拝啓 勇者様、こちらは今日も平和です。
前回の続きです。
今年の桜の開花は特に早く、少し前までつぼみだった花たちも、満開を超え、もう殆どが散り始めている
初めて腕を通した制服で踏んだ校庭は、まさに桜の絨毯だった
入学式まで散らないでくれてよかった。
緊張したくなくて、どくどくと高鳴る胸に気づかないふりをしながら、絨毯を踏み歩く、
大きな掲示板の前には入学生たちが、自分のクラス確認に集まっている
私の、名前……あ、1-B
柔らかな風に花弁が舞う
ここから私の高校生活が始まるんだ……
皇族直属 秘密特殊隊TKG所属 特別隊員アリン・ユークベルン
今日からここで、華やかな売国貴族調査です!
「いや、どんな学園漫画?」
「それは最近、城下で人気の高い漫画らしいですよ」
王座で読書に勤しんでいると、傍らに控えたマンドが腰を折って表紙を覗き込んだ
「それを知って昨日買ってきたんだが、この展開は何なんだこれ、表紙はピンクでいかにも学園ラブコメ風の絵だが、売国貴族とは、、もう血なまぐさい展開にしかならなそうな、、、随分求めていたものと違うぞ、表紙詐欺ではないか」
本を閉じ、表紙を眺めて文句を言うと、マンドが口角を上げる
「そうおっしゃらずに、読んでみればお分かりになるはずですから……」
マンドは俺の、魔王の右腕、他に比べずば抜けて優秀な男だ、政治や法の制定、様々なことに関して、彼が行けるといっていけなかったためしは今までにない
「うむぅ……」
納得いかないながらも、俺は再び本を開いた
「……なんだこれは」
最終ページまで読み終わり、本を閉じてつぶやいた
空気が変わったことを感じたマンドがこちらを向く
俺はいてもたってもいられず、勢いよく立ち上がった
「なんだこれは、面白い!最初はなんて表紙詐欺だと罵ったが、俺が浅はかだった!華やかな学園生活を謳歌しながら、パズルや暗号で巧妙に隠された売国の証拠を見つけ出し、党派争いの中に隠された思惑を暴き、親の隠蔽に知らぬうちに協力させられていた生徒の苦難を知る……なんだこの表紙詐欺は!おもしろい!!」
興奮気味に語りながら、俺の足は城下へ降りるべく進みだしていた
「お待ちください魔王様!」
少し焦った声色のマンドに振り返りつつも歩を止めることはない
「なんだマンド!俺はもう行くぞ!」
すると彼はその鋭い眼光でこちらを見据え言った
「そちらの漫画、最新26巻まで出版されております」
彼の言葉に一瞬目を見張ったが、俺は再び前を向く
「ふっ、この俺を誰と心得る?この国の魔王ぞ……大人買いだ!」