第二話 触れないのは辛いのです 惨いのです 生殺しです 触りたいのだから触れませんか? あっ無理ですか。そうですか。スゥー……ヌゥッスンダa 何をすルゥだあ! えぇい……かくなる上は最終手段。「キ
第二話です。時間は遅れたけど一応投稿しましたよ?
「よいしょ! よいしょ! ふー……やっとここまで運べた。私って重! 減量しなきゃ」
いつもならご主人に放り投げられたら、そのまま放置されていた私であったが今日は一味違う。
「zzzzzz……」
ご主人は呑気に寝ている。健やかそうな寝顔であったがこれからどんな苦痛に歪むのか楽しみである。……やっぱイタズラやめよっかな……
いや、待て。ご主人はいつぞやこんなことを言っていた。あれは友達と遊びに言った帰りだった。
ご主人は、友達と分かれた後、風を切りながら自転車でポツリと心情を吐露する。
「俺が冗談言うと、マジで怒ってると勘違されて場の空気が一気にシラけるんだよね。笑いになんないんだよね……はははは……あは、あはははは」
「ご主人……可哀想な子!」
私はブワッと涙が溢れる。ご主人の勘違いが悲しくなって。
それ勘違いですよ。友達めっちゃ笑ってましたから。腹抱えて笑ってましたから。なんだろう、ご主人はもっと直接的なアクションが欲しいのだろう。
このことから考え出した私の結論はこうだ。
ご主人は青春が欲しい。
ご主人はキャッキャウフフに飢えてるのだ。波打ち側で水の掛け合いとか夕日に向かって走りたいのだ。河川敷で喧嘩をしたり、青春にとてつもなく飢えてるのだ。
そんなご主人の望みを正しく理解できているのは私しかいない。これで私が仕返しをしないと、またご主人は一人部屋の中でいじけて、高難易度クエストをひたすらやり続けてしまう。
これはしっかり冗談に対して冗談で返してあげなければ……!! 私は気合を入れ、ご主人を盛大にイジル。
「ふっふっふぅ! さっきは良くもやってくれましたね!! ご主人!! 貴方のさっきのDVで私はなんと進化してボディに触れるようになりました。そう、これで私も物質的干渉ができるようになったのでぇーす!! 油性ペンで肉ぅ!! と書いたりテッシュを鼻に突っ込んでくしゃみを引き起こしたりもできるんですよぉ〜。へっへっへっへっへぇ〜! 覚悟して下さい! ご主人!」
ご主人「zzzzzz……」
「寝てますね……こっ……これは……そもそもボディに触れるだけで他の物に触れれるか確認していませんね……イッイタズラよりも、キッキキキキッスが出来るかどうかの確認をば!!」
私は目を大きく見開かせると背中から翅を出現させ、パタパタとご主人の顔に近づいていく。
「zzzzzzzz…… ふふ……! ひひひひ」
いい夢でも見てるのだろうか。最近のご主人は寝てる時、とても気持ちよさそうに楽しそうに寝ている。それが私にはちょっとショックだった。
「はぁはぁはぁはぁ、ごっ、ごくり……ゴシュジーン? 朝ですよぉ〜? ぐっ……ぐっすり寝てますかぁ? もう早く起きないとわっ私がキッキキキキッスでご主人様のこと起こしちゃいますよ〜〜 いいんですかぁ?」
「zzzzzzzz……いいよぉ」
「いいんすか!!」
私は興奮が抑えられず、目がハートになってしまう。おっおねだり⁉︎ キスのおねだりっスか? ご主人!! チュッチュしますよ。唇ふやけるまでするけどいいんですか!! しかしそれはぬか喜びだった。
「いいよぉ、いいよぉ、最高だよぉ〜。イラストいいよぉ〜。これ神絵師だよぉ〜、無駄にエロくていいよぉ〜。こっちの作者もいいよぉ。スコッパーはやめられねぇ。いい作品は発掘しなければ……」
おいおいおい、寝言ですかぁ、ご主人。そいつはチョイいとタイミングが良すぎじゃないですかねぇ?
