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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―白虎の月2日― 旅立ちの日
236/274

「村長さん、こんにちはーっ!」

「今日もお勉強しに来ました!」


「おっと、もうそんな時間か」


 アーシェラがマリーシアに本を勧めていた直後、外から聞きなれた声が聞こえてきた。フィリルをはじめ、村の子供たちが勉強を教わりにやってくる時間になっていたのだ。

 いつも通り扉を開けて子供たちを招き入れようと、アーシェラが扉に近づいたところ――――


「ソンチョーさーん!! アソボー!!」

「あでっ!?」

「シェラ!?」


 扉が勢いよく開いたせいで、アーシェラは戸板に思いきり顔をぶつけて、その場に倒れこんでしまう。

 どうやら今日は異国少女イムセティが面白がってついてきたらしく、ノックもせずに扉を開けたようだ。


「大丈夫、シェラ?」

「あ、ああ、うん……おでこを思い切りぶつけてちょっと驚いただけだから」

「セティちゃん、だめだよっ! 扉を開けるときは向こうに人がいるか確認しなきゃ!」

「あィ……ゴメン」


 珍しくリーズがイムセティに「めっ」っと叱ると、イムセティも自分が悪いことをしたのが分かったのか、すぐにごめんなさいした。


「エエト、ノック……? だっけ? しないといけないってゆわれてるノ、何でかやっとわかった。そこのオネイチャンにもよく言われた」

「もう、だから言ったのに……扉を開く前にちゃんと叩いて鳴らしなさいって」


 どうもイムセティはノック忘れの常習犯らしく、あっちこっちの扉を開けるのも、特に気にせずやってしまうのを、マリーシアが何度か咎めたことがあるらしい。


(とはいえ、何でしなきゃダメかを教えなかった私もよくなかったかもしれません……)


 以前アーシェラから指摘された通り、常識を教えるのだとしても、何のためにするのかまで教えなければ意味がないということを、マリーシアは改めて痛感した。


「っていうかセティちゃんって確か、族長さんの娘さんだったよね」

「ソダヨ」

「お父さんやお母さんから、そういこと言われなかったの?」

「だって、セティの島のおうち、板がないノ」

「「板がない?」」


 リーズや、各々席に着こうとしていた子供たちは、イムセティの言葉に思わず耳を疑った。


「え、板がないってことは、こーゆードアとかついてないの!?」

「うん。家の入口に板がツイテルの、初めてミタ! あと、目に見えない板も初めてミタ!」

「それでこの前、うちのガラス割っちゃったんです……」


 一緒に住んでいるミーナが補足してくれたが、そもそもガラスを見るのも初めてだったらしく、家に来てすぐに窓ガラスを不用意に触って割ってしまい、けがをしたこともあったようだ。

 まあ、それでもなお興味深そうに触り続けようとしたのは、さすがの好奇心の塊と言おうか…………


「じゃ、じゃあ、セティちゃんの国のおうちは、扉もなければ窓もなくて……それって開けっ放し?」

「ソーダヨ」

「寒くないの? 風とか雨とかは?」

「サムイってなに?」

「そういえばヴォイテクが、この子は常夏の島から来たって言ってたっけ。なるほど、雨さえしのげれば、家としては十分なんだね。ちょっと想像がつかないけど」

「ウチの入口はねー! こゆーふーに、大きな布をつけておくの」

「リーズ……なんかセティちゃんのお家、見てみたくなってきたかも」


 イムセティの故郷、はるか南の島々に住む異民族たちは、一年中温暖な気候と豊富に実る食糧や水産物のおかげで、寒さ対策の必要もなければ泥棒対策すらも必要ないらしい。

 たとえ泥棒しても、狭い島の中の顔見知り同士、すぐにばれてしまうということもある。

 それゆえ家屋なども暑さ対策のほうがむしろ大事で、基本的にドアや窓はなく開けっ放し。しいて言えば、台風が来る時だけは一時的に板でふさぐなどするそうだが、強い台風が来ると家のことは潔くあきらめて、島の中心の洞窟に避難するらしい。


「なるほどなるほど……実に興味深いね。そうだ、今日はせっかくだからイムセティの国の文化を勉強する会にしようか!」

「いいね! リーズもそれ賛成っ! ねぇセティちゃん、セティちゃんの故郷についていろいろ知りたいから、リーズたちに教えてくれないかな?」

「いいよーっ!」


 こうして、この日は普段の勉強はいったんお休みして、異文化について学ぶ会にすることにした。

 が、その前に――――


「あのー、では私はもう帰ったほうがいいでしょうか?」

「まあまあ、そんなこと言わないでマリーシアちゃん! せっかくだし、一緒にお勉強しようよ! マリーシアちゃんだって気になるでしょ、海の向こうの違う国のお話!」

「ま、まあ、勇者様がそうおっしゃるのであれば」


 マリーシアはもう自分の時間は終わったかと思い帰ろうとしたのだが、やはりというか、リーズに引き留められて一緒に話を聞くことになった。

 それに、異文化のことが気にならないかというとウソになる。


「ジャア、何から聞きたい? 色々話してあげる!」


 急遽先生になったイムセティは、つつましやかな胸をえへんと張って、子供たちからの質問を受け止めようとする。

 それに対し子供たちも「何食べてるの」とか「どれくらい暑いの」だの「どんな魚が釣れるの」などなど、素直な質問を投げかける。

 が、その中で一人だけ、おずおずと手を上げながら意外な質問を投げかけた。


「イムセティさんの国では、神様のことをどう思っているのですか?」

「「!!」」


 マリーシアの言葉にリーズとアーシェラが一瞬身構えた。

 しかしマリーシアの表情は、意外にも張りつめているようには見えず、純粋な疑問として聞きたいという姿勢が見て取れた。


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― 新着の感想 ―
[一言]  こんばんは、御作を読みました。  マリーシアさんの視野が広がってきましたね。  何度も折れそうになりながら踏ん張れる根性があるので、成長したら頼りになりそうなんだけどなあ。  どうなるのか…
[一言] あ、これ、イムセティとマリーシアで『神様』を指す物が違うというか、 そもそもイムセティ達の国にGODって概念が存在するかどうか。
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