第30話 「査問会」02
「それでは繋ぎますから、お待ちを」
玄関に立った月乃が、男たちを振り返る。
ドアノブの近くの飾りに、どう見ても魔術に関わりありそうなカードを差し込んだ。
そしてノブを捻ると、そこには小高い丘の風景ではなく、目の前に巨大な建物があらわれた。歴史ありげな風格があり、すぐ横を見れば大層立派な門がある。
どうやら外壁の大きな門の横についている扉から自分たちは出てきたらしい。
どう考えてもワープをしたとしか思えない状況に、クラウディオは一瞬驚きそうになったがいつものことだった、と思い直した。
クラウディオの思考が短い間宇宙へ旅立っている間に、定家がスタスタと建物の方へ向かう。
「クラウディオ、ほら行くぞ」
正人と月乃の手招きに促されクラウディオも玄関扉から出る。
一歩そちらに踏み出し、扉を閉めてしまえば鍵の閉まる音がした。クラウディオはどう見ても自宅玄関とは異なるデザインの扉をしげしげと眺めていた。
「『図書館』から直で来られるように繋いでくれれば楽なんだがな」
正人がぼやくと月乃と定家が唇をひよこのように尖らせる。
「それほど困らないでしょう?」
「仕方ないじゃん。月乃が『図書館』の連中にしょっちゅう来られるの嫌だって言うから一方通行なんだもん」
「監査と研究の連中が乗り込んで来ちゃうじゃん」と言う定家に、正人は「う」と顔を歪めた。
「それに正人はドライブ好きでしょー?」
「ああ、うん。否定はしない」
のほほんと歩を進める定家とその隣を歩く正人。月乃はつい、とクラウディオのスーツの裾を引っぱった。
「心配ですか?」
「……少しな」
「大丈夫。クラウディオに手出しはさせませんから」
にこ、と笑う月乃は胸を張る。その自分からすれば華奢なそのからだで背負うものは大きかろう。
「頼もしいことだ」
その言葉にきょとんとする月乃はそれが皮肉だと思ったらしく唇を少し曲げた。
「はいはい、さっさと来てくださぁい」
定家に促され建物に入ってゆけば、ホールは外観と相応しい豪奢かつ歴史ある内装をしていた。高い天井には繊細な絵が描かれている。
定家の先導で進んでいくと途中、職員らしい人々とすれ違う。
月乃や定家に気さくに挨拶してくる者、正人に熱視線を送る者、遠巻きにしている者――
クラウディオは自分にも向けられた好奇の眼差しに気付く。
以前であれば慣れていたが、自身が「魔道書」であると知ってからは少々居心地の悪さを感じる。
一際大きな扉の前にたどり着くと、月乃がクラウディオの袖を引っぱった。
「クラウディオは聞かれたことに答えるだけで大丈夫ですから」
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査問会、という話であったがその場所は異様だった。
部屋の中央にのみ明かりが当たっている。月乃がそこへまっすぐと進み、クラウディオはその後につく。
正人と定家はスポットライトのギリギリ外側に立っていた。
「月乃司書、クラウディオ補佐を伴い参りました」
背筋を伸ばした月乃が声を上げると、周りが六カ所明るくなる。裁判官のように高い席に腰掛けたそこにはそれぞれ人がいる。
また異なるところからひとり、若い男が進み出る。
「これより先日の魔術師襲撃事件に関する査問会を行います」
司会進行役らしい。
査問会の開始を告げた。
クラウディオはちらと六人を見渡すと月乃を囲む六人の表情に統一感はない。
ある者は不安そうで、またある者は顔をしかめている。またある者は笑みを浮かべ、またある者は落ち着きがない。
月乃に視線をやるがいつもの笑みは浮かんでおらず、驚くほど無感情だった。その顔に書かれているのが「早く帰りたい」であると、クラウディオは読み取れた。
進行役の青年は資料を手にそれを読み上げる。
「およそ一か月前、重要危険魔術師『ショーン』により、『白紙の魔道書』にベルセルクを降ろされ暴走。これを月乃司書が『陰陽の書』を使用し、負傷したものの制圧に成功。間違い有りませんか」
進行役の言葉に月乃の眉がピクリと動く。青年の方にからだごと向いて視線で射貫いた。
「『白紙の魔道書』ではなくクラウディオです。クラウディオ補佐です」
資料に書かれていた文言を読み上げただけだったらしい青年は一瞬月乃の視線にたじろぎ、謝罪する。
「失礼しました。クラウディオ補佐がベルセルクを降ろされたため暴走、と。間違いありませんか?」
「ええ、間違いありません」
「クラウディオ補佐。間違いありませんか?」
「ああ、間違いない」
進行役の青年は資料と月乃たちを見比べてさらに確認を続ける。
「その際に月乃司書は所持していた『陰陽の書』を用いて応戦。ベルセルクを封印したとのことですが、間違いありませんか」
「はい、間違いありません」
月乃はこのやりとりを散々経験したのだろう。声からはわかりにくいが「うんざり」と言う感情が表情からにじみ出ていた。
進行役の青年はちら、と周りの六人に視線をやる。そのうちひとりが挙手をした。




