傲慢
反乱軍の本拠地だった要塞は、元勇者パーティーらの猛攻を前に、わずか半日で陥落した。
超威力の魔法が城壁や城門をゴミ屑のように吹き飛ばし、歴戦の強者が振るう剣や槍は、敵兵を虫けらのように切り捨てた。
勇者リーズが不在とはいえ、この数万倍も強い敵と戦った彼らにとって、人間の要塞など何の障害にもならなかったということだ。
「おーいグラント、こっちだ。反乱を起こした領主は、俺たちにつかまる前に毒酒を飲んで自害したみたいだぜ」
「そうか……彼らが何か手掛かりを持っていると思っていたのだがな。降伏した兵士は殺してはいないな? 歯向かったとはいえ、彼らもまた王国の民だ。領主にそそのかされただけであれば、重い罪にはならんだろう」
「へーへー、言われた通り、武器を捨てさせるだけ殺しはしないよ。あんな奴らを斬っても何の得にもならんし、リーズ様の名に傷がつくからな」
グラントは勇者パーティーメンバー数人を引き連れて、要塞陥落後の視察に赴いていた。
反乱を起こした領主は、理由を問いただす前に服毒自殺してしまったようだが、もう抵抗する気のない兵士たちは殺すことなく武装解除にとどめた。
数日前の彼らだったら、血気にはやって降伏する兵士まで殺しかねなかったが、ライラをはじめとする急進派のメンバーを強制的に王都に帰し、その後も規律を徹底させたためか、1軍メンバーたちも随分と大人しくなった。
それと「狼藉行為は勇者リーズと勇者パーティーの名を穢す」というグラントの注意喚起が効いてきた、というのもあるだろう。
彼らが村や町に赴けば、魔神王討伐戦の頃のようにもろ手を挙げて歓迎されるものとばかり思っていたが、人々は彼らの姿を見た瞬間、驚きや恐怖で震えており、まるで自分たちが悪者になったかのようないたたまれない思いをしたのだった。
「ねぇ、グラントさん、もう反乱の首謀者をやっつけたんだから、これで終わりでよくない? もう王都に帰りましょうよ。久しぶりにまともな食事が食べたいわ」
「ぜいたくを言うな。勇者パーティーだったころと今は違うと、何度言わせれば分かる。それに、反乱の鎮圧は魔神王との戦いの時とは違う。敵の大将を倒して終わりというわけにはいかん。法に則り、関係者を正しく処罰し、人心を安定させてようやく終わる。少なくとも1ヶ月は帰れないと思え」
「はぁ……最初は楽に終わる仕事だと思ったんだけどなぁ。グラントにこき使われるわ、平民たちには嫌われるわ、碌なことがない。もっとこう、ぱぁっと派手な活躍ができないものか」
リーズと共に魔神王討伐戦で活躍していた頃は、誰もが使命感に溢れていたというのに…………王国で飼いならされ、毎日のように絶大な賞賛を浴びて、豪華な食事をとっているうちに、彼らはすっかり牙を抜かれた猛獣のようになってしまったようだ。
それでも、名誉欲や権力欲は衰えないのが人間の悲しいところ。
暇をしていたメンバーの一部が、要塞から川の向こう側を見たところ、見慣れない一団が野営地を築いているのが見えた。
こちらに攻撃する意図はなさそうだが、もし謎の一団が敵であれば、元勇者パーティーとして放っておくわけにはいかない。
「川の向こうを見て、あんなところに軍隊がいるわ。まさか反乱軍の増援かしら」
「どうする? まずはグラントに知らせるか?」
「…………いいや、いちいちグラントに判断を委ねたら、ほかの奴らに先を越されるかもしれない。ちょうどいい、俺たちだけであの軍を倒そうじゃないか」
「でも大丈夫かな? 勝手な行動するなって言われたばかりだし、何より私たちだけじゃさすがに少なすぎない?」
「俺はかつて冒険者だった。たった数人で、あれくらいの数の魔獣を相手に戦って勝利したこともある。ここにいるメンバーなら、ちょうど長所と短所を補える。十分勝機はあるし、まずくなったら応援を呼べばいい」
「『苦難を越えねば宝を得られず』という格言もある。今がその時だ」
こうして、5人の男女がグラントに何も知らせぬまま、ひっそりと要塞の裏手から川の方へと向かった。
彼らはこの川が王国と諸外国との国境になっていることを知らないため、浅瀬を見つけるや否や、何の躊躇もなくじゃぶじゃぶと川を渡ってしまう。
すると――――
「おーい、そこの君たちー。もしかして、元勇者パーティーかな? どこかで見覚えがある気がするんだよねー」
飛竜にまたがったシェマが、上空から5人に対して声をかけてきた。




