プロローグ ~ヒロインの「事情」~
並行世界か、と思えるほどに――かつての日本と瓜二つのようによく似たその世界では、遺伝子解析が進み、顔かたちや肌の色、体格といったことはもちろん、個人の基本的な能力や特性など、かなり詳細なことが遺伝情報から予測できるようになっていた。
治療が難しい病であったり、重大な病気をを発症しやすい家系に生まれた者にとって、それは病気の予防や早期発見、治療につながる朗報だった。
あるいは、子どもに恵まれないカップルが子をなす手段として。はたまた、子孫を遺伝病から解放する手段としても、特定の遺伝子を操作する技術は脚光を浴びた。
だが同時に、遺伝子研究の闇の部分……“神の領域”として禁忌とされてきた事柄“遺伝子操作によって、思い描いたとおりの人間を作り出す”という研究も、一部で行われていたのも事実だった。
時を同じくして、ある物質を研究していた博士により偶然に発見されたものがきっかけで、密かに脚光を浴びた分野が存在した。
それは超能力と呼ばれるような、特殊な能力を使いこなす人間を人為的に作り出すという試みであり「生きた兵器を生み出す技術」として、ひそかに研究が進められた。
――その研究の果てに生まれた「生きた兵器」兼「愛玩人形」として「最高傑作」と呼ばれた一人の女が存在した。
圧倒的な攻撃力。そして、数多の男を惑わす美貌。“パメラ”と命名されたその女は、今はこの世になく、その存在すら、あらゆる機関に存在していた情報から尽く抹殺されている。
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「ほんとうに――母親に、よく、似てきた。」
端末の画面を見つめている、男の唇の端が吊り上げる。そこには、一人の若い女の画像があった。
彼女が、兵器として最高傑作と呼ばれた女、パメラの血を継ぐ娘であることを知るものは、今となっては、片手で数えられるほどしか存在しない。
「佳廉。――いや、今は蓮華と言うんだったかな。」
画像を拡大して、その頭の上から爪先まで舐めるように見つめている――男の目は妖しく、爛々と輝いていた。