人間を海に放り出し、怪物としかいえない姿にすることで討たれるように仕向けたのだろうか。

 言葉も通じず、孤独にさまよっていた相手を傷つけたのなら――


「悪いことしちゃったなぁ。結構ボコボコにしちゃったよ」


 定家はそう言いながら頭をかいている。しかしその顔は悪びれている様子もない。口調もさほど暗くもなく軽やかだ。


――本当に読めない。


 クラウディオからの視線を感じたのか、定家は目を三日月に細めた。初対面の時に月乃を心配して胸を踏みつけてきた行動さえ、実はポーズなのではないかと思う程度に腹の内が読めない。

 月乃とは異なった方向でよくわからない男である。


「まさか早々にこれが役に立つことになるとは思いませんでしたわ」


 月乃が取り出したのは、バンの中で見ていた「御札」という魔道具だった。新作らしいそれの効果はそういえば聞いていない。


「かけられた魔術を剥がす魔道具です」


 なぜそんなピンポイントで役に立つ魔道具があるのか、とクラウディオは目を丸くする。月乃はクラウディオの視線の意味に気づいたらしく、小さく咳払いをした。


「クラウディオが『魔道書』を降ろされたあと、思い付きましたの。時間経過が年単位でなければ強制的に力を剥がせるそうです」

「でもダゴンの出現時期から長くてもまだ二ヶ月は経過していない」


 定家はヒュゥ、と口笛を鳴らして唇で弧を描いた。


「やるじゃん、研究部門。早いこと長くて根深いやつも剥がせるようにして欲しいねぇ」


 月乃は少し困った顔をする。

 おそらく正人と凜音のことを言っているのだろう。月乃も歯がゆいようで唇をきゅっと引き締めている。

 クラウディオは月乃の頭を掴み、わしわしと髪の毛をかき混ぜる。突然頭を鳥の巣にされた月乃は頭に疑問符を浮かべていた。


「今に集中すべきだ。今できないことを悩むと、今できることを取りこぼすぞ」


 ぽかん、とする月乃はクラウディオの言葉にワンテンポ置いてからいつもの表情になる。


「そうですわね。気を引き締めましょう」


 眉をキリッとさせた月乃は早速作戦を練り始める。

 その様子を見ていた定家はタコのような口をしながらつぶやいた。


「月乃の『処す判定』、ゆるくなってね?」

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