罪
「落ち着いたかいリーズ」
「うん……ごめんねシェラ、いきなり泣いちゃって。リーズ、なんだか感情が抑えられなくって……」
「それは仕方がないよ、今のリーズは体も精神も不安定な時期だ。今のリーズには酷な現実だったんだろう」
二軍メンバーたちに囲まれながら、リーズはアーシェラの身体にぴったりと寄り添って頭を撫でてもらっていた。
その光景を見ている人々が、あれがかつての勇者かと落胆することはない。
むしろ、このように愛し合う二人がお互いを気遣っている姿こそ、一番親善なのだと感じている。
そこに、エノーとロザリンデが声をかけてきた。
「災難だったなリーズ。あんな風に言われるのは災難だっただろう……俺たちもしばらく国を離れていたが、どうやら余計に悪化したようだ」
「もしつらいようでしたら、今後はリーズさんの代わりに私が矢面に立ってもいいのですよ。王国を見限ったという意味では、私も同罪ですから」
「ううん……大丈夫だよ、リーズはきっと大丈夫。こうなっちゃったのは、全部リーズの責任だから……リーズが何とかしないといけないんだ」
「リーズ……」
アーシェラもさすがにリーズの言葉を否定し難かった。
戦いが終わった後、リーズがきちんと一軍メンバーたちを統率し、二軍メンバーとの格差を作らないよう強く言っていれば、ここまで話はこじれなかったかもしれない。
(けどそれはあくまで結果論だ。リーズだって勇者としてやらなきゃならないことがたくさんあって、それを王国が利用した以上、リーズだけの責任にするのは酷だ)
アーシェラはリーズを再びぎゅっと強く抱きしめた。
「あ……シェラ」
「リーズが勇者として責任を感じるのは間違っていないし、勇者としてはそうあるべきなんだと思う。でも、今はあまり思いつめないでほしい。きっとこの後も、君は辛い思いをすることになる。そうなったら、リーズの心にもよくないし、何よりリーズの辛い顔を見るのは僕が一番苦しい。だから……」
「そうだな、アーシェラの言う通りだ」
アーシェラが言いかけたところで、檻を見張っていたプロドロモウが声をかけてきた。
「リーズさん、この際だから俺も言っておくことがある。かつて俺は、いや、ここにいる何人かは一時ではあるが、あなたを恨んでいたことがあった」
「えっ……」
「中心メンバーだけを連れて王国に行ってしまって、一緒に戦った俺たちのことはきれいさっぱり忘れて……そんなふうに思っていたのを変えてくれたのが、アーシェラだった。その時アーシェラはこういっていた……勇者もまた、王国のしがらみに絡めとられた被害者だと」
「あはは、確かにそう言ったね。僕はただ、みんなにリーズのことを悪く思ってほしくないだけだったけど」
「そうだろうな。けど、さっき檻の前でアイネさんが話しているのを聞いて、ふと感じたんだ。檻の中にいるあいつらも、リーズさんと同じ……王国の毒に当てられた犠牲者でもあるのだろうなと。そして……俺たちもまた、奴らと同じわだちを踏もうとしている。なぜなら、俺たちも心の底では、あいつらのことを仲間と見ていなかったんだからな」
『!!』
プロドロモウの言葉に、その場にいた二軍メンバーたちはざわついた。
確かに彼らは、王国に行った勇者パーティーの連中は自分たちのことを仲間として見ていないと公言して憚らなかったが、裏を返せば自分たちもまた彼らを仲間扱いしていない……そんな単純なことすらわからなかった。
だが、その言葉が最も効いたのは――――
「ぐ……そうだ、その通りだ。リーズのためとはいえ、仲間たちの団結のために、王国への敵愾心を煽ったのは、ほかでもないこの僕だ!」
「シェラ……?」
「待て待てアーシェラ、なんでお前がそれほどまでに責任を感じることがある!」
「そ、そうですよ! 責任と言うのであれば、私だって……」
アーシェラは今になって、自分がとんでもないことをしてしまったと思い詰めた。
二軍メンバーたちの為、そして何よりリーズの為とは言え、アーシェラは仲間たちの恨みを王国そのものへと向けさせ、それを彼らの成功の原動力に変えることに成功した。
しかしながら、それは二軍メンバーたちと王国の臣下となった一軍メンバーとの分断を決定づけてしまい、いざこうして王国ともめ事が起きた際に、一気にお互いが相争う状況へと発展してしまう恐れがあった。
「あの頃の僕は完全に自棄になっていた……すべてが終わったら、僕は世界の果てに逃げて、すべての関わりを断って引き籠って、それで全部終わりだと思っていた。けど、それが巡り巡って、リーズを悲しませる結果になるなんて」
「そんな、それはシェラのせいじゃないよ! リーズがもっとちゃんとしていれば、こんなことになんて!」
リーズとアーシェラを中心に、二軍メンバーたちの間に気まずい雰囲気が流れる。
リーズはただ、仲間たちと一緒に楽しんで、みんなで仲良くしたいだけだったのに、気が付けば様々な人々の思惑が複雑に絡み合って、仲間同士で殺し合い寸前にまで発展してしまった。
一体どこで間違えたのか……そして、自分たちが心の中で仲間を仲間と思っていないと知ってしまった今、果たしてかつての仲間たちを説得して、勇者パーティーのきずなを取り戻すことができるのか?
急速に不安が増していく中、一人の空気が読めない人物が呆れたように深くため息をついた。
「は~ぁ、ば~~っかじゃないの?」




