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勇者ちゃんの新婚生活 ~勇者様が帰らない 第2部~  作者: 南木
―白虎の月2日― 旅立ちの日
233/273

転落

 リーズやアーシェラは何となく察していたが、ティムはこの村に来る前、天涯孤独の身だった。もう一人の新人であるフィリルは、姉こそ失ったがほかの家族が健在であるのと対照的だ。

 そして、この村に流れ着いたからには、家族を失った理由は愉快なものではないだろうことは想像に難くなかった。


「実は俺……こう見えても、貴族の、地方の領主の家の生まれなんです。そこまで裕福じゃありませんでしたが『あの日』まではほとんど何不自由なく過ごしていた…………と思います。けど、あれは10年くらい前、俺が5歳か6歳くらいの時、仲が悪かった親戚の家族が、突然どこからか軍勢を率いて領地に攻めてきたんです。幸い……俺は使用人たちに守られて別の親戚の家に逃げ延びました。けど、父さんと母さんは、結局…………」


 元々、ティムの一家と親戚の領主は領土の豊かさにそれなりの差があったせいか、仲がとても悪く、ティム自身もその親戚の領主によい印象を持っていなかった。

 だが、まさか直接戦争で領土を奪いに来るとは思っておらず、その上どこで雇ったのかかなり大勢の兵士を動員したようだ。


 これは後で分かったことだが、件の親戚はティムの一家を妬むあまり、なんと邪神教団の甘言に乗ってしまい、彼らの兵を借りてティム一家の領地を滅ぼしてしまったのだった。

 結局、その親戚自身も邪神教団に取り込まれた挙句生贄としてささげられてしまい、一帯の領土は現在で無惨に荒廃したままとなっている。


「逃げた先でも安心はできませんでした。当時は邪神教団があっちこっちで村や町を荒らしたせいで、ほかの親戚たちも僕らを養っている余裕はないって、たらいまわしにされました。使用人もお給料がもらえなくてほとんどいなくなって……ようやく落ち着けたのが3年前、小さな村の神殿で、孤児として引き取ってもらえました」


 あちらこちらで厄介者扱いされ、煙たがられ、もはやどれだけの場所を巡ったかもわからない放浪の旅は、ティムを不憫に思った神官に引き取られたことでようやくひと段落した。

 ティムを引き取った神官は名をイェオルといい、やや老齢ではあったが穏やかで人当たりがよく、子供のティムでも将来生活ができるようにちょっとした仕事のやり方をいろいろと教えてくれた。


「俺にとっては、イェオルさんだけが唯一親と実感できた人だったと思います。厳しく叱られることもありましたが、それ以上にいろいろ教えてくれて、今こうして村で仕事ができているのも、イェオルさんのおかげだと思います」

「素晴らしい方ですね……! やはり神官たる者、どのような地にいても、その高い志は持ってしかるべきです! …………あれ、ですがその方は今いずこに?」


 ティムを苦境から救った神官の話を聞き、マリーシアも同じ女神に仕える者として鼻が高いようだ。が、同時にふと疑問がわいた。

 そのような素晴らしい神官と生活していたティムが、なぜ今この村で生活しているのか。答えは単純にして、一番聞きたくないものだった。


「亡くなったよ。去年の春の終わりにね」

「っ!!」


 神官イェオルが元々老齢で体力が落ちていたというのもあるが、季節はちょうど長雨の時期で、日々雨に濡れながら仕事をしたことで病に倒れてしまったのだ。

 病を治すのも仕事の神官自身が倒れてしまうと、ほかの神官に術をかけてもらわなければならないが、ティムがいた神殿にいた神官はイェオルだけだったので、必然的に近くの町の神殿を頼るほかなかった。


