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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―時には昔の話を― 運命共同体
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家族

 古くから、冒険者ギルドに所属するパーティーは、登録の際にメンバーの情報を控えておくことが、義務ともいえるほど習慣化している。

 「パーティー名簿」は、元々冒険者がパーティーを組む際にギルドの提出する名簿の控えの意味合いが強かったが(そもそも少人数の集まりだと、名前を書くまでもなくお互いの顔と名前は把握できるので……)、いつしか傭兵団に匹敵する規模のパーティーができるようになると、名簿はパーティーの結束を象徴するものとなっていき、その過程で様々な風習が生まれることになった。


「パーティー名簿っていうのはね、そのパーティーに所属していることを証明するものなんだ。

出来たばかりの小さいパーティーとかだと、結束を高めるために書くっていう意味合いが強いね」

「へぇ~、そうなんだ! 何かルールとかはあるの?」

「ええっと……確か名前と性別さえ書いてあれば、あとは何を書いても自由だったはず。それでいいんですよね、マスター」

「ま、『パーティー名簿』の体裁はそれだけありゃ十分だけど、それ以上のルールはパーティーによって違うんだよ」


 5人の中で唯一、パーティー名簿に名前を書いたことがあるアーシェラが、リーズたちにパーティー名簿とは何なのかを説明し始めた。

 彼の言う通り、名前と性別さえ書けば一応名簿としての体裁は整う。

 しかし、パーティーによっては職業だったり出身地だったり来歴を書くこともあり、何を書くかが集団によって違うのもパーティー名簿の醍醐味でもある。


「エノーとロジオンは、そーゆーの書いてないの?

「あー、そういや俺たちは登録だけしたらとっとと冒険に出ちまったな…………」

「そんな風習があるなんて、俺も初めて知ったぞ」

「あっはっは! あんたたちは最低限の説明も聞かないで飛び出していったわけね! そんなことしてたから、失敗するわけよっ!」

「返す言葉もねぇ……知識としては知ってたんだが、あわててて……」

「とにかく冒険すればいいって考えていた俺も甘かった」


 最低限の名簿の作成も行わないほど準備不足のまま冒険に出てしまったエノーとロジオンは、改めて自分たちの迂闊さを恥じたようだった。

 名簿を書かない程度では死にはしないだろうが、パーティーの団結意識が低いとろくなことにならない。それゆえ、しっかりしたパーティーほどメンバーの団結の為には労力を惜しむことはない。

 かつてアーシェラが所属していた『老騎士の鉤槍』くらい大規模になると、見習い期間を経て正式な仲間として認められなければ名前を書けないくらい神聖視されていることもある。


「冒険者パーティーは、言ってみりゃ、第二の家族のようなもんさ。名簿に名前を書くということは、お互いを家族だと認め合うようなものなんだ。だから、一度名前を書いたらたとえ死んでも、残さなきゃならない。だから、あまり気軽に考えて書かないでおくれよっ」

「家族……か」


 家族――という言葉を聞いて、リーズは少し思うところがあった。

 何しろリーズは、生みの親に全くと言っていいほど関心を持たれなかったせいで、家出同然に冒険者を志したのだ。それゆえ、冒険者パーティーと言う新しい家族を作るのにやや不安があると同時に、今度こそ自分の居場所を作り上げたいという思いもあった。


 しかし、冒険者とは命懸けで戦う危険な境遇であり、パーティーを組むということはすなわち、他人の手を引いて危地に赴くことに他ならない。

 ギルドマスターの言う通り、一度パーティーの仲間と認めたからには、簡単に除名することはできなくなる。それはまるで…………良くも悪くも「血縁」でつながる家族のように、軽々しく断ち切ることができない重いつながりだ。


(それでもリーズは、みんなと冒険がしたいっ!)


 リーズは決意した。

 そして、まずはアーシェラに向かって、輝かんばかりの笑顔で――――


「ねぇアーシェラっ! リーズと家族になってほしいのっ! いいでしょ?」

「ふえっ!?」


 リーズの言葉に、アーシェラは心臓が止まりそうなくらい驚き、瞬間沸騰機のようにボンッと顔を真っ赤にした。


「あれ? 何か言い方が変だった?」

「え、ええと……つまり、正式にパーティーを組みたいってこと……で、いいんだよね?」

「そうだよっ! それともアーシェラは……やっぱりリーズじゃ頼りない?」

「いやいやいや、そんなことはないよ! ただちょっとびっくりしたっていうか…………」


 言ったリーズ本人は、なぜアーシェラが慌てているのかわからないようだ。

 なぜかいきなり恋人が告白するような雰囲気を醸し出す二人に、残りのメンバーが「自分を忘れては困る」と絡んできた。


「ちょいとちょいと、何いきなりお熱いことしてるのっ! お姉さんも仲間外れにしないでほしいなぁ」

「そうだそうだ! お、俺だって家族になりたいぞ!」

「俺も俺も! アーシェラばっかりずるいぞ!」

「えっへへ~、大丈夫大丈夫っ! ツィーテンもエノーもロジオンも、これからみんな一つの家族なんだからっ!」


 こうして、リーズをはじめとする5人は、改めてパーティーを結成することを宣言し、マスターが用意してくれた羊皮紙を「パーティー名簿」として、名前を連ねることを決めた。

 この時、誰がリーダーで誰がどの順番を書くかでリーズとエノーとロジオンが若干揉めていたが、自分は最後でいいと言って順番争いに加わらなかったアーシェラは、落ち着いた風を装いながら、胸の高鳴りを必死に鎮めようとしていた。


(あー……びっくりした。いきなり家族になってほしいだなんて…………)


 もちろん、リーズが出会ったばかりのアーシェラに告白するはずがない。

 彼は、一瞬でもそのような勘違いをした自分を、心の中で大きく恥じたが――――それでも、アーシェラの中でリーズがより魅力的に映ったこともまた事実だ。


(でも、またこんな形で、居場所を得ることができた。今までは何もできないまますべてを失ってきた…………

だから今度は、僕自身の力で守っていかなくちゃ)


 アーシェラがそう決意を新たにしたちょうどその時、ツィーテンが名簿に名前を書き終えて、彼にペンを渡してきた。


「おやおや、どうしたのアーシェラ、ぼーっとしちゃってさ。そんなにアレが効いたのかな?」

「あ、ああ……ごめん、ちょっと考え事をしてたんだ。

せっかくパーティーを新しく結成したんだから、手料理を作って盛大に盛り上がろうかと思ってね」

「アーシェラって料理を作れるの!? せっかくだから、リーズはお肉がたくさん食べたいなっ!」

「ふふっ……明日からたくさん頑張らなきゃいけないから、腕によりをかけなきゃね。マスター、後で調理場を貸してください」


 その後、メンバー名簿を5人の名前で埋めると、パーティー結成を祝う食事会が開催された。

 エノーとロジオンがたくさん食べるのではないかと予想していたものの、一番小さな体のリーズがとんでもない量を食べることにアーシェラはかなり驚いていたが…………それでも、借りた厨房で忙しく料理をこなす彼の顔には、悲しそうな雰囲気はもうひとかけらも見えなかった。


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