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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―王国情勢Ⅵ― 王国騒乱記
259/272

隠蔽体質

「……つまり、勇者の父の身柄の確保に失敗しただけでなく、貴重な人員と多くの手駒を失ったのじゃな」

「はい……」

「はいじゃないが」


 邪神教団の隠れ家で部下から報告を受けたコドリアは、深く溜息をついて天を仰いだ。

 今までいろいろとうまくいかないときもあったが、今回ほど嘘であってほしいと思ったことはなかった。

 なにしろ、つい先日ジョルジュから激詰めされたばかりだというのに、この上さらなる失態を重ねたとなれば、最悪今回の計画は中止となってしまいかねない。

 そうなったら、もはや自分たちの宿願を果たすことは未来永劫叶わないだろう。


「い、いかがしますか……?」

「今回の件はジョルジュ様のお耳に入らぬようにせよ。幸い、ジョルジュ様は最後の仕上げのために儀式の間に籠っておられる。こちらから報告せぬ限りはしれらはせぬじゃろう。万が一聞かれたらごまかせ」

「誤魔化すと言われてもどうやって……」

「それぐらい自分で考えぬか! 何としても誤魔化せ、宥めすかせるのじゃ!」


 コドリアは胃が痛くなるのを感じながらも、部下たちに緘口令を敷かせた。

 それから、この先の計画に狂いが出ないかどうかを再度検討し始めた。


「アイヒマンを失ったのは痛い……奴はわれらの中でも特異な能力の持ち主であったからな。あのリシャールとかいう貴族の制御が難しくなるやもしれん。奴には下手なことをさせず、あの盲目的な恋人と過ごしてもらうこととしよう」


 そのようなことをぶつぶつ呟いていると、別の部下がコドリアのもとに報告に来た。


「コドリア様、お喜びください。王国大舞踏会は明日予定通り行われるほか、王国各地に散らばっていた大小の貴族の大半が集まりました。彼らは地方の反乱には興味がないようで、想定以上の人数を生贄にできることが期待できます」

「そうかそうか! どれどれ……最終的にはこれだけの人間が集まるか。誰もかれもが、庶民から搾取を繰り返し、恨みをため込んだ者たちじゃからな、触媒としてはうってつけじゃわい」


 先ほどとは打って変わって、予定が思っていた以上に順調に進んだという報告を受けて、邪神教団を束ねるこの老人はまるで若返ったように大いに喜んだ。


「くくく……これだけ強力な贄が揃えば、たとえ勇者が来ようともどうにもなるまい。あとはジョルジュ様がすべてを終わらせる。われらの宿願はもうすぐそこにあるぞ」

「「おおっ!!」」


 その場にいた数少ない邪神教団のメンバーたちも、揃って満面の笑みを浮かべた。

 モズリーやアイヒマンをはじめ、数少ない残党の中でもとりわけ有能な切り札的存在はもうほとんど残っていないが、それでもこうして計画が完了を待つのみというところまで来ることができたのだから感慨も一入だ。


「では者ども、我らは最後の仕上げに入る。最後まで抜かるでないぞ」


 こうして、邪神教団は最後の仕上げを行うべく各人が暗躍を開始した。


 ×××


 邪神教団という王国にとって最悪の敵が王宮内で暗躍していることなどつゆ知らず、第二王子セザールと彼を取り巻く貴族たちは今日も今日とて享楽に耽っていた。


「セザール殿下、明日はいよいよ殿下がこの世の支配者と認められる決定的な日になりますな」

「ああ……ずいぶんと待たされたが、この日のことを思うと待つのも悪くないと思えてくるものだ。ははは、何しろエノーと聖女が勇者を見つけてくれたのだからな、奴らの献身にも少しは報いてやらねばなるまい。そうだな、エノーはあの使えない戦術士の代わりに将軍に任命し、この国に従わない弱小国を蹂躙させる権利をくれてやろう。ロザリンデには勇者の次の序列として俺の妻に迎えてやろうではないか」

「それがよろしいかと存じます!」


 セザールがいつも以上に上機嫌なのにはいろいろな理由があった。


 まず、セザールを持ち上げている貴族たちから勇者リーズを発見したという知らせがあり、エノーとロザリンデが10日以内に王宮に連れてくることを確約した。

 その貴族たちもエノーから手紙とともに勇者が来るという証拠を渡されており、勇者の帰還はほぼ確実となった。

 そして、明日行われる予定の大舞踏会で、とうとう現国王からセザールに正式に次期国王に指名することが通達され、それと同時に勇者と正式に結婚することも発表される。

 このことを王国各地にいる貴族たちに通達した結果、もともと第二王子派だった貴族はもとより、今まで他の王子の派閥だった貴族や日和見していた貴族まで、ほぼ全員が舞踏会に参加することになった。

 次期国王が決まった以上、もはやほかの王子たちに気兼ねする必要もないし、ここで媚を売っておかねば自らの地位が危ういからだ。

 こうして、セザールの下には王国に存在する無数の貴族たちから、次期国王となる彼を称える親書が山のように積み上がったことで、いよいよセザールは自分が世界を支配するという実感が湧いてくるのだった。

 だが、その一方で――――


「ところで、ずいぶん前から勇者の父を連れてこいと命じていたはずだが、その件はどうなった?」

「あっ、えっと……それはその」

「勇者の父は勇者を直接出迎えに行くと言って王都を飛び出しましたが、すぐに帰ってくることでしょう」

「ふん、どうもあのオヤジは俺に対して何やら気に入らないと思っているらしい。脳筋な軍人は頭が固くていかん。まあ、あんなのでも外戚になるわけだから、少しは飴をやらないとな」

(ほっ……)


 リーズの父親について問いただされた貴族たちは、苦し紛れながらも何とかごまかすことに成功した。


(まさか勇者様の父親が何者かに攫われ行方不明……しかも勇者様の生家が何者かの攻撃で全焼したなど、報告できるわけがない)


 第二王子派の貴族たちも一見順風満帆のように見えるが、実際のところいくつも不安要素があった。

 そのうちの一つが、リーズの父フェリクスが行方不明になった事件で、しかもその事件には第三王子派の関与が疑われている。

 また、ここ最近どうも第三王子派閥の人間があちらこちらで何かを企んでいるような動きがあり、次期国王の就任披露となる大舞踏会を前に対処が難しい不安要素がいくつも存在した。


 しかし、そのようなことは決してこの王子の耳に入れてはならない。

 自分が世界の中心となる一世一代の晴れ舞台を前に、都合の悪いことを知らせてしまえば、自分たちにどんな災厄が降り注ぐのか想像することすら恐ろしい。


(大丈夫……だよな?)

(警備は万全のはずだ。万が一にも第三王子派閥の貴族どもが何かしでかしても、対応する準備はできている)

(いざとなったら第三王子にはこっそりこの世から退場してもらうほかあるまい)


 こうして、第二王子派閥もまたセザールに肝心なことを隠したまま、明日の大舞踏会まで彼のご機嫌を取り続けるのだった。

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