4.第二王子の憂鬱
クラウスは、この国の未来を憂えていた。悪女であるフラヴィアと兄が離れたのはいい。
あれは、自分より下の身分のものを毛嫌いしていた。民草のために動くことなどできぬ人種だ。
ミューヴィセン公爵家は、使用人たちには不人気の職場である。公爵は人嫌いの変人だし、フラヴィアは幼いころから苛烈で、自らの身分をかさにきていた。
だがクラウスは、彼女の負けん気だけは感心していたのだ。だからこそ残念に思う。
彼女は使用人からの評判は悪いが、教師たちには口々にほめられていたのだ。
それなのにフラヴィアは、王子妃教育が辛いと出奔してしまったのだという。
あそこまで頑張ってきて、なぜ今になって、と思わずにはいられなかった。
だが、その後釜に座ったモニカもまた、王妃の資質があるとは言えなかった。
兄やモニカは不満を漏らすが、父や母とも話し合い、婚約者候補として留めおいており、彼女は侍女としての仕事の合間に王子妃教育を受けることとなっていた。
モニカ・バルベリが行儀見習いも兼ねて出仕したのは一年も前だ。地方貴族の庶子ということだった。
見習い侍女たちは、たいてい、十月もあれば配属が決まる。
だが、モニカはどこからも拒否されているせいで、いまだに見習いの纏う真っ白なお仕着せ姿のままであった。
受け入れ先が決まらぬ一番の問題は、モニカの能力ではなく、性格であった。
指示されたことを守らず、責任感や向上心に欠ける。
それもそのはずだ、あの女には、働くという考えがすこんと頭から抜けているのだから。
モニカ・バルベリは、より条件のいい伴侶を探しに王城へ来ただけである。
そして皮肉にも、この国で最上の条件を持つ兄を篭絡してしまった。
--これならば、フラヴィアのほうが遥かにましではないか。
あの女は傲慢で意地が悪いが、地頭がよく学ぶことに対して貪欲であった。
負けん気は強いが、だからこそ、厳しい王子妃教育にも根を上げずに耐え、淑女としては満点といってもよかったのだ。
クラウスは、庭園を見下ろしてため息をついた。中庭では、兄とその婚約者が語らっている。
聡明だった兄は、すっかり変わってしまった。
これからはじまる会議には間に合わないであろうし、あの女は礼法を学ぶ時間であったはずだ。
恋は人を盲目にするというが、なんと浅ましいことか。クラウスは、ふたたびため息を落とした。