「俺は必死で隣町まで走って、そこの神殿の神官にイェオルさんの病気を治してほしいってお願いしました。けど、断られました。忙しいから自分で何とかしろって」

「そ……そんな」

「ま、ただでさえ辺鄙なところにある村なのに、雨まで降ってたから、めんどくさくて行きたくなかったんでしょうね。何度頼み込んでも、その神殿の人たちには野良犬のように追い払われて…………何もできずに村の神殿に帰ったら、イェオルさんはもう……」

「それは……辛い話だね。本当に、よく話してくれた」


 その時のことはティムの中でも最大のトラウマになっているのだろう。

 振り絞るように語る彼の唇は震え、拳も強く握られ、爪が皮膚に食い込んで今にも突き破りそうだった。

 いつも人の話を冷静に受け止めるアーシェラでさえ、ティムが語る悲惨な思い出に思わず絶句してしまった。

 だが、無情にも話はまだ終わらない。


「イェオルさんのお葬式は村の人たちと一緒にやりました。本当は神官さんがいないと、女神様の元に行けないって言われたけど、代わりの神官さんがなかなか来なくて…………結局、代わりの神官が来たのは夏の終わりくらいでした。そして、村に来た代わりの神官が、よりによって助けを求めた僕を追い払った人だったんです」

「なるほど。さては、神殿内でもいろいろともめた挙句、なし崩し的に責任を取らされて派遣されたんだろう。はぁ……その先の展開も何となく想像できるよ。ティム、君はその代りに来た下っ端神官さんに、どうしてあの時見捨てたのか詰め寄ったんだろう。で、相手はこう言ったはずだ。君は嘘をついているってね」

「えっ!? なんでそんなことも分かるんですか!? やっぱり村長さんは凄い術の使い手!?」

「いやいや、術なんていうたいそうな物じゃないよ。人っていうのはある程度状況や環境が似てくると、自然と同じような行動をしちゃうんだよね。そうじゃなきゃ、今ティムはこの村にいなかったはずだし」


(シェラってば……術じゃないっていう方がよっぽど凄いんだけど……)


 もちろん今後一切することはないと思うが、アーシェラには隠し事は通用しないだろうなと、リーズは改めて思ったのだった。


 アーシェラが想像した通り、隣町の神殿では村の住人からの陳情を無視した結果、ワンオペ神殿の神官を見殺しにしてしまったことが責任問題になった。

 当然、僻地の神殿なんて誰も行きたくないに決まっているので、神殿内でグダグダと数か月も揉めた挙句、ティムの嘆願を無碍にした一番下っ端の神官が出向させられる羽目になった。

 そうなると、ティムをはじめ村の人々からどうして神官を治療してくれなかったのかと問いただされることになるわけだが、神殿の立場としてまさか「めんどいので追い払った」と言えるわけがない。

 そこでその下っ端の神官はこう答えた。


『この子が神殿を訪れたことはない。本当に来ていれば、我々はすぐにでも駆けつけただろう』


 普通に考えれば、こんなたわごとを村人たちが信じるはずはない。

 が……不運なことに、この神官の言葉を真に受けてしまう人が村の半数ほどいた。


「特にあの村の村長さんがあの神官の言葉をうのみにして、俺を嘘つき呼ばわりしたのが決め手でした。俺は……数日後に村を追放されました。着の身着のままで追い出された俺は…………もう、何もかもどうでもよくなって、生きていても仕方ないって思って、そこら辺の岩の上に座って人生が終わるのじっと待つことにしました。足が痛くて、喉も乾いて、おなかもすいて、でも一歩も動けなくて…………けど、気が付いたら俺は馬車の中にいました。ギリギリのところで、運よく近くを通りかかったロジオンさんたちに助けてもらえたんです」


 こうしてティムはこうしてティムは通りがかりの隊商に加わり、その後は隊商の主人のつてでザンテン商会で丁稚奉公することになったのだが、その働きが目に留まったことで、アーシェラの村に派遣される貴重な人材になったのであった。


実ティムの裏設定をどっかに紛失したせいで、思い出すのにだいぶ時間がかかってました……

しかも結局正確に思い出せなかったので、新しく練り直しました。

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