いつもの寝言だ。こちらの会話に介入するワードが必ずあるのがタチが悪い。
「寝言ですかぁ……なぁんだ。まぁいいです。確認のためなんだから、確認のためです。ご主人の唇に私が触れるかどうかの確認なんだから、感触を確かめるだけなんですから……ちゅぅ〜〜、ちゅ、ちゅぅー? ……透ける……通り透ける……」
「zzzzzz……スゥー……スゥー」
私は怒りのあまり翅をハチドリのように震わせる。ぶんぶんぶんぶん音がする。
「ガッデムシット!! なんでじゃー! こういう時は不思議なパワーでなんとかなるんじゃないのかー!!!!!! 現実はドイヒー!!!!」
ご主人「ちゅちゅちゅちゅちゅ〜〜レロレロzzzzzz」
「えーい、私を差し置いて誰とキスしてんじゃー!! 舌を出すのをヤメロォ! さっさと起きろーーーご主人!!」
そうして私は五分ご主人に向かって五分ほどギャーギャー喚き続けるのだった。
起きる気配がないかと思われたご主人は私が拗ねて何もしなくなった五分後に起き、無事に遅刻することなく、会社に着きました。めでたしめでたし。そのことを会社の備品であるパソコンに話すと、奴はニマニマと思わず殴りたくなる顔をする。
「めでたしめでたしねぇ? ふふ。それ貴方が起こさなければ主様は直ぐに目覚めていたのではないかしら?」
パソコン女はくすくすと、こちらを嫌味たらしく笑う。
「なんだと、おい! 笑うな、パソコン女! 会社の備品の癖して、私が何もしなければ起きたとか余計な事を言うんじゃない!! 私だって頑張ってるんだから!!」
「備品でも使ってもらえるならいいわぁ。仕事で使ってもらえるって最高ねぇ。みんな真剣な顔して私の画面を見つめるんですもの。体がゾクゾクしてショートしちゃいそう。ここの人達は皆すごいテクよぉ。指がもう、滑らかだし、コードも扇状的でとっても素敵。私たちの主様もなかなかテクは美味いけどあれじゃあね……ふふ、主様に購入された家電は大変ね。充電一つとっても電気代を気にないといけないのだから」
「貧乏って言うなぁ。ご主人はその質素なだけだから。質素なだけだからぁ」
私は朝からパソコンに向かってキャンキャン吠えるハメになった。今に見てろよ、ご主人だって一戸建て買えるぐらい年収増えるんだからな……多分……10年後ぐらいに。そして私はご主人と共に会議室に向かうのだった。
私は暫く寝ていますが、頑張って下さいね。応援してます。私はご主人の頬に触れるか触れないかギリギリの所で口付けを落とそうとする。これならば、触れていなくても私の心は満足するのだった。
するとたまたまか分からないが、ご主人がわざわざ私の口に唇を合わせ、ニッコリ笑うのだった。まるで見えているかのように……
「そっそれは反則です。ご主人、私壊れちゃいそうです」
先程の擬似的キスですっかり興奮した私は、電源を切っても中々眠くならず会議が終わった後にようやく眠るのだった。
(上手く話せてる。ここが正念場だぞ。噛むなよ、噛むなよ。四郎は吊り橋を渡るかのようにとてつもなく緊張していた)
「――えー、このように私たち日本人は古来から、アメニズム。生物、無機物を問わず全てのもののなかに霊魂、もしくは霊が宿っているという考え方を持っています。アメニズムの代表的な例として付喪神をあげましょうか。彼らは元々は普通の道具でしたが、長年使われることにより、神や精霊が宿ったものとされています。昔は古道具などは、新年を新しく迎えるために大掃除「煤払い」などと称して古い道具を捨てたりしておりました。そこで捨てられた恨みや祟りとして妖怪化した彼らに襲われるなどという伝承も残っています。日本人は道具を大事にする精神はこのお話から伝わっているのではないでしょうか?」
