能力
アーシェラが策を披露した後、彼はリーズを伴ってどこかへ赴いていたが、その日の夕方遅くになってようやく二人揃って帰ってきた。
別の方で動いていて先に帰ってきていたツィーテンと、エノーロジオンは、リーズたちが無事帰ってきたことで安堵のため息をついた。
「遅かったな、やっと帰ってきたか…………首尾はどうだった」
「これでも意外とスムーズにいったよ。本当なら3日くらい交渉するかと思ったけど、これもリーズの誠実さのおかげかもね」
「う~ん…………本当にこれでいいのかなぁ?」
「気にすることはないって! どうせ無理難題を言ってきたのは向こうの方だったんだから!」
帰ってきたアーシェラはそれなりにやり遂げたような表情だったが、リーズはどうも不服な様だった。
なぜなら、リーズとアーシェラは、つい先ほどまで町の西にある別の冒険者ギルドに赴き、そこにいる別のパーティーにいくつかの依頼を委託してきたからだ。つまり、完全な他力本願である。
「ぶしつけなお願いで申し訳ありません。ですが、これだけの依頼をこなさなければ、この子の身が危ないんです」
「リーズのことよりも……ギルドマスターが可哀そうなんですっ! どうか、力を貸してください!」
「なるほど、事情は分かりました。もう少し詳しく聞かせていただけますか?」
「自業自得とも言えなくもないが…………それにしたって、こんな何も知らなそうな冒険者を餌にするとは、許せんな」
「『老騎士の鉤槍』には我らも世話になった。内容次第では協力しよう」
普通の無名パーティーが頼み込んでも聞く耳を持ってくれるパーティーはあまりいなかっただろうが………アーシェラは腐っても元『老騎士の鉤槍』の一員で、パーティーの雑用をこなす過程で、ある程度ほかのギルドとも交流があったことで交渉のテーブルに持ってくることができたのである。
それに、リーズ自身もひたすら低姿勢で正直にお願いしたのも、決め手の一つだろう。
リーズのような美しい少女に頭を下げられては、百戦錬磨の冒険者たちも無碍にするわけにはいかなかった。
こうして、受けた依頼のうち、リーズたち初心者ではどうにもならないものや、遠くに行かなければならないものは、その殆どは別のパーティーがやってくれることになった。
自分の力ではどうしようもできず、冒険をする前にいくつかの依頼を投げ出してしまったことにリーズは不満を感じていたが…………流石に実力的に無理なものは無理と割り切るほかない。
リーズだけでなく、エノーとロジオンも「これでいいのだろうか」と割り切れない様子だったが、ツィーテンは開き直って依頼人のせいにしたようだった。
「まぁ、あの人は別に「ほかのギルドに頼んじゃダメ」とは言っていなかったからね。それで、そっちの方は?」
「私たちの方もいい感じだよ。この子たちも意外と頼りになったしね」
一方でツィーテンは、エノーとロジオンを連れて『老騎士の鉤槍』がギルドに残した資産の売却と、冒険の為の物資調達に行っていた。
全滅してメンバーの大半がいなくなったとはいえ、パーティーが使っていた物品はそれなりにたくさん残っていたため、使えるものはそのまま自分たちが使い、いらないものは市場で売りさばいてきた。
高価なもののほとんどは、パーティー解散の際に元メンバーたちが退職金代わりに持って行ってしまったが、持って行っても使い道がないようなものやかさばるものは、まだ倉庫の中にたくさん眠っていたので、それらを売って資金に変え、新パーティーの為の資金に充てたのだった。
「ロジオン君はさすが商人の息子だけあるわ。交渉が上手いのなんの。私だったらもっと安値で買い叩かれてたにちがいないわね」
「そ、そうか……なんだか少し照れ臭いな」
「それにエノー君も、いい武器選びのセンスしてたじゃん! ほらリーズ、あなたの剣も買ってきたわよっ」
「いやー、それほどでも……」
アーシェラがツィーテンと二人を組ませたのは、まだあまり信用がなかったエノーとロジオンが、事の重大さに恐れをなして逃亡するのを防ぐためだった。
けれども、ロジオンは商人生まれの才覚を生かして道具をそれなりに高く売って安く買ってきてくれたし、エノーは意外にも武器の細かい良し悪しがわかるらしく、長持ちしそうな装備を調達するのに役立った。
単なる冒険初心者だと思っていたツィーテンも、彼らの隠れた才能には驚いたようだった。
「おやおや、5人とも今日会ったばかりなのに、ずいぶんと仲良くなったじゃぁないか」
「えっへへ~! リーズたちはもう冒険者パーティーだもんねっ! マスターの為にも頑張るから、期待してねっ!」
「あ…………そういえば、俺たちも仲間ってことで……いいんだよな?」
「ドタバタしてて完全に巻き込まれたな。ま、いいや、リーズたちと一緒の方が楽しそうだし、何より冒険も楽になる」
もはやギルドをたたむだけだと思っていたマスターは、新たなパーティーが誕生したことが嬉しいようで、先ほどまで不安そうだった顔もすっかり穏やかになっていた。
エノーとロジオンも「協力する」とは一言も言っていないのだが、騒動に巻き込まれているうちにすっかりリーズたちとの仲間意識を持っているようだ。
のちに勇者となるリーズの圧倒的カリスマは、既にこのころから片鱗を現していたらしい。
「さて、あんたたち5人は正式にパーティーを組むんだね? だったら、まずはパーティー名簿を作るところから始めようかね」
「パーティー名簿?」
リーズたちをはじめとする5人でパーティーを組むことが正式に決まると、マスターはリーズに対して「パーティー名簿」を書くことを提案してきた。




