論破
リーズは今まで仲間たちに対してきついことを言うことはほとんどなかったし、仲間を叱ったり怒ったりしたこともない。
それはリーズがやさしくて仲間思いだったというのもあるが、彼女自身が他人を怒ることができるほど偉い人間ではないと無意識に思っていたということもある。
そしてなにより――――嫌だったのだ。
「仲間に嫌われる」ということが、リーズが何よりも恐れていたことだった。
(仲間の誰にも嫌われたくなかった……だからリーズは、みんなに強く言えなかった。間違っていることはきちんと間違っているって言えないなら、リーズはやっぱり勇者失格かもね)
敵に対してだけ厳しく、身内に対してはとことん甘い。
仲間たちにしてみれば嬉しいかもしれないが、それでは駄目だということはアーシェラから何度も学んだ。
だからリーズは……かつてずっと共に過ごした仲間たちに問いかける。
「ねえ、王国にいるみんな。みんなは、王国とそれ以外の国だと、どっちの方が豊かで恵まれていると思う?」
リーズからの質問に元一軍メンバーたちは意図がわからずに目を点にするが、答えは考えるまでもない。
「それはもちろん王国ですよ勇者様!」
「そうですとも、国力も圧倒的で、王宮は豪華で、人々はみな幸せに暮らしています!」
「これも全て勇者様の威光によるものです」
彼らは口々に、王国のすばらしさを説き、何とかリーズに帰ってきてもらおうとする。
だが、リーズはそれらの回答に特に興味を示すことなく、次の質問を投げかけた。
「じゃあ、王国のみんなは……こっち側にいるみんなよりも、自分たちの方が優秀だって思ってる?」
『!?』
リーズのかなり踏み込んだ質問に、今度は元二軍メンバーたちに緊張が走る。
彼女らしからぬ、仲間の対立を煽るかのような質問に、元二軍メンバーたちもリーズの意図を測りかねていた。
そして、王国側の仲間たちもやはり考えるまでもないのか、すぐに質問に対して自信満々な回答を返してきた。
「勿論私たちの方です! 私たちはあの魔神王と直接戦ったのですから、勇者様もよくご存じのはず!」
「考えるまでもありません、勇者様! 今ここにいる我々だけで、そちらにいる全員に勝てる自信があります! ……エノーと聖女様は除きますが」
「そうですとも、勇者様には弱い仲間は必要ありません!」
ここぞとばかりに自分たちの優秀さを掲げ、当然のようにかつて仲間たちだったものを見下す元一軍メンバーたち。
勇者パーティーを結成した時は、表面上だったかもしれないとはいえ、全員分け隔てなく仲が良かったというのに…………彼らはすっかり王国の宮廷文化に取り込まれ、常にマウント合戦を繰り広げる中で、自然と他者を見下す習性が身についてしまったのだろう。
げに恐ろしきは王国社会の闇、魔神王を倒した英雄たちですら、この悪弊から逃れることはできず、栄華と快楽の中でまどろみ、呑み込まれていったのだ。
そんな彼らに対し……リーズは強烈な一撃を放つ。
「そうなんだ。恵まれた王国に、優秀な人たちがいる。それだったら、リーズがいなくても平気だよね♪」
『!!??』
「だってそうでしょ? こっち側にいるみんな……シェラも、ロジオンも、今までずっとリーズと離れ離れになっていたのに、自分たちの新しい仕事と使命を背負って、あの戦いで荒れた世界を復興しているんだ。すごく大変で、辛いことも多いのに、しっかり自分の力で成し遂げているのを、リーズはしっかりこの目で見てきたの。それに比べて…………王国にいるみんなはもっと優秀で、国も恵まれているなら、きっとリーズがいなくてもやっていけると思う。ううん、もうリーズが勇者である必要なんてないんだから、リーズはシェラと一緒に暫くはゆっくり幸せに暮らしたいの。優しい皆なら、許してくれるよね♪」
元一軍メンバーがあまりの衝撃に唖然とし、二の句が継げない間も、リーズは一気にまくしたてるように最後まで言葉を言い切ると、隣にいたアーシェラの腰にぎゅっと強く抱き着いた。
(シェラ……リーズも、やればできるんだよ)
(よくできたね、リーズ。辛いかもしれないけど、これも彼らの目を覚まさせるために必要なことだ)
見せつけるかのように抱き着いたリーズ。
なんだかんだ言って、ここまで強い非難をすることは彼女にとって精神的な負担が強いようで、アーシェラにピッタリ寄り添うのも、どちらかと言えば心が非常に不安だったからという面も大きいかもしれない。
その一方で、まさかリーズからこのようなことを言われることを微塵も考えていなかった元一軍メンバーたちは、少しの間静まり返っていたが、やがて陣営全体がパニックに陥った。
「ゆ、勇者様がなぜあんなことを!? し、信じられない!?」
「どうする…………素直に王国の惨状を訴えて、勇者様に戻ってもらうしか」
「クソッ誰だ! 王国は素晴らしいだなんていった奴は! 完全に逆効果じゃないか!?」
「け……けど、勇者様のいことが本当なら、俺たちは勇者様がいない間何もできなかった怠け者の烙印を押されるぞ!?」
「それは困るわ! 今の王国には勇者様の御力がどうしても必要で……!」
「やはり勇者様は何者かに洗脳されているのでは!? す、すぐに力づくでも連れ戻して差し上げて……」
「無茶を言うな! 相手が勇者様じゃ、俺たちが束になっても敵わないぞ!」
「グラントさんからも、勇者様に何か言ってやってください!」
「…………」
これだけ大勢の有能な人間がいても、今のリーズの心に届くような言葉を考え付く者は誰もいなかった。
元々戦うために集められた人間の集団故、弁論の能力はからっきしだったのである。
しばらく話し合っても結論らしい結論が出せず、むしろ混迷を深める元一軍メンバーたちの中から、この状況に業を煮やした一人の男が、仲間の誰にも相談することなく彼らの前に立った。