そこで四郎は言葉を区切って、周りを見渡す。閉じられた会議室の円形のテーブルに座っているのは、部長とこのプロジェクトに関わっている、大勢の人達。そして何故か社長が真ん中の席に鎮座していた。空調が効いているというのに、手汗と喉の渇きは話すたびに増していく。目が合うと社長は鷹揚にうなづきしっかりと聞いてるよというアピールをしてくれた。
(おぉ、話を興味深そうに聞いてくれるのはありがたいのですが、凄く緊張します。真面目に聞かれるとプレッシャーが半端ないです。だってこれは自分の妄想めいた考えが基軸になっていますので)
本当にプレッシャーが半端ない。四郎は汗かきでもないのに、額とシャツの裏と足の裏にびっしりと汗を掻いていた。
当たり前だ。一介の社員がどうして忙しい社長にわざわざ話を聞いていただけているのか。
四郎はこれが現実かどうかこうしている今も信じられなかった。
きっかけは趣味が合う同僚と弁当を食べていた時だった。少し、ファンタジックなおめでたい頭をしている自分は、その日も荒唐無稽で取るに足らない下らない話をしていた。
「四郎、貴方疲れているんじゃない? フィギアみたいな小さな女の子と夢の中でイチャイチャしてるって。全くロリコンどれだけ拗らせてるのかしら。羨ましい!! 死ね!! 変態!! 私もこんなにショタを拗らせているというのに!! ショタ様は私の夢にちっとも現れてくれない……」
「そう褒めるなよ優奈。照れるじゃねぇか。俺だってこんな美味しいシチュエーションをなんで自分がって疑問に思ってるんだ。理由を一緒に考えてくれよ」
「そうねぇ。疲れ、寂しさが引き起こした妄想の類だと考えるのが一番だけど毎日なのよねぇ。それは流石に変かしら? 何かに似てるとか?」
「いいや、初めて見る容姿だ。大体髪がピンクでゴスロリなんだぜ? 似た人を探す方が不自然だろ」
「そうねぇ。それならアニメとかの登場人物がモチーフになっているのかしら。アニメならとんでもない髪型も普通にいるものね」
「そうだなぁ、アニメかなぁ……」
それを聞いた四郎は考え込む。大学を卒業して一人暮らしに寂しさを感じていると突然彼女が夢の中に現れた。自分のことをこれでもかと好きであると訴えるのは寂しさが原因なのだろうか? まぁ確かに妄想めいた謎の成長の仕方だったが……
「毎日だ。最初は触れもせず、姿もボンヤリして、ゼ○伝の妖精みたいに俺の周りをずっとふよふよしてた。でも徐々に形が人間みたいにはっきりしだしてなぁ。そこからは凄かったなぁ」
「ナ○ィ!」
「リ○スン! ……じゃなくて何の話ししてたっけ?」
思わず釣られるように言ってしまった。オタクの悲しい性である。彼女も楽しそうであったが脱線したのは理解したのだろう。気恥ずかしそうに咳をする。
「ゴホン、脱線したわね。それで凄かったって何が?」
「あぁ、そうだ。思い出した。デッサン人形あるだろ? あれみたいな姿になったらもう必死でひらがなの五十文字文字を読み漁って。で、俺を引っ張ってきて、文字を一音一音ジェスチャーで読ませようとすんの。そしたら次は簡単な日本語を俺に読ませて、意味を聞いてくんだ。喋れないから手探りでな」
「あら、知識欲が旺盛なのね。それで?」
「ああ、簡単な意味を教えて言ってたら、ある日どっから出したのかちっちゃな鉛筆でなんかの文字をずっーと書いてるだよなぁ。それでな? ある日俺に紙に書いた文字見せたんだよ。そこにはなんて書いてたと思う?」
「貴方の名前とか? それかパパって書いてくれたんじゃない?」
四郎は口で、勿体づけるような音を出し、指を左右に振る。
(チッチッチ、違うなぁ。そんな安直な言葉じゃないぜぇ。もっと心を魂を揺るがすような途方もない言葉だ)
彼女はワクワクとした様子で聞いてくる。ペットが好きなのにアレルギーを持っているからこう言うほんわかした話に飢えているのだろう。Yo○Tubeの犬猫動画とかよく見てるしな
