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第31話 「査問会」03

「ダレン管理部門長、どうぞ」


 青年が指名すると、ヒゲがやたら立派な男がふんぞり返りながら発言を始めた。


「今回の事件において、問題となったのは、魔術師襲撃以上に『白紙の魔道書』クラウディオ補佐の暴走だ。各部門の長にうかがいたい。クラウディオ補佐の処遇についてだ」


 クラウディオは空気がぴり、とひりついた感覚を覚えた。

 査問会だと言っていたが、本命はこちらなのだろう。そう察したクラウディオは口元を引き締め、目の動きだけで周りをうかがう。

 月乃の話では彼女を気に入らない一派がいると言うことであったが、ダレンという男がその一派らしい。

 ダレンがふんぞり返りながら柳のようなほっそりとした白髪混じりの品のいい女性の方を向く。


「調査部門長イェルカ殿、意見を」

「調査部門としては引き続き月乃司書の補佐として働いてもらえばいいと思います。強力な戦力らしいし、こちらとしては現状維持でかまわないと考えています」


 クラウディオは少しばかりホッとする。

 彼女は中立らしい。

 すらりとしたイェルカの指先を顎に当て、切れ長の一重の眼差しを隣に流す。


「シンシン収集部門長、あなたはどうですか?」


 イェルカの隣の丸眼鏡の狐顔の男は眼鏡のツルを持ちあげ、眉間に皺を寄せている。


「自分としてはできれば『図書館』で管理してそのまま封印しておきたいね。今の無害化されている内にそうしておいた方がこちらは楽だ」


 がりがりと頭をかいてため息をつくシンシンの言い分も理解できる。クラウディオとしてはシンシンの発言はリスクを考えれば仕方のないものだと思えた。


「ダレン管理部門長はどうです?」


 シンシンは隣のダレンへと意見を仰いだ。ダレンは相変わらずふんぞり返り、偉そうにこちらを見下ろしている。


「収集部門長シンシンに同じく。危険性もあるが希少性もだ。『魔道書』の編纂ができるようなものだ。たった一冊で強力な『魔道書』ができあがる。それを個人に所有させるなど、看過できん」


 ヒゲを撫でながら発言するダレンに月乃が小さく舌打ちをした。普段の彼女からは想像できない様子にクラウディオは彼が「例の一派」であることが確定する。


「タイラー研究部門長はいかがか?」


 ダレンは隣の蛍光色の頭のミドル男性に声をかける。八十年代に描かれた未来のファッションを思わせる七色サングラスに首元には鋲のついたチョーカーというパンチの効いた格好の彼は元気いっぱいに挙手をした。


「大歓迎大歓迎! 『白紙の魔道書』は文献でしか見たことないからねぇ! 色々調べさせてくれるでしょ?!」


 きらきらした眼差しでクラウディオに向かって熱視線を送る。クラウディオは一瞬間を置いてから顔を逸らし、半歩後退りをしてしまう。


「カティ事後処理部門長はどうですー?」


 タイラーの隣、前髪で目元の見えない猫背の女性はもじもじと指を動かしながら視線を泳がせてる。


「ええ……ワタクシたちとしては爆弾を抱えるより破棄していただきたいです……月乃司書との交戦のあと、とても酷かったんですよ……?」


 クラウディオは申し訳ない気分になった。

 月乃や正人から話を聞いていたが、あまりにも酷い有様だったらしい。

 反論しようにも事実であるならそう考えられても仕方がないと思えた。


「イーダ監査部門長は、どう……お考え、ですか?」


 カティがうろつく視線で隣の女性を見た。

 褐色に豊かな黒髪の彼女は大分興奮気味で、クラウディオをすさまじい形相でずっと睨んでいた。

 そして席を思い切り叩き、立ち上がってクラウディオを指さす。


「そんなもの破棄に決まっているでしょう破棄! ウチの正人監査官に迫ったらしいじゃないですか! そんな危険なヤツ即刻破棄!」


 部屋の中がシン、と静まりかえる。

 数拍間をあけて月乃が溜息をつく。クラウディオは斜め後ろに控えている正人に視線をやると顔に手をあて、「申し訳ない」と全身で主張していた。

 月乃はわかりきっていたようで、うんざりした表情を隠しもせず、小さく挙手してイーダに視線もやらず口を挟む。


「イーダ部門長、私情が含まれていることは感心できません」


 当然と言えば当然だろう。

 しかしイーダはさらに目をギラつかせ、月乃をギッと睨みつけた。


「そもそも月乃司書! 貴女は弟共々、正人監査官と親しくしすぎなんですよ!」

「わたくし彼の友人なので親しくて当然だと思いますが?」

「んきー!」


 死んだ目で答える月乃。

 顔をまっ赤にして喚くイーダ。

 なんなんだこの茶番は、とクラウディオも困惑する。


「誰か、話が進まなくなるのでイーダ部門長を連れ出してください」


 月乃の言葉に正人が申し訳なさそうにイーダを連れ出す。何やら猫なで声で言っていたがそれを無視して部屋の外へ出した。

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