「いや、違うぜ。もっと破壊力のある言葉だ。何書いてるか覗き込もうとしたら、必死で隠してきてなぁ。それで見るのをやめて数日経ったかな? それである日俺に文字を見せてきたんだ。それは「だいすき」ってワードだぜ。俺のことをぴょんぴょん飛んで必死に指差しながら。
すぐさま俺も大好きって言って秒で抱きしめたな。なぁ俺思ったよ。子供欲しいって……」
子供の可愛さを子供を作る前に知ってしまった四郎。もう彼は自分の子供が欲しくて欲しくて堪らなかった。
「尊いわぁ、なんて尊い話。○witterに載せたらバズるんじゃない? 『うちのナ○ィが可愛すぎるんだがっ』てタイトルで投稿したら」
「あぁ、そうだなぁ。ゼ○伝は有名だから絶対知ってるだろ。そういえば、お前、今彼氏いない? いないなら子作りしようぜ。俺パパ役な、お前ママ役」
「ハッハッハッ、寝言は寝て言え! いくら子供が欲しいからって同僚を子供欲しさに口説くな。彼氏ぐらい、いるわ。バーカ!! この写真を見ろ!!」
そこに写されていたのはツーショットで幸せそうに腕を組んでいるカップルの姿だった。
「おお、中々の美形じゃねぇか。お前やったなぁ。こんなイケメンどこで捕まえんだよ」
中々爽やかな顔をしている好青年だった。少々気弱そうな所に彼女の趣味を感じる。いいセンスしてるぜ。
「ふふふ、とあるゲームイベントのオフ会でね。昔の同級生とばったりと。そこからは話が弾んで交流を重ねること三ヶ月と半月。夜景の見えるレストランで告白されたわ。もちろん私の返事はOKで交際開始。最近は結婚はいつしようかって彼の方から言ってきてもう私にゾッコン。私も彼のことが大好きでラブラブなの。悠くんは、いいわぁ。中々理解がある子で。そうゆうことだから私と子作りは諦めて頂戴。ママ役は無理よ。浮気になっちゃうから」
知っているママ役が一人消えた。どうしようか。こんな軽口を言えるのはそうそう自分の知り合いにいない。部長にはおそれ多すぎて言えない。部長の子供に俺の遺伝子が混ざるとか信じられない。部長のお子息が汚れてしまう。そう言うわけで子供作成プランは見事に消え去った。
「子供は諦めるか……あぁ、でも最近は寝るのが楽しみで楽しみで仕方なくてなぁ。夢の中でなぁハムスターみたいなちっちゃい女の子が俺のこと好きってなぁ、スッゲェアピールしてくんのよ。こじんまりしてんのにちゃんと女の子しててなぁ、可愛いのよマジで。ご主人、ご主人ってなぁ。あれは何かね? 人生がからっからに乾いた俺への神様の恵みの雨かね?」
お陰で仕事の効率も上がり、ここしばらくは残業なしで帰れていた。うちの部長は人格者なので、仕事が早く終わったら追加の仕事をしろと言うのではなく、褒めた上ですぐ帰らしてくれる。
おまけに定期的に飯を奢ってくれたり、相談に乗ってくれたり、素晴らしい。女神なのではないだろうとここ最近は真面目に考えている。ここの会社は凄い。生まれて初めての就職だが、転職なんて微塵も考えられない。
大の大人が話すような堅実的な話ではなく、だいぶイカレタ妄想めいた話しであったのだがどうやら部長が聞いていたらしい。
「随分楽しそうな会話をしているじゃないか? 私も混ぜてくれないか? 子供が欲しいとか……どうとか?」
「あっそうだ。部長結婚とかしてません? それとも今フリーですか?」
「なんだ随分ストレートな口説き文句だな? 私はしがない独身貴族だよ。中々良い人に恵まれなくてね。今は仕事が恋人かな? なーんちゃって、コラ。君は発言にもう少し気を付けなさい。発言に」
部長に軽くデコピンをされる。
(えへへ……この年になって年上の美人にデコピンされちまった。タマンねぇな)
「山本君ほんとに分かってる? 私は慣れてるから問題ないが、他の社員に言ったらセクハラだからな。もう少し注意しなさい。セクハラ発言ぐらいで辞めさせられるのは君が勿体ないから」
(相変わらず今日も部長はお優しい。セクハラ発言をさらりと受け流してくれる。こんな人俺の生涯に一人だけしかいないんじゃないだろうか? そうだ、別に俺の子供じゃないんだったらいいんじゃないかな。うん)
「部長! ちょっといいですか?」
「はいはい、何かな? 君は面白いからな。君と話してると私は飽きないよ」
部長は涼やかな目元でコーヒーに口を付ける。相変わらずクールビューティーな美人で、惚れそうだ。こんな綺麗な人なら彼氏の一人や二人、三人ぐらい平気でいるだろう。その彼氏さんに頑張って部長のお子さんを作ってもらおう。
「部長、俺、部長の子供欲しいです!!!!」
「ブーーーーーーーーーーー⁉︎ ゲッホゲッホゲホゲホゲ、はっ鼻に入った。痛い、チョー痛い」
飲んでいたコーヒーが俺にぶち撒けられる。それほど変な発言だったのだろうか? オフィスにいた人達も急にざわめき出す。ちょっとした騒ぎになってしまったようで申し訳なかった。
(あぁ、でも部長と間接キスしちゃったな。これめっちゃドキドキするな。顔のコーヒー舐めちゃダメかな……いいや、舐めちゃえ」
四郎は濡れた唇を美味しそうに舐めとる。それを見て部長は更に狼狽する。
「ナッナナナナナナナ何を言っとるんだ、君は冗談も大概にしろ!! 本気にするぞ!!」
「えぇ、俺冗談じゃないですよ。部長の子供欲しいんですもん。俺が信用できませんか?」
うるうると四郎は上目遣いで部長を見つめる。彼女はそれに対し、極めて重大な覚悟をしたかのように四郎を見つめる。
「分かった。分かった。うすうす私のことを好いてくれてるのかなぁ? 上司としてかなぁ?
女としてかなぁ? と悩んでいた私もそこまで言われたら仕方ない。君がそこまで本気だと言うなら私も覚悟を決めよう。結婚を前提にお付き合いしようじゃないか。いやはや、私も遂に結婚かぁ。意外と早かったなぁ。これ、本当に夢じゃないのかなぁ……」
何か勘違いしてらっしゃる。部長の遺伝子は俺とミックスさせちゃいけない。こんな蛮行は止めなければ……
「いやいや、俺子供だけ欲しいんです? 部長の子供?」
「こっ子供だけ? 君は随分奇特なことを言う? わっ私の体だけが目当てなのか? それはちょっと残念だなぁ……」
しょんぼりされる部長。あれ、俺の部長への愛は伝わっていなかったのだろうか?
「いえ、部長のことは大好きです。上司としても女としても。生まれ変わっても、もう一度会いたいです。ていうか何で俺より先に生まれてたんですか? もう少し早く会いたかったのに……」
それを聞いて部長は目を閉じる。そしてそっと天井を見上げた後、感極まったかのように四郎を力強く抱きしめる。香水の匂いが何とも芳しく興奮する四郎であった。
「分かった。寿退社するぅ。こんなに愛されて私は幸せだ!! 君のところに永久就職しよう。籍なんて入れなくてもいい。愛の形は自由だ。君と私で子作りしよう。新婚旅行はどうしようか。山本君。いや四郎! ハワイ? グアム? それともバカオ? 今まで貯金なんか意味ないと思ってたけどバーンと使おう。結婚のお祝いに。あぁ、これで親に孫の顔を見せてあげれる……」
「部長苦しいです。それに何か勘違いしてません? 部長の子供が欲しいんですよ?」
「んっ? 私の子供が欲しいのだろう? なら私と子作りすれば解消されるのじゃないのか?」
「いえ。部長の子供が欲しいんですよ。部長と俺以外の。俺の遺伝子が入っていない……」
部長はその言葉の意味を吟味した後、ゆっくり言葉を告げる。
「皆、すまん。ちょっと山本君の指導をするからしばらく席を開ける。私に伝えるべきことは課長に伝えて置いてくれ。すまんな。コイツは本格的に私を怒らせた」
(あっれー怒ってらっしゃる。あれかな。ビッチみたいに男を食い漁ってると思われたことが不快だったのか)
そこから四郎は愛しの部長に、2時間ほどコッテリと言葉のチョイスの仕方について指導をくらうのだった。
今回は一応純愛目指してるんで部長とはこのお話中結ばれることはありません。残念